お知らせ7
「えーっと、【石化】の解除ってどうするんだっけ?
【聖女】の犀川ちゃん呼んでくる?
それとも【錬金】系の村人からそれっぽいアイテムを貰ってきたらいいのかな?
【石化】って呪いなんだっけ?
それとも【麻痺】とかと同列の【状態異常】?」
ようやく笑いがおさまったのか、小人鈴木さんが腕を組みながらその場に固まったままのヒロインズを見上げる。
「………いや、そういうのじゃないですから。
多分、放っておけばそのうち復活すると思いますよ」
げんなりしながら静かに突っ込むマークト……そのマークトに、鈴木さんが微笑を返す。
「そっか。 私、そういうのに疎くってね。
このサイズだからほとんどの魔物や魔獣に気付かれずに接近できるし、油断もされる。 あんまり、攻撃や特殊攻撃を貰う事がないんだよ」
このサイズ、という辺りで爆乳フィギアの身体の一部がどぷりーんと揺れた。どこが、とは敢えて言わない。
小人の超【おおらか】なその発言に、マークトはとりあえず日本人的微笑で応じた。
何と言っていいかさえ分からなかったからだ。
「しかし……面白くなってきたねえ。
【亡国の美姫】なんて。
マークト君も、これから大変だねえ」
「(ぬおっそう来た!? もはやわざと言ってるのを隠す気もない!?)
大変って……なにがですか?」
「だって……手伝うんだろう? 【王国再興】とやらをさ」
「………へっ?」
マークトは思わず、素で問い返していた。
そして思い出す……先ほどのヒロインズたちとのやり取りを。
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ハイファは、自身を【亡国の美姫】と言った。
ミリアとリリアは、その護衛兼御目付けと言った。
そしてハイファが【勇者召喚】の儀式の生贄となり、【召喚】した【勇者】を以って【王国再興】に充てる、と。
しかし……マークトがハイファを嫁に取ることを宣言し、それを受諾しようとしたところで、ミリアとリリアがそれを阻止しようとした。
察するに、ハイファが【処女】でなければならなかったのだろう。
古来より、【生贄】は【穢れなき乙女】と相場が決まっている……【処女厨】は有史以前からも存在したという紛れもない証拠である。 逆に言えば、【処女厨】とはそれだけ歴史のある一族なのである。
が……それを解決したのが、マークトが【日本】出身である事。
【日本】という【異世界】から来たものは、だいたい【勇者】となると決まっているのだ。
仮に【勇者】でなくとも、【日本】出身者には【チート能力】と【チート知識】が備わっているに【決まっている】。
世界はそういう風にできているのだ。
であれば。
マークトが【王国再興】を手伝うのは当然、と鈴木さんは考えているようだった。
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「そ……そんなバカな!?
ど、どうして僕がそんな大それたことを……」
「おや、キミはその娘を【嫁】にするんだろう?
だったらそれくらいはしてやんなきゃ。
なあに。
しょせん、ただの【王国再興】だ。
【転生者】だったら、それくらいの甲斐性を見せなきゃな」
腕を組んだまま、ドン、とそんなことを言って見せる鈴木さんだった。
「はは……冗談……ですよね?」
ひきつった笑みを見せながら応じるマークト。
それに鈴木さんは大きなため息をついた……と思ったら、鼻息だった。
「全く……しょうがねえなあ!」
にやり。
そんな笑みを残して、鈴木さんは長座卓から飛び降り、畳の上を走ると……玄関に向かった。
「よっと」
そんな掛け声とともに、鈴木さんは……持参して玄関に置きっぱなしになっていた【あるもの】を手にしていた。
鈴木さんが小人の姿のままえっちらおっちら運んできた【あるもの】……それは【A4バインダー】。
すなわち……【回覧板】であった。
それを鈴木さんは、破損した長座卓の上にポンとおく。
マークトは上から目を通す………そこには、こう書かれていた。
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『 【お知らせ】
昭和九三年吉日
異世界日本人村青年部・婦人部
村人各位
次期イベントについてのアンケートを実施します。
各自希望するイベント内容をご記入願います。
以上』
A4用紙に短く記入された文章。
その下には小さい四角がずらりと並んだ【回覧済み】を示す署名欄と……四角で大きく囲われた空欄。
大きな空欄には……すでに文字が書き込まれていた。
『こども会でピクニック』『地域運動会』『二四時間耐久BBQ』……一部頭のおかしい人を除いて、そこにはどこの地域でもありそうな地域イベントが書き連ねてある。
「ちょっと待ってねー。
私の分、訂正するから」
そう言って鈴木さんはボードの上に乗り、ボードに固定されていた筆型ペンを手に取った……当然、【書道】を【パフォーマンス】する【甲子園】的な光景になる。
鈴木さんにとっては超巨大な筆型ペンという事になる……筆型ペンに『スリムタイプ』と書かれているのが、妙にシュールだった。
そして鈴木さんは全身を使って……まず『邪神ダンジョンタイムアタック』と書かれた文字を二重線で消した。
「ちょ……この村、近くにそんな物騒な名前のダンジョンなんてあるんですか!?
ていうか、タイムアタックってすでに攻略前提じゃないですか!!??
……ていうか、鈴木さん、メッチャ達筆ですね!!!???」
さっそく立て続けに突っ込むマークト。
筆型ペンを担ぎ上げながら、鈴木さんは嬉しそうに笑顔を向けた。
本人すら知らないが……実は隠し称号【書聖】を持っていた。
「あっはっは。 何気にそれは自慢なんだよ。
まあ、こんな生活してて役に立つことは無いんだけど。」
そう言って少し照れたように応える鈴木さん。
そして鈴木さんは……パフォーマンスを始めた。
おそらくは……パフォーマンス書道に筆型ペンが用いられた世界初(?)の稀有な例である。
それを上から覗き込むマークト……その顔が、次第に青くなっていた。
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『イベント案:王国復興
亡国を復活させて遊ぶのはどうでしょう。 もちろん裏側から。
表側の雑事は新入り君が全て請け負ってくれるそうです。
みんなで楽しく建国してみませんか?』
「ちょ……ちょっ……ちょ……ちょーーーーっ!?
鈴木さん、なんてこと提案してくれちゃってるんですか!?」
蒼い顔のまま激しく突っ込むマークト。
だが鈴木さんは、そのまま筆型ペンのキャップを閉じるとバインダーに固定する。
そして……そのままバインダーを担いで、ぴょん、と長座卓から飛び降りる。
そして……そのままダッシュで玄関に向かっていった。
「じゃあ、これ、そのまま回覧するから。
最後にマークト君に回してあげるからーらーらーらー(ドップラー効果)
最後、村長に渡しといてねーねーねー(略)」
あっという間に退出していった鈴木さん。
その後ろ姿を眺めながら……蒼い顔をさらに青くさせる。
「(……嘘だろ。
総勢百名以上の【勇者】が後ろ盾になって建国って………それ、無数の【王国】を従える【帝国】にならないか!?
って言うか……【世界征服】待ったなしでしょ………俺の将来、【血の王道を征く】かよ……)」
歴史の道は血で舗装されているという。
マークトは……戦場で全身返り血まみれで立っている自分の姿を想像し……絶望しかけていた。
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「(あ……そんなことないわ。
【血塗られた道】はないか。
あの人たちなら……なんか戦術核レベルの魔法や兵器も用意しそうだし。
『ここに敵国ありき』って石碑の立った真っ新な更地が大量生産されそう……日本人って【記念碑】大好きだからな。
あー、小学校の頃、記念碑とかによく登ったよなあ……楽しかったなあ……)」
マークトは、急に己に課せられた【建国】という言葉の重さに……軽く現実逃避していた。
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ほぼ音速に近いと思われる鈴木さんだったが……その歩みが不意に止まった。
帰宅の途上……道端の柿の木の上で、見覚えのあるケモ耳少女がぼんやりしている姿を見つけたからだ。
「あー、タマ君。 君は強制参加だからねー?」
「な……なんじゃ? 藪から棒に、何の話じゃ?」
鈴木さんの言葉に、金毛白面九尾狐は、腕に抱えた男の子をぎゅっと強く抱え直しながら、警戒をありありと見せながら鈴木さんに応じる。
「なに。
君は、今まで国とかを傾けたり滅ぼしたりしてたそうだから。
たまには国を作ってみるのも面白いんじゃないかと思ってね」
「は、話が見えん。 いったいそなたは何を言っておるのじゃ?」
「じゃーよろしくー」
そう言って鈴木さんはもう一度走り出した。 振り返りもしなかった。
天才かアホのどちらかであるらしい鈴木さん、その鈴木さんの中では、会話は成立していたのだろう……しかし、タマの方は全く理解できていなかった。
三〇〇〇年以上前から中国大陸で多くの王朝を傾け滅ぼしてきた彼女。
そして【日本】で調伏され、【この世界】に転生し、【この世界】の【魔物】や【魔獣】に追い立てられ……チート【転生者】たちに保護され、【今は】大人しくしている彼女。
その彼女は……今、自分に何を提案されたのか、全く理解していなかった。
「………?????」
きゃるるるりろれん(擬音)と首を傾け……タマは鈴木さんの後ろ姿を眺めることしかできなかった。




