故郷へ5
しばらく更新してなかったのは、えぇと……ゆるいキャンプのお話とスマホのお話と異世界の食堂のお話を、全話視聴してたからですw
で。
間違いとは言え唐突な【拾われっ子】宣言を受け、放心した様子の妹ズが落ち着くまで、しばらく時間がかかった。
結局そのまま再度の家族団らんとなったのは……数時間後の夕食の時間であった。
そしてハイファも帰宅のために席を外した為、親子水入らずの夕餉。
……まあ、マークトという【よその子】がいるため、遺伝上の【親子水入らず】ではなかったが。
父トーレスと兄マクシミリアンとマークトとミリアとリリア、計五人で囲む食卓。 食事は使用人代わりの隣人何人かによるものだ。
食事の内容は……【平民にしては豪華な】といったレベル。
なんと九割以上が小麦粉という、割と白くて割と柔らかい、しかも保存用ではないため塩辛くないパン。
刻まれたベーコンが、数えるのがめんどくさい程度には浮いているスープ。
そしてとどめは……一番安いワインが混入されていない、二番目に安いワインだ!!
まるでお祭りの日かというような豪華なメニューは、当然、マークトたちの無事の帰還を祝うためのものだった。
「「「 (【異世界日本人村】に帰りたい……) 」」」
出された食事に(ひきつった)笑みを浮かべるマークト一行であった。
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「で……僕は結局、どういう身上なんだ?」
あとで自分のアイテムボックスを漁って、バイオレンスハゲエルフから餞別に貰ったレトルトパックをこっそり開封することを決意しながら……形だけぼそぼそのパンを小さくちぎって口に運びながら、マークトは静かに問いかけていた。
その問いかけに……皆の【楽しい】食事の手が止まる。
「ふむ………そうだったな………」
木製のコップを机の上に置きながら……応じたのは父トーレスだった。
「……お前は……覚えていないか? 【本当の】両親の事を。」
ぴくん。
父トーレスの言葉に、マークトの身体が一瞬硬くなった。
しばらく沈黙を置いてから、マークトは静かに答える。
「………覚えていない、よ」
正直……マークトが自分が【日本人】であることを思い出したのは、九歳の時であり、【日本人】として死亡してからそれまでの記憶は、ひどく曖昧だ。
唯一鮮明に残っているのは、【転生の女神】を名乗る女に【レベル制MMOみたいな世界に転生】することを宣告されたこと。 あと……【教育上、九歳までは魂を封印】するとも宣告されたこと。
九歳の誕生日にそれを思い出し、今でもその時感じた恨みは根深く残っているが……それを除いて、マークトは八歳以下の記憶をほとんど持っていなかった。
家族全員の名前と、異世界の言語や習慣は知っていた……その程度。
空気の読めるマークトは、【転生】したことがバレないよう、細心の注意を以って、周囲の人間の名前などの【知識】を探り探り収集していったのであった。
なお、九歳の子供に直接転生したわけではない事は確定している……それは【異世界日本人村】で【暦】を確認したからだ。 【平成】と【昭和】の違いこそあれ、マークトは間違いなく一五年前に【転生】していたようだった。
「ふむ……まあそうだろうな。
お前が我が家に来たのは……奇しくもミリアとリリアが生まれた日だった……」
そう言って父トーレスは遠い目を見せる。
「その時、俺はしばらく家を空けていてな。
はっはっは。
実は母さんの妊娠も知らなかったんだ。
いやもう、母さん怒った怒った」
「いやいや……それは怒られるでしょうよ……」
父トーレスの言葉に、マークトは呆れながら応じていた。
要するに父は、若い頃は放蕩三昧だったらしい。
父は続ける。
「で、一計を講じたわけだ。
実は、生まれてくる娘の為に最高の伴侶を探して旅をしていたのだとな。
そして適当に拾ってきたのがお前だ……まあ捨て子や経済的に困窮した若夫婦なんてざらにいるから。 調達自体は楽だったな」
「雑っ!!? そしてなにその五秒でバレる適当さ!!??
もしかして僕、泣いてもいいんじゃない!!??
泣いてもいいレベルの『可哀想な子』だよね!!!???」
マークトは無意識に、心の底から突っ込んでいた。
「いや、しかし、母さんは信じてくれたけどな」
「母さんチョロすぎない!!??」
「ああ、母さんはチョロかった……なにせ、俺の人生最初の相手は母さんだったしな。
その時も、ほんの一言二言で………」
「……だからそういう余計な情報は要らないって言っただろ!!
ていうか、地獄へ落ちろ!!!
極悪非道のクソ親父!!!!!」
マークトの立て続けのツッコミ。
父トーレスの口から出た【真実】に、他の兄妹も同様の呆れ顔を見せる。
「……母さん……昔から優しい人だと思ってたけど……本当はチョロいだけだったのか……」
「「 ……私たちも、甘い言葉には気をつけよう…… 」」
ドン引き、と言った様子で呟くマクシミリアンと妹ズ。
マークトに隠しスキル【鈍感】がなければ、妹ズに『おまいう』と突っ込んでいたことだろう。 もしくは『おまチョロ』と。
四人の子供たちから白い目で見られ、父トーレスは苦笑した。
「いやなに。 その分、周囲の人間からはこっぴどく怒られた。
先々代からは、いっそ俺を廃嫡してマクシミリアンを後継に立てるとまで言われたな。
さすがに俺も反省してな。
心を入れ替えて、そこから後は……現在に至る、だ。」
「なるほど……『浮気はバレないようにしよう』と心を入れ替えたんだな」
「………っ!!」
「父さん、なんで『その手があったか』みたいな顔してんの!?」
ガタンと椅子を押しのけて立ち上がる父トーレスに、マークトは渾身のツッコミを入れていた。
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「ま、まあ……そんなことがあってから、俺は我が家の安定に努めた訳だ。
農耕の傍ら、簡単な商売の真似事もして経営も安定した。
先祖伝来の土地も守り続けたし、ある程度までは発展させた。
世代交代も済ませたし、あとは孫の顔を見るだけという状況だ。
一応、当主としての役割は果たしてきたんだぜ?」
言い訳がましく言う父に、子供たちはジト目で応じていた。
しばらく眺めてから……子供たちはやがてため息をついた。
確かに……父の言葉は真実だ。
ドゥーイン家はこの村において名士であるし、ささやかな財産もある。
世代交代を経て家が衰退していないというのは、その代の当主の成果と言うべきであろう。
本人の人間性はともかく……当主という職務を完遂したという事には変わりがなかった。
それが解った上でのため息だった。
「で………ミリア、リリア、どうする?」
唐突にミリアとリリアに問いかけたのは、マークトだった。
一瞬遅れて、二人の顔がさっと青くなった。
「こんな親父たちと僕………どっちに付く?」
神妙な口調で言うマークトに、二人は慌てて問い直す。
「兄………今、ここで聞くの?」
「兄………今、ここで言うの?」
問い質す二人の言葉に……マークトは真剣な口調を崩さなかった。
突然のマークトの言葉に、父と兄が戸惑うように顔を見合わせる。
構わず、マークトは続けた。
「父さん、兄さん……僕の今回の帰郷には理由がある。
単刀直入に言う。
僕は……報告に来たんだ。
僕は……ハイファと結婚することにした。
覆す気はないよ……そのための【妨害】は、すべて排除することにした」
マークトの言葉に……邸内の空気が、ふいに固くなっていた。




