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その頃の三人

 さてその頃。


 例の、ドローンの上……小人コロポックル鈴木さんは、浮かない顔をしていた。


「んー……まいったなぁ………」


 苦悩が、自然と口をついて出る。 もちろんそれは、ため息と同時に。


 レベルでいうなら【伝説級】【英雄級】の偉人先人たちの倍以上のレベルを持つ、【異世界日本人村】の住人が、である。


 その彼女がこんなにも思い悩んだ顔を見せるなんて………世界の終わりが来たのかもしれない。


 もっとも、極小の隕石がほぼ光速に近い速度で南極大陸に衝突してセカンドなインがパクトってしまっても何とかしてしまいそうな人たちなのであるが。


 すでに日は暮れている。


 日本の夜とは違い、完全な闇の中だった……その中を、小人コロポックル鈴木さんは飛行していた。


 それでも小人コロポックル鈴木さんが完全なる夜間飛行を実施できていたのは、彼女に【オートマッピング】機能と【レーダー】機能がついていたからである。


 それはまさしく、初心者や中級者向けRPGのごとく。


 それを彼女は利用し、完全なる【夜間レーダー飛行】を成し遂げていたのだ………【この世界】は【転生者】に優しいようであった。


「あ……佐藤さんと山田さんだ。 おーい!!」


 レーダーで見知った反応を発見し、鈴木さんは幾分表情を明るくさせ、声をかけながら降下を始めた。


 実際そこには……【九七式側車()付自動二輪車()】にまたがったままのドワーフ佐藤さんと、巨大な狼の死体(防腐防臭加工済み)に片手を置いたままのダークエルフ山田さんがいた。


「おう、ご苦労さんじゃったな」


「お疲れさまですー」


 小人コロポックル鈴木さんに気付いて、手を振るドワーフ佐藤さんとダークエルフ山田さん。


 しかし……その表情は、小人コロポックル鈴木さんと同様に浮かないものであった。


 その二人の間に滑り込み、ドローンを滞空させたままの小人コロポックル鈴木さん。


 小人コロポックル鈴木さんは二人の表情に苦笑を見せていた。


「やっぱり………そっちも同じ結果だったのかな」


 微かに疲労を感じさせる苦笑。


 そんな小人コロポックル鈴木さんに、ダークエルフ山田さんが同じ表情で応じる。


「……ですね。 これはさすがに、予想していませんでした………」


「……そうじゃな。


 やれやれ……マークト君や【村】の者たちに何と言っていいのか……」


 二人に追随するドワーフ佐藤さんも、お疲れ気味だった。


 三人は、同時に大きなため息をつく。


 沈黙が、数秒……やがて三人は同時に顔を上げた。


「「「 ほんっと、調べれば調べるほど、ピアス王国って、ゴミだな!!! 」」」


 【どっと笑い】の三人は、今回もきれいな唱和を見せていた。

 【ピアス王国】とは……一〇〇年ほど前に滅んだ国である。


 その名の通り、ピアス王族を頂点に戴く、王制国家である。


 そしてピアス王族はもちろん、マークトの嫁こと【ハイファ=ピアス】が所属する一族だ。


 それを『再興させて遊ぼう』とするのが暇を持て余した神々……もとい、【異世界日本人村】の住人たちだったはず。


 その構成員の一部である三人……しかし今は、吐き捨てるようにしてその国の名を呼んでいた。


 憤懣やるかたなしといった様子で、鈴木さんは続ける。


「なんともはや……ピアス王国ってのは、とんでもない国だったんだな!!


 税率七割八割は当たり前!! 普通は見逃す裏作にも完全課税!!


 そこへきて、人頭税まで徴収!! ……普通、一次産業に人頭税なんか取らないだろうに。


 そして納税のための納品の一団にまで通行税と関税を取る!!


 ていうかこれ……国民は税だけで完全赤字だろうに。


 逆に、国民はどうやって生きてきたのか、不思議なくらいだな……」


 あきれ果てたように言う鈴木さん……フィギアサイズの小さな巨乳が、プルンプルンと以下略。


「……それだけじゃないですよ。


 まあある意味定番というか……見目麗しい娘は片っ端からお手付き。


 【向こうの世界】でも悪名高い【初夜権(花嫁の処女は領主のもの)】はもちろんのこと、道端で王族に見つかった若い娘は片っ端から手籠めにされる、場合によっては紅顔の美少年まで。


 ……なかなか性に開放的な王族だったようで。


 おかげで、国民の数十パーセントに王族の血が入っているらしいですよ。


 なるほど、『開かれた王族』ってそういう……」


「こらこら、山田君、そんな『開かれた皇室』みたいな言い方をすると、一部の【日本人】に怒られるぞ?


 それに……なんでもな、国民は……生まれた時に【奴隷化】の魔法をかけられるらしい。


 それは、すべての国民に対して、じゃ。


 国民全員を文字通り【奴隷】にして、成り立つ国。


 『貴族と平民』どころか『人とそれ以下』。


 何とも思い切った……というか、思い切り過ぎた政策じゃな。


 その反面、『奴隷じゃから【犯罪】も起きないし起こせない』し、『国民全体が貧富の差もなく同じようなレベルの生活』……ある意味、ユートピアだな……」


「佐藤さん、それ、【ディストピア】って言わないかい?


 なるほど……そういう意味では、安定した国だったんだな………」


 しみじみとそんなことを言う小人コロポックル鈴木さん。


 その言葉に、ドワーフ佐藤さんとダークエルフ山田さんもそのまま沈黙する。


 静寂が三秒。


 二秒。


 一秒。


 ゼロ。


「「「 ほんっと、ピアス王国って、クソだな!!! 」」」


 【どっと笑い】の三人は、再びきれいな唱和を見せていた。

「ああああああ、もう!! ていうか……どうしよう。


 こんな国、復興したって仕方ないよね?


 ていうか、絶対復興しちゃいけないよね?」


 がっくり肩を落としてから言う小人コロポックル鈴木さん。


 応じてダークエルフ山田さんが深く考え込むような表情を見せる。


「……ふむ。 それはそれで面白い気はしますが。


 ある意味、【社畜大国日本】のようですよね」


「「 おい!! 」」


 鈴木さんと佐藤さんが、指先まできれいに伸びたツッコミを、山田さんに向けた。


 それに、山田さんは肩をすくめて見せる。


「………冗談ですよ。 でも実際、どうします?


 『国を興すんだー』なんて【村】のみんなに大見得切った手前、何らかの形を見せないといけないでしょう。」


「むー、確かになぁ………」


 ため息をつきながら応じる小人コロポックル鈴木さん。


 しかし………誰も言葉を継ぐ者がいなかった。


 数分に及ぶ沈黙………一行に、重い静寂が舞い降りていた。


 やがてゆっくりと言葉を継ぐ小人コロポックル鈴木さん。


「言い出しっぺは私だし。


 しょうがない……とりあえず、マークト君に相談してみるかあ……」


 重い口調で沈黙を割る小人コロポックル鈴木さん。


 決して……本人がいないところで、妙な地名や人名でその名を呼ぶことは、なかった。


 あと……真剣な表情で組まれた腕の間で、小さな巨乳がいい感じに以下略。

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