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Loop5「露呈される真実に心は乱れ」

 ふと自分が心地好い微睡の中にいる事に気付く。幸せ絶頂の夢の中のようで目覚めたくない。このままオレは深い眠りにつこうとしていた。なのに何かが気がかりを感じて、意識が目覚めてしまった。


 ――なんだ? オレなにしていたんだっけ?


 徐々に視界が明確になっていくと、隣にスヤスヤと眠っているライのドアップがあって度肝を抜かれる!


 ――うわっ!


 思わず声を上げそうになった口を手で押さえる。気持ち良さそうに眠っているライを起こすのは悪い。それからオレは視線を巡らせる。


 ――確かオレは……ライとガッツリ結ばれたんだよな。


 散々躯で愛を語り合った。オレ初めてだってのに、一度火を点けたライは獣の如くオレを無茶苦茶に愛した。荒れ狂う嵐よりも燃え上がる炎よりも熱かったぞ。


 ――今何時だろう?


 窓の外はスッカリと暗い。時計に目を移すと夜の十時を少し過ぎたぐらいだった。その時刻を見た時、オレはある重要な事を思い出した。


「反乱軍は!?」


 オレは躯を起こす。この時間は確か反乱軍が王宮に侵入して……ライが殺されていた時間だ。ライは今オレの隣できちんと息をして眠っている。ホッとオレは胸を撫で下ろすが、王宮が気がかりだ。


「反乱軍は王宮を攻めていないぞ。というか攻められないよう事前に采配を振ってある」


――え? ……今の声。


 オレは心臓が飛び出しそうなほど驚いた。今の声は……ライだ。彼は目覚めていた。オレの心臓はドクンドクンドクンと爆音を立てる。ライはゆっくりと起き上がり、真っ直ぐにオレの瞳を捉える。


「どうして……いやどうやってオマエは反乱軍の存在を知った?」

「そ、それは……」


 ライから鋭く問われ、オレは視線を逸らす。ループする前の出来事なんて、とても答えられないし、女神との約束もあって話せない。


「まぁそれはいい。話しておくが今夜王宮に入る予定だった反乱軍は王政に不満をもつ民衆の集団だ。そして、それを利用した他国の殺し屋が混ざっていた」

「え?」


 思いもよらない話をされて、オレは逸らしていた視線を合わせる。ライの眼差しはさっきとは打って変わって怖かった。


「殺し屋の目的は王宮の珍しい秘宝を狙っていたみたいだ」

「ちょ、ちょっと待て! なんでそんな話をライが知っているんだよ!」


 反乱軍と戦ってもいないのに、なんで詳細を知っているのか不思議でならない!


「今日の計画が実行される前に、殺し屋の主犯者を捕まえているからさ」

「え?」

「最近オレが姿を現さなかったのは主犯者を捕まえる為だったんだ」


 オレはみるみると目を見開く。ライの「急いで終わらせたい案件」というのが、反乱軍と関わっていた殺し屋を捕まえる為だったのか。


「主犯者ってよく捕まえる事が出来たな」

「それはレイン。きっかけはオマエがくれた」

「え? オレ? な、なんで!?」


 ――な、なんでオレが関係しているんだ!


「オマエがキャメルを助けた時に捕まえた男が吐いた」

「え? もしかしてソイツが主犯だったのか?」


 こう言っちゃなんだが、あんな弱っちい奴が殺し屋だなんておかしな話だ。その違和感は当たっていた。


「いや、あの男は違う。あれは利用された駒に過ぎない。そして他にも駒は多々いた」


 ライはオレの言葉を否定した。


「それじゃ主犯者は誰だったんだ?」


 オレの問いにライの表情は無機質へと変わって、周りの空気が澱んだ。なんだこの変化?


「ライ?」

「レイン。信じ難いかもしれないがこれが真実だ」


 ライの瞳が恐ろしいほどギラリと光る。


「主犯者は……あのキャメルだ」


 ――え? 今、ライはなんて?

 

 オレはうつけたように放心となる。

 

「ちょ、ちょっと待てよ、ライ! いくらなんでもキャメルが主犯だなんて有り得ないだろう!?」

 

 オレは身を乗り出して食ってかかる! あんな虫一匹も殺さないような可憐な美女が、殺し屋だなんて懐疑心を抱かないわけがない!

 

「レイン……」

 

 ライが憐憫の色を帯びてオレを見つめる。どうしてそんな顔をするんだよ!

 

「信じ難い気持ちは分かる。オレも最初に聞いた時は信じられなかった。でも確実に証拠を押さえていって、最後にキャメルへと辿り着いたんだよ」

「そ、そんな」

 

 オレは今にも泣き崩れそうになる。そんなオレにせめてもと、ライは経緯を説明し始めた。

 

「まずはキャメルの身分だが、男爵令嬢という貴族の称号なんてものはもっていない。徹底的に調べ上げた結果、彼女は生まれてすぐに孤児院で育てられ、しかも幼い頃に誘拐されている。その後の経緯は分からないが数十年後、彼女はある殺し屋組織のトップとなっていた」

「う、嘘だろ?」

 

 あんな可憐な笑顔を零すキャメルの過去が壮絶過ぎて、オレの思考はついていけない。

 

「すべて本当の事だ。そしてレインがキャメルを助けた時に捕まえた男だ。何故キャメルを襲ったのか。取り調べで男は衝動的にキャメルに手を出したと言っていたが、オレは釈然としなかった。あんな人通りのある場所で行うには不自然に思えたんだ」

「そういえば……」

 

 オレもあんな白昼堂々と犯罪行為をオープンするゲス野郎だと思ったんだよな。

 

「だから “オマエのやった行為は重罪だ。この先ずっとオマエは牢獄生活だ”と、脅しをかけた。すると男は態度を一変して喋り出し、自分はキャメルの頼まれて襲うように見せかけただけだと白状した」

「キャメルが? 一体なんの為に?」

 

 オレの問いにライは一瞬だけ目を細めた。口元が実に重々しいように見える。

 

「オレにキャメルを助けさせる為だ」

「な、なんだそれ?」

 

 そこまでしてやる目的ってなんだ? 思案してみると、ある考え・・・・へと至った。

 

「あんな芝居までしてライの気を引こうとしたって事か!? いくら芝居と言っても、あれは大事おおごと過ぎる! あそこまでするぐらいキャメルはライに惚れてたのか!」

 

 オレは舌を巻いて問いただす! 女の執念というのは恐ろしい。いや性別は関係なく人間性の問題か。冷静になって考えてみれば、確かにあの時、都合良くライが現れたよな。

 

「そんな色恋沙汰な話じゃないんだよ。その前に順を追って説明するけど、オレがキャメルを助ける前に、オマエが彼女を助けた事によって、奴等に大きな誤算が生じたんだ」

「そ、そうだったのか」

 

 オレはたまたまあそこを通っていて、危険に晒されているキャメルを助けようと思っただけなのに、それが余計なお世話だったとは皮肉な話だ。

 

「男のシナリオでいえば、オレが現場を見つけたら一目散に逃げる予定だったらしい。そして残されたキャメルはオレと接触しようと考えていた」

「やっぱりそれってライと仲良くなりたかったからじゃないのか?」

「……確かに親密な関係になろうとしていたみたいだ」

「やっぱそうじゃないか!」

 

 オレはライをなじるような声高に声を上げた。

 

「とはいってもオマエが考えているような意味はないんだって。キャメルはオレと親密になる事によって、今夜王宮に侵入する計画を立てていたからな」

「は? なんか話が飛躍してないか?」

「目的は王宮に侵入して秘宝を掻っ攫う事だ。そこで王宮に住んでいるオレを利用しようとしたんだよ」

「そ、それはつまり……」

 

 ――まさかだよな?

 

 オレは血の気が引きそうになる。あのライが殺された事件……反乱軍を手引きしてしまったのはライだったというのか? キャメルを王宮に連れて来る展開になっていた? そしてライは殺し屋か反乱軍の誰かに無残な殺され方をされた。 

 

「その計画はレインがキャメルを助けた事によって崩された。男が捕まってしまったからな。あの時、キャメルが妙に青ざめていたのは襲われたからじゃない。男が口を割らないか恐れていたんだ」

「あ……」

 

 そうだ、そこでオレは思い出した事があった。

 

『あ、あの男はどうなるのですか?』

 

 と、酷く震えて問うキャメルの姿だ。どうして男の事なんか気にしていたのか、それはあの男が自分の計画を暴露しないか恐れていたからだ。

 

「まぁ、男はキャメルが王宮に侵入する計画までは知らなかったようだ、あの男はあの時に利用されただけの捨て駒に過ぎない」

「殺し屋の仲間にしては頼りない奴だもんな。……そういえばライ、キャメルを家まで送って行ったが大丈夫だったのか?」

「……いや、それが」

 

 ライが妙に口ごもる。これはなにか有りました的にしか見えないんだが?

 

「まさか……殺されかけたとか!?」

「いやそうじゃない。……色気仕掛けに誘惑された」

「はぁ?」

 

 物騒な出来事ではなくて良かったものの、オレにとってはとんでもない不快な事だ! ライは罰が悪そうな表情をしていた。

 

「だから言いづらかったんだって」

「納得だ」

 

 オレは無機質な顔でボソッと零した。あの日の夜、オレの部屋にやって来たライに問うたけど、なにも無かったと誤魔化されていたのか。もっと疑いをぶつけておけば良かったな。

 

「その誘惑に乗ってないよな?」

 

 オレは訝し気な視線をライにヒシヒシと送って問う。

 

「バカ言え。男の取り調べもあってオレはすぐに拘置所へ向かった。それにその時のオレの頭ん中はオマエの事でいっぱいだったし、誘惑はキッパリと断ったよ」

「!! ……そ、そ、そうだったんだ」

 

 オレは急にしおらしくモジモジとした気分になった。

 

「そうだよ。あの時にオレは自分の気持ちに気付いたんだからさ」

 

 改めて言われると歯痒いですって、ライさん。ってモジモジと恥じらっている暇はない。まだ本題が終わっちゃいないのだから。

 

「オレにも拒まれて完全に計画が狂ったキャメルが次に手を打ったのがレイン、オマエに危険を向ける事だった」

「え? オレ? ……あ! 最近やたら変な輩に絡まれたのはキャメルの差し金だったのか!」

「そうだ。計画を妨害された腹いせに、危険がオマエのところに及んだのもあるが、一番の理由はオマエを亡き者にすれば、オレの心は傷心し、そこをつけ込んでまたオレに近づこうとしていたみたいだ」

「とんでもない話だな」

 

 ――人を殺そとしていたなんて何処まで腐った奴等なんだ!

 

「全くだ。オレはレインに危険を向けた男達を徹底的に吐かせた。中には殺し屋の仲間も混ざっていたおかげで、最終的にキャメルへと繋がったわけだ。レイン、オマエが危険に晒されている時に守ってやれなくてゴメン。キャメルを捕まえる証拠を集めるのにかなり手間取っていた。せめて信頼と腕のある騎士なかまに、オマエを守るよう頼むのがやっとだった」

「それは気にするなよ。ライが心配するほど、オレは危険な目に遭っていないからさ」

 

 オレが笑顔で応えると、ライはホッと安堵した顔を見せた。そこでオレは気になっている事を訊く。

 

「さっき反乱軍は王宮を攻めていないと言っただろ? という事はもうキャメルは捕まっているのか?」

「あぁ。今夜、殺し屋を含む反乱軍を捕まえる為に、奴等を故意に泳がせた。オレを利用して王宮に入る事が失敗したとはいえ、トップのジュラフ騎士団長とオレが不在という情報を流しておけば、奴等は最後の機会だと思って攻めてくると考えた。こちらも個別で捕まえるよりも、今夜を利用した方が一気に片が付けられると思ってさ。王宮にはジュラフ団長率いる騎士が待機していた。もうとっくに反乱軍達を押さえているだろう」

「そうか、それは良かった。不謹慎に思うかもしれないけれど、王宮にライが行かなくて良かった」

「それは特別に団長がオレに休暇をくれたんだよ。主犯者を絞り出した成果にって。好きな子の誕生日ぐらい一緒に祝ってやれってさ」

「!」


 オレを驚いて感動する。団長凄く良い人だ。敵が攻めてくると分かっていたのに、ライに出動命令を出さなかった。しかもオレの誕生日を一緒に祝ってやれって。

 

 ――家族をこよなく愛する男は素晴らしい! 

 

 感動しているオレとは打って変わって、ライは複雑そうな顔をしていた。

 

「レイン、オマエはジュラフ団長に今夜、反乱軍が王宮に侵入する事を仄めかしたようだな。何処でその情報を得たんだ?」

「そ、それは……深い事情があって言えない、でもオレは殺し屋や反乱軍とは全く繋がってないからな!」

「それは知っている。正義感の強いオマエが道理に外れるとは思っていない。だが、団長がとてもオマエを心配していたのは確かだ。オレから報告受けたキャメルに関する事件と、オマエから聞いた予言が見事に繋がったからな」

「…………………………」

 

 オレはなにも答えられなかった。キャメルも捕まってライと結ばれた今なら、本当の事を話しても大丈夫だろうか。オレの勝手な行動でライが死んでしまうような事があってはならない。

 

 ループした話なんて信じるだろうか。それに元はオレが男だと言ったら、かなり引かれるんじゃないのか。このまま答えられずにいたら、ライに不審がられて通じ合った心が離れていくかもしれない。懊悩した結果、オレは話す事に決めた。


「ライ、実は……」

 

 オレが口を開いた時だった。

 

 ――?

 

 微かに空気の異変を感じた。どうやらそれはライも同じようだったみたいだ。

 

「外が騒がしくないか?」

 

 下の階で誰かが話している。こんな時間に来客か? しかもこの部屋にまで声が聞こえてくるなんて、かなりでかいぞ。オレとライが不思議がっている間に、階段を駆け上がる音が聞こえてきた。

 

 ――え? まさかこの部屋に来ようとしている?

 

 オレとライは慌てて服を着る。予想通り数人の靴音がこの部屋の前で止まり、ドンドンドンと扉を荒げた音で叩かれた……。


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