1話「二人の行方」
気が付くと私は白い空間の中に居た。
「おかしい、私は・・・、どうなった?」
大型トラックとぶつかった、それは覚えている。
衝撃も凄かった。
大好きなプロレス選手の握手会の時にしてもらったビンタの何倍もの衝撃だった。
あの時のビンタも一瞬意識が刈り取られ、ファンにやる威力かと一瞬思えるほどの・・・。
「プロレスの話しはもう良いわよ。」
思案中に後ろから話しかけられ体がびくっとなった。
そうだ、それどころでは無い、大型トラックとぶつかったのだ。
体に傷は・・・無い。あれだけの衝撃を受けたのに。
これだけ強靭な体だったのか、もうプロレスファンじゃなくプロレスを始めても良いんじゃないだろうか?
そうだ、そうしよう。
プロレス会に殴り込みを・・・。
「プロレスの話はもう言いわよ!」
やれやれだ、人が想像を膨らませてるっていうのに。
振り返るとそこには空中に浮かぶ座布団に座った女性が居た。
空中に浮かんだ座布団?!
「アンタは何もんだ?」
「やっと自己紹介が出来るわね、私は神よ」
「とんでもねえ、あたしゃ神様ですってか?それを信じろと?」
「そうねぇ、では、荒木絵流、深井真央の行方を知りたくないかい?」
「神隠しだと騒がれていたが・・・まさか本当に?」
「そうとも言えるわね」
「やけに含みを持たせてくれるじゃないか?私も攫おうってか?」
「攫ったのは私じゃないわよ、攫ったのは異世界の神よ」
「異世界の神・・・ね」
「あら?もっと噛み付くかと思ったけど、素直に受け入れるのね?」
そう、受け入れよう。
あの日二人が消える少し前に私は絵流に言われていた。
一緒に異世界へ行ってくれないかと、正直信じてなかったのだ。
だから今でも後悔している、あの時私が拒否してなければきっと今頃は・・・。
そう考えるとどうしてもこの質問をしたくなる。
「真央は絵流に異世界に連れて行かれたのか?」
「ただのプロレスバカでは無いようね」
「絵流は異世界の神なのか?」
「違うわね、神では無いわ、その遣い」
「絵流の目的はなんだったんだ・・・?」
「はっきりとした事は知らないわね、ただこの世界の知識を彼女は求めていたでしょう?」
「だから図書館に・・・、何故真央を異世界に連れてったんだ?」
「知らないわ、貴女も誘われていたのでしょう?」
「あぁ・・・、誘われていた」
「でも断った」
「・・・。」
「後悔してるのでしょう?」
「あぁ・・・。」
「会いたい?」
「・・・、会いたい」
会いたい・・・。口に出してしまうと余計にその思いが強くなってしまった。
忘れようとした、二人の事を、プロレスに嵌ったのもそのせいだ。
悪者ぶって最後に倒される道化、悪の花道。
自分が悪だと決めそれに徹する姿勢が眩しく思えてしまった。
自分が悪だったと。
馬鹿にせず、ちゃんと話を聞き、受け入れてあげれば良かったと。
「私、会っても良のかな?」
「貴女次第ね、でも残念ながら真央さんにはもう会えない」
「何故?」
「彼女はもう転生してしまったわ」