聖女が望む奇跡2
短いw
「ああ、えぇと……治療でしたよね」
【聖女】犀川は、ため息交じりにそう言ってヒロインズに視線を戻す。
そして、もう一度ため息をついた……さくらが運転するテーラーの荷台の上で、ヒロインズが五体投地の勢いで跪いていたからだった。
「「「こ、ここ……このようなところで【聖女】さまにお目通りが叶いましたること、ここここれこれこれ以上なななない栄誉にございまして……」」」
まさしくガクブルという風にヒロインズは顔を伏せたまま最上級の敬意を見せていた。
「……【このようなところ】で悪かったな」
鼻を鳴らしてから、トラクタの座席から突っ込むバイオレンスハゲエルフ。
そちらに愛想笑いを見せてから、【聖女】犀川は、もう一度テーラーの荷台に視線を向けた。
「……あら。 四人だったんですね?」
犀川の言葉通り、荷台には三人の少女と……もう一人、マークトの姿があった。
ただしマークトは……荷台の上に、仰向けで転がされていた。
不審そうに見る犀川に、梶田が注釈を加える。
「ああ、そいつ、新しい【日本人】だ。 マークトって言うらしい」
「あら……そうなんですか。 新しい人って結構久しぶりですね」
西洋人の顔立ちの男を【日本人】というハゲエルフに、それを平然と受け入れる【聖女】。
マークトの【転生者】という事情を理解できるだけの事情が、この二人にはあるようだった。
「あらあら、随分なイケメンさん……という事は、やっぱり【転生者】さんですね。
私も【転生】者だったらよかったのに……私は【転移】組ですからね。
【転生】してないから、姿かたちは冴えないOL時代と変わらないままだし。
【転生】してれば、【転生特典】とやらで魔法や身体能力が上がって美人さんになって………農作業も楽にできただろうにねえ。
……おっと、治療治療」
そう言うと犀川は、クラス【聖女】を展開した。
途端に……さくらの時と同様、周囲の空気が神殿のように荘厳なものに変わった。
「……もう、回復魔法でいいですよね……【エリアヒール】」
さくらの時と違って、ずいぶん雑な施療であった。
しかしそれでも【聖女】の身体は神々しく輝き……マークト一行の身体を癒やしていった。
「「「 !!!!
せ、【聖女】さま自らの回復魔法だなんて…… 」」」
もちろんセリフは少しづつ違うが、ヒロインズは大体似たようなセリフで感動を見せていた……が、【聖女】にとっては見慣れた光景である。
どういたしまして、とばかりに愛想笑いを向け、施療を終息させようとした時……【聖女】は、あることに気が付いた。
眠っていると思っていた男……マークト。
そのマークトの体力が、まだ回復しきっていなかった。
「(そんなに重傷だったのかな……って、ええええ!!)
か、梶田さん!?
この人の胸当て、なんかメッチャ凹んでるんですけど!?
まるで至近距離でショットガンで撃たれたみたいになってるんですけど!?」
絶叫みたいな口調で問う犀川に、バイオレンスハゲエルフは、当然のように応じる。
「……大袈裟だな。
ちょっとショットガンでツッコミを入れただけだ。
散弾も鉛粒の代わりに塩粒が入ってるからな」
「本当に撃ってた!?
それ昔、アメリカで実際にあったやーつ!!
でも当たり所が悪かったら普通に失明したり死ぬ奴ですから!!」
叫ぶように、立て続けに突っ込む犀川。
【聖女】と呼ばれ、かつそれに相応しい嫋やかさと実力を兼ね備える彼女の、猛々しい突っ込み。
理知的に見える彼女は、目の前のさまよえる子羊を見ながら……心の中で静かに叫ぶのであった。
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「(……ああでも、そんなアホかわいい梶田さんも、素敵……っ!!)」
彼女もまた、残酷で冷たいこの世に揺蕩う一匹のあほあほヒロインであった。
ちなみに、犀川さんのモンペは、ハゲエルフに貰ったものです。




