故郷へ3
街道と言うのもおこがましい、馬車の轍が微かに残る程度の道を進んだところに……故郷の村はあった。
「兄……村が見えてきた」
「兄……もうすぐ着く……」
一行の前を歩くミリアもリリアも、懐かしさからか、少し高揚した様子で振り返ってマークトに微かな笑みを向ける。
「ほぼ二年ぶりかしらね……本当に懐かしいわ」
隣を歩くハイファも、少し嬉しそうにマークトに笑みを見せる。
【帰郷】……と言っても、故郷を飛び出した先で事業に失敗したり犯罪を起こして都落ちしたり借金を申し込むために帰ってきた訳ではない。
それどころか……【冒険者】として【そこそこ】成功しているマークトたちにとってそれは、【凱旋】と言っていい【帰郷】だった。
少なくとも、村を飛び出した時に比べ、お財布の中身は数万倍に跳ね上がっている。
何ら恥じることのない【帰郷】に……ヒロインズたちは嬉しそうだった。
しかし。
応じるマークトの表情は、少し浮かないものだった。
「お前らは………気楽でいいよな……」
どよよーんと表情を沈ませ、マークトはため息さえついていた。
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マークトにとってこの帰郷は、心躍るものではなかった。
マークトには……やるべきことがたくさんあったからだった。
まず第一に………【結婚】の報告。
ハイファに婚姻を申し込み、ハイファがそれを受諾した。
それ自体は慶事だが……根っこが日本人であるマークトにとって、気の重い出来事であった。
日本人にとって【結婚】とは【儀式】であり、【儀式】でもあり、そして【儀式】である。
「(報告と挨拶を兼ねた【結納】だろ?
それと【結納金】に【婚約指輪】……あ、そうか、【結婚指輪】も買わないと。
で、【友人顔合わせ】に【式場予約】……あと何やらなくちゃいけないんだ?
異世界に【ぜくしー】ってないのかな……?)」
少し疲れた様子で悶々と考え込むマークト君であった。
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また、やらなければならない事は他にもあった。
そのうちの一つが……マークトの出生の秘密についての確認だ。
妹ズ曰く……父親がどこかから連れてきたと言っていた。
「(うーん……この辺については、記憶が完全に朧気なんだよな。
そもそも僕が【僕】であることを思い出したのは九歳の時だし。
だから今さら【よその子】って言われてもさほどショックはないんだけど……。
……まあそれを言ったら、ハイファが王族の末裔で、うちが忠臣の家系って事もそうなんだけど。
アウェー感が半端ないな………)」
ヒロインズの笑顔を眺めながら……マークトはもう一度ため息をついていた。
「(あと……【勇者召喚】の件も。
ハイファを【生贄】にして【勇者】を【召喚】する予定だったってことだけど。
……まあこれは僕が【勇者】ってことを説明すればいいだけか。
けど……村の皆はどういうつもりだったのかな?
【勇者】を【召喚】して【王家再興】って……周辺国でも攻め滅ぼす気だったのかな?
そもそも【勇者】を【召喚】したところで……どうやって従わせる気だったんだろう?
ハニー系の報酬? それとも……【奴隷化】でもする気だったんだろうか。
いずれにしても……ハイファを犠牲にしようとしてたのは許せないな)」
ぎりっ。
マークトは……無意識に、腰から下げた剣の鞘を握りしめていた。
そしてそれは……マークトの中に封印されていたモノの顕現を現していた。
古代より、世人はそれを……【デレ】と呼んでいた。
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