【国】とは何ぞや2・【一九人の王】
……実に久々の投稿ですw
「ん? 結婚? ああ、いいよー」
ハイファの父、七代目ピアス王国国王ミハイルは、ゆるーい感じでマークトの言葉に応じていた。
その風貌は、『ミハイルおじさん』とでもいうべき柔らかい微笑に禿げ上がった頭頂部、側頭に残る白髪の毛髪、そして昔に怪我でも負ったのか、頭皮に痣のような傷跡が残っている。
無論、マークトの問いかけは『おおおお父さんを下さい』ならぬ『娘さんを下さい』という言葉だった。
つまり……マークトの求婚に、家として応じるということ。
まったくもって想定外の快諾に、マークトは却って【状態異常:目がナルト】に陥っていた。
ピアスに至っては……【状態異常:嘘、私の年収低すぎ】に陥っている。
「ああああのあのあの、い、いいいんですか!?
なななんか『色々と』事情があるっているし……ぼ、僕にはまだ……話さなきゃいけないことがあって……」
状態異常の中、なんとかそれだけの言葉を紡ぎだすと、マークトはミハイルの顔を真剣に眺めた。
応じるミハイルは、変わらぬゆるーい言葉を口にするのだった。
「いいよいいよー、結婚でしょ?
まあなるようになっちゃったんなら、しょうがないよねー」
……世のお父さんがすべてこんなだったら、新郎さんが胃痛を味わうことはないだろうに。
高価な服、というわけではないが、平民と変わらぬ裁縫の服、しかし手入れの行き届いた上品な衣装……そのまま穏やかな表情で、ミハイルは続ける。
「それに……結納には過ぎた物品をもらったしね。
ていうかこれ……どうしよっか。
あはははー、ナニコレ。
金貨五〇〇枚(五千万円相当)はともかく……【上位薬種カエルの干物】×九九?
【地竜の牙】×九九?
【上位悪魔の角】×九九?
ここらじゃ換金できないし、どーすんのこれ、あははははー」
対面するテーブルの横に積まれた【☆☆☆級アイテム】の山に、ミハイルはゆるーく笑う。
まさしく……快諾、という様相であった。
想定外、まさに予想範囲外の事態に、マークトとハイファは顔を見合わせていた。
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あと、【暗殺者】のスキルで邸内に潜伏していたミリアとリリアも、【状態異常:この世の終わり】となって顔を見合わせていた。
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帰郷の翌日である。
マークトは早速ピアス王国亡命政府ならぬ、ハイファん家に赴いていた。
事情があっていろいろ変わってしまったが……まさしく、子供のころから親しんだ『ハイファん家』である。
『一緒に遊んだり』『裸で一緒にお風呂に入ったり』『一緒の布団で抱き合って寝たり』……という記憶は【転生の女神】に封印されてしまったが、二人にとって思い出深い場所の一つである。
そんな場所でそう遂げることを報告するというのは……どの当事者にとっても感慨深いものであろう。
それだけにマークトも当日、夜も明けぬうちから『おおおお父さんを下さい、お父さんをくくく下さい、よし、あと一〇〇回』と発声練習し、意気込んで臨んだ結納式である。
ミハイルの言葉ではないが、『まあなるようになっちゃった』二人。
そこに『いろんな事情』が絡むとはいえ……実は【慢性ツンデレ症候群】だったマークトと【ステージ移行型ツンデレ症候群】ハイファの似た者同士が惹かれあい、なるようになり、そして……実家にその報告を受け入れられたのだ。
それは万人に祝福されるか爆発を祈られるべきことであろう。
実際……遅れて理解し始めた二人、その強張った表情が、ゆっくりと緩んでいきつつあった。
しかし……マークトの表情が、再び硬くなった。
ゆるーいミハイルの言動に飲まれて忘れていたのだが……思い出したのだ。
それはすなわち、【結納】の原因ともいうべき、『いろんな事情』そのもの。
本来ハイファは一年後【生贄】となってその命を散らすこととなっており、またそれを防ぐための【結納】。 また、マークトが【勇者】であることも告げてはいない。
その点を問いかけるため……マークトは、唾を飲み込んでから口を開く。
「あ、あの、ミハイルおじさ……というか……こ、国王陛下、て呼んだほうがよ、よろ……痛ッ」
盛大に舌を噛むマークトに……ミハイル・ピアス七代目国王は一瞬、硬い沈黙を見せた。
「……………。
あははははー、それねえ……まあ、いいんじゃない?
娘から聞いたよ。 マークト君、きみ【勇者】だったんだってねえ。
そうかぁ……あの、マークト君が【勇者】ねえ。
すごい偶然もあるもんだよねえ……まあ、私もこれで解放されるよ。
確かに私はミハイル・ピアス七代目【国王】……まあ没落しちゃって威厳も何もないけど、それに縛られた私の役割も、これで終えられそうだねえ………。
つまり……マークト君、きみが王位継承権第一位ハイファ・ピアスと添い遂げ、【マークト・ケイ・ピアス八代目国王】になってくれるってことで、いいんだよね?」
思いもかけないミハイル・ピアス七代目国王の言葉、それにマークトは動揺を隠せなかった。
「えええええええええええええ!? 僕、婿養子ですかっ!!??
えっ、ちょっ……苗字変わるのかぁ……ちょっと複雑な心境だなぁ……」
そこじゃない気がする。
唐突に語られた王位継承に、その場にいた者(と、暗殺者スキルで【潜伏】していた者)は、愕然としながらその場に立つことしかできなかった。
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いろいろ考えていたのは、何だったのか。
マークトは素直にそう思っていた。
まず、マークトが【勇者】であることはあっさり受け入れられ、ハイファの【生贄】の件はすんなりと解消されそうだ。
そして、二人の仲を認めさせるための『国を立ち上げる』という事業も、マークトが【八代目国王】となることですんなりと解消されそうだ……まあ、【開拓村】規模の自称【秘密の王国】ではあるが。
あまりにもあっさりと事が進み、本当に……本当にマークトは、魂が抜けてしまったかのように放心していた。
まあ本来、両親に対する結婚の報告も結納式も、こんなものかもしれない。
基本的に……親というものは、娘の幸せを願っているのだから。
娘の望む道を歩かせてやりたいのだから。
「ふむ……では早速、王位継承といこうかなあ……」
ミハイルおじさんは、今からピクニックにでも行こうかというような口調で、幸せな二人に語り掛けた。
「へ、陛下……痛ッ」
「お父様……っ……!!」
殿上語に全然慣れないマークトと、幸せ絶頂といった感じのピアスに向かい、ミハイル・ピアス七代目国王は高らかに宣言した。
「王命により命じる。
マークト・ケイ・ドゥーイン、ならびにピアス王国王位継承権第一位ピアスハイファよ。
永遠に互いを愛し合うことを命ず」
「「 ……王命、承りました!! 」」
国王の言葉に間髪を入れず、二人は跪いて同じ言葉を発していた。
晴れやかな表情を、二人は、見せていた。
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牧歌的な……まさしく、のどかな田舎の昼下がり。
厳かに、二人の【父】の前で、結婚の詔が発せられていた。
涙ぐんで、互いの顔を気恥ずかしそうに見る二人。
その目の前で、【儀式】は進行していった。
「並びに………マークト・ケイ・ピアスよ、そなたに、ピアス王国八代目国王を命ず。」
その真剣な言葉に、マークトは慌てて姿勢を正した。
「は、ははっ!! 謹んでお受けいたします!!」
言いながらマークトは、内心で苦笑していた。
たしかに。
ピアス王国は……すでにほぼ滅亡した国である。
すでに開拓村レベルに落ちぶれた国家、その国王……まあ、村長みたいなものか。
と……そこでマークトは思い出していた。 異世界日本人村の面々の顔である。
「(あ……ヤバ……あの人たち、どうするんだろう。
国を作るとか言ってたよな……なんか俺、流れですでに【国王】になってしまったわけなんだが……。
戯れに……『滅ぼす』とか言わないだろうな、あの人たち……)」
その思考が不安となって顔に出てしまったのか、その表情を見た先代国王にゆるーく言葉をかけられた。
「あはははー、大丈夫かね? やはり不安かね?」
「はっ、いえ、そのような……痛ッ」
「では、『儀式を続け』てもいいかな?」
「えっ? あっ、はい」
マークトは少しためらっていた。
正直に言えば、今更何の儀式が必要だというのか。
もと【王国】とはいえ、吹けば飛ぶような開拓村。
過去の栄光に囚われているのだろうが……儀礼に固執するというのなら、それは滑稽といってよい。
だがしかし、【先代国王陛下】とはいえ、幼いころから知るオジサンである。
儀式があるというのだというのだから、まだ何かあるのだろう。
そう思い、マークトは完全に無防備に、頭を垂れた。
その頭に……【先代国王】は冷徹に告げた。
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「ピアス王国国王固有スキル【一九人の王】発動。
【勇者】マークトよ、我が【一九人の奴隷】に列せよ」
静かに……穏やかな笑顔で、ミハイルおじさんは言い放っていた。
瞬間、マークトは無意識に【魔法抵抗】し……失敗。
全身に至る激痛に、思わず絶叫していた。
【一九人の王】……いわゆる【五%の法則】というやつです。
詳細は次回……いつになるやらw




