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聖女もちょっとやべー

ちょっと短かったので加筆して修正……て、まだ短い!?w

 応じるマークトは、完全に反応が遅れていた。


 ロータリーの高速回転する鋼の爪が眼前に迫り、それでやっと事態を把握したのだ。


「あ、僕、死んだ……」


 その場に棒立ちになったまま、無意識に呟く。


 この事態に対する、それがマークトの反応であった。


 確かに……日本の農業の現場においても【不幸な事故】というものは必ず存在する。


 いわゆる【ロータリーの巻き込み事故】という奴である。


 統計が何処にもないので実数は不明だが……運転者の子供や孫が犠牲になったという不幸な話もある。


 実際、ロータリーに巻き込まれて無事でいられるはずがない。 ましてそれを意図的に狙われたら。


 だが……ここは異世界であった。


「【隕石落としマジックハンマー】!!」


 強大な魔力の放出と共にそう叫んだのはマークトの連れ、爆乳ツンデレツインテ幼馴染さんだった。


 隕石落下という【自然現象】を魔法で模した【隕石落としマジックハンマー】。


 隕石と言っても……この世界の人間は【宇宙】や【地球】という概念を理解していないため、【隕石】とは【なんか急に上から降ってくる石】という程度のもの。


 衛星軌道を外れた星間物質が地球の引力に引き寄せられたなどというイメージではないので、どうしても本物の隕石ほどの威力は無い。


 だが……その分狙いは正確だった。


 どがあぁっ!!


 ツインテさんが放ったそれは、トラクター☆☆☆のロータリーを真上からぶん殴っていた。


 マークトを耕すはずだったロータリーは地面にねじ伏せられ、本来の【大地を耕す】という機能を発揮していた。


 そしてついでに……トラクター☆☆☆の全力の後進にフルブレーキを掛けるという役目も。


 大地を鋼の爪が食い破る音が、大騒音となって周囲に響く。


「……ちっ」


 想定外の制動に身体を大きく揺らしながらも、運転者であるバイオレンスハゲエルフはまだ戦意を失っていなかった。


 すかさずシフトチェンジし、トラクター☆☆☆は獣の咆哮をあげながら前進し、マークトたちといったん距離を取る。


 ……当然、後輪はその場で激しく空転して大量の土砂をマークトたちに叩きつけていた。 それは追撃を防ぐけん制にもなっていた。


 マークトたちの追撃を封じながら、バイオレンスハゲエルフは数十メートル一気に後進する。


 ヒャッハーという空耳が聞こえてきそうなほどの、荒々しい駆動だった。


「ま、マークト……大丈夫!?」


 抗戦の合間にできた一瞬の間に、ツンデレ幼馴染さんはマークトに駆け寄る。 抜け目なく……言っとくけど心配なんかしてないんだからねっなどと付け加えながら。


 遅れて妹ズが、二人とトラクター☆☆☆の間に入った。


 血戦の緊張の中……ぽよんぽよんという音がサラウンドで聞こえそうなその光景に、マークトはやっと我に返っていた。


「(や、ヤバイ……このじぃじ、ヤバすぎる……っ!!


 ていうか、あのトラクターも何なの!?


 【隕石落としマジックハンマー】食らって、傷ひとつついてなさそうなんですけどっ!?)」


 内心で驚愕しながらマークトは、後方に下がったトラクターに視線を向ける。


 エンジンを大きく何度も空ぶかしさせながら、バイオレンスハゲエルフは再突入の機会をうかがっているようだった。


 マークト一行とバイオレンスハゲエルフの対峙。


 鋼の獣の咆哮が響く中、重い沈黙が産まれていた。


 鋼の獣の咆哮と、マークトたちの緊張した呼吸の音が、その場に響いていた。


 軽々しく口を開く者はいなかった。


 ………その横で、バイオレンスハゲエルフに熱い視線を向ける【聖女】が不意に、軽々しく口を開いた。


「あらあら……梶田さんを怒らせちゃったんですねー。


 ……まあ、諦めてください。


 あとで私が治療してさしあげますから。


 死に立てほやほやなら、どーとでもなりますし」


 緊張の中、【聖女】がのんきな口調でそんなことを言っていた。

 【聖女】の言葉に反応は二つに割れた。


「(どーとでもなるって……それ聖女が言って良い言葉!?)」


「「「(どーとでもなるなんて……さ、さすがは【聖女】様)」」」


 唖然とするマークトに、感動に打ち震えるヒロインズ。


 バイオレンスハゲエルフが一時距離を置いたため、【聖女】に毒気を抜かれた一行に、奇妙な沈黙が舞い降りていた。


 その時だった。


「おじいちゃーん!!」


 さくらだった。


 沈黙の中、さくらはぶんぶんと拳を振り上げながら声を張る。


「おじいちゃんは強いんだから……弱い者いじめしちゃ、だめでしょー?」


 唇を尖らせ、ぷんすかした様子で声を張り上げるさくら。


 その姿に、マークトは……かっくん、と軽く脱力感を覚えた。


「(い、いや……弱い者って言われると若干心外なんですけど……まぁ確かに梶田さんに若干おくれをとったけど。


 ……て、その梶田さんは……?)」


 肩を落としながらマークトはバイオレンスハゲエルフに視線を向ける。


 すると……先ほどまで必殺の咆哮をあげていたトラクターの上に、バイオレンスハゲエルフの姿はなかった。


「(あ、あれ、梶田さんは……ていつの間に!?)」


 慌ててバイオレンスハゲエルフの姿を探す一行……いつの間にか、さくらの身体を抱き上げて上機嫌な梶田の姿が、マークトたちの目の前にあった。


「(は、はやっ!?)」


 マークトは驚愕を隠せなかった。


 バイオレンスハゲエルフのその移動速度は……もしかしたら音速を越えていたかもしれない。


「うむその通りだまったくもってその通りだこれ以上ないくらいにその通りだ。


 世界で一番強い俺が、弱い者をいじめてしまってはいかんな。


 俺としたことが(ふひーっ!! さくらに強いって言われたさくらに強いって言われたさくらに強いって言われた)、うっかり間違ってしまった(さくらに強いって言われたさくらに強いって言われたぅぁぁああ!!!!!!!)ようだな……。


 たしかにオマエの(じぃじ冥利につきまくるぅぅぅぅううううう!!)言う通りだ」


 面妖な心情を爆発させながら、バイオレンスハゲエルフは渋い口調で静かに言うのだった。


 先刻までの必殺の狂気は……そこには全くなかった。


 その瞬時の変わり身に唖然とする一行だったが……それを意にも介さず、バイオレンスハゲエルフはさくらの身体を肩の上に乗せ換えながら一向に声をかける。


「……何をしてる。 さっさと俺の家に行くぞ。


 今日は何故か気分が良い。


 お前らに、とっておきの飯と酒を食わせてやる。


 出荷する為の農薬まみれの【毒餌】じゃなく……百姓が、自分の家用に作った【食料】ってやつを食わせてやるぜ。


 【百姓の本気】をみせてやる」


 【日本の生産農家が絶対言ってはいけないこと】を言いながら、バイオレンスハゲエルフは不敵な笑みを見せていた。

「(そんなことより梶田さん……ょぅι゛ょを肩車とか……う、うらやましい……)」


 マークトは、静かに思っていた。

「(そんなことよりさくらちゃん……梶田さんに肩車してもらうとか……う、うらやましい……)」


 【聖女】もまた、そんなことを思っていた。

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