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お知らせ5

「なるほど……そのが亡国のお姫さまだってのは分かった。


 あと、そっちのちっちゃい妹ズ(ふたり)が、その護衛だってことも。


 けど。


 それがマークト(伊集院)君の命を狙ったってのは……何か理由があるんだろう?


 私は、それが聞きたいんだよ」


 所在なさげにチャージランスの穂先をいじりながら、鈴木さんは静かにヒロインズに問いかけていた。


「「「 …………。 」」」


 ヒロインズは……小人コロボックル鈴木さんの言葉に躊躇しながら視線を交わし合う。


 マークトは……沈黙の中、心の中で突っ込んでいた。


「(良かった……僕の名前、人名に戻った。 まあ、間違ってるんだけど……)」


 沈黙の中、ツンデレ幼馴染さんはやがて……諦めたように言葉を続けた。


「わ、私、ハイファ・ピアスには……使命があるんです」


「使命」


「はい。


 それは……一族の悲願。 すなわち……王国の再興。


 そのための(・・・・・)礎になること(・・・・・・)……それが私の【使命】。


 この二人は、私にそのとき(・・・・)が来るまでの護衛役なんです……」


 静かに……神妙な口調で言うハイファ。


 応じて妹ズが、鈴木さんに視線を向けながら……静かに頷いていた。


「……ふぅん……」


 その三人の言葉に、鈴木さんは……真剣な表情で目を細めながら、静かに応じる。


 三人と、顔をあげた鈴木さんの視線の交差。


 しばらく三人が言葉を継がなかったため、短い沈黙が産まれた。


 その沈黙を破ったのは……マークトであった。


「まて………ちょっと待て。


 ハイファ……今、【礎】と言ったか……?


 それって、まさか………」


 沈黙を割ったマークトの口調が……少し、こわくなっていた。


 同じく、問い詰めるようなマークトの視線もこわくなっていた。


「……う……うん……」


 マークトの反応に怯えるように、ハイファは身を縮めながら応じる。


 そして……震える呼気を吐きながら、ハイファはマークトに応えた。


 その目には……ある種の【決意】が秘められていた。


「わ、私は一年後……王国の【礎】になるわ。


 王国の復活のための、魔法の【儀式】……そのための【生贄】に……」


「 生贄!!?? 」


 がたんっ!!


 長座卓の足が跳ね上がらせながら……マークトは思わず立ち上がっていた。

 マークトの反応に身構えながら……応じたのは妹ズだった。


 恫喝にも似たマークトの言葉に身を縮ませながら、二人は応じる。


にー………言っておくけど……これはもう、覆らない……」


にー………言っておくけど……私たちが育った村は、全て同じ一族に連なるもの……違うのは、お父さんが拾ってきた孤児、にーぐらいのもの……」


「……なっ!?」


 衝撃の事実が、ヒロインズの口から暴露されていた。


 すなわち……ハイファの余命があと一年余りであること。


 そして……本当にマークトと妹ズが血縁関係にないということ。


 それに……マークトは思い切り衝撃を受けていた。


 打ちのめされたと言っても良かった……マークトの思考は一瞬、完全に真っ白になってしまっていたからだ。


 幼少時からの付き合いの三人、その三人からの……衝撃の告白を。


 裏切りと言っていいレベルの告白を。


 三人の言葉は、おそらく真実だろう……マークトは、無意識のうちに理解していた。


 なぜなら、それこそ……幼少時からの付き合い。


 嘘や冗談でこんな重要なことを言う三人ではなかった。


 それでも……それが解っていてもなお無意識に問い返すマークト。


「う……嘘、だろ……冗談、だよな………?」


 震えながら問い返すマークトに、三人は……応えなかった。


「「「 ……………………… 」」」


 無言の、沈黙。


 それがマークトの問いの答えであった。


 重い沈黙の中……ふいに、ハイファがおどけるような口調で口を開く。


「ま、まあ、【生贄】………だからね。


 一族の皆からの……お、温情判決は、あったんだよね……。


 【その時】が来るまでは……自由に生きていいって」


「………」


「だ、だから……私は………え、選んだの。


 【その時】が来るまでは……自由に生きようって。


 【その時】が来るまでは……あなたと一緒に生きようって。


 あなたがただの村人として生きるなら、私もただの村人として。


 あなたが冒険者として生きるなら、私も冒険者として生きようって。


 ………いつかはあなたに話さないといけないのはわかっていたわ。


 けど……【その時】が来るまでは……あなたに知ってほしくはなかった。


 だ、だってマークトは……優しいから。


 私が死ぬと知って……そのまま見過ごせる人じゃないから。


 あなたはきっと、私を助けようとする………そう言う人よ、あなたは。」


「………」


 ハイファの言葉に……マークトは無言になっていた。


 ハイファの言葉は……はからずもそれは、当たっていからだ。


 ハイファは言葉を続ける。 


「け、けどそれは……私としては、ちょっと不満があった。


 あなたはきっと、私を助けようとする。


 私は知っている……【それは間違いない】、と。」


「………」


「……けどそれは……幼馴染として?


 同業者として?


 それとも………恋人として?


 そこが分からないから、私は不安だった………だから。


 だから、今日あなたからプロポーズされて………本当に嬉しかった。


 私があなたに………パートナーとして望まれていたことを知って。


 結婚を申し込まれて。


 そして私としては……その答えは、はい、よ。


 ずっと……好きでした、マークト。


 そしてこれからも大好きよ、マークト」


 いつの間にか、涙をこぼしていたハイファ……しかしその表情は、実に晴れやかだった。


 死を覚悟した人間は、そう言う笑顔を見せるようであった。

 ハイファの真摯な……心の底からの言葉。


 それにマークトは、驚いていた。


 それは……これ以上ないくらいに、真っすぐな誠意だった。


 そのハイファの言葉に……妹たちが静かに頭を振った。


ねー……ねーのその気持ち……私たちはずっと知っていた……ねーがどういう人間かも。」


「そして私たちは……にーの本当の気持ちも、知っていたから。


 にーが……本当はどういう人間かも。 だって」


「「……私たちは……ずっと二人を追いかけてきたから……」」


 妹たちはそう言って……マークトとハイファ、それぞれに視線を向けた。


 沈黙……しかしそれは、長く続かなかった。


 鈴木さんが……ふいに、その場にそぐわないほどの軽さで割りこんだからだった。


「あーっはっはは。


 重たい、重たいたちだねえ……マークト(西院)君も大変だ」


 わりと酷いことを、鈴木さんは屈託なく笑いながら言っていた。


 ………ちなみに西院は、さい、と読む。


「要するに、だ。


 彼女たちは不動産屋みたいに説明責任を果たしたわけさ……自分たちは環境的瑕疵物件であると。


 その上で……判断を、君に委ねられたわけだよ」


「僕に……?」


「ああ。


 環境的瑕疵物件と知って……不動産屋のドアから出ていくかどうか。


 要するに……ここで袂を分かつか、どうか。


 すべてを曝け出して……今ここで、一生の別離するかどうか。


 彼女たちは……そういうレベルで今、君に問いかけているんだよ」


 不敵な笑みを浮かべながら……鈴木さんは、今まで見たこともないほど真剣な目で、マークトの目を眺めていた。


 そして。


「【異世界日本人村】住人、マークト・ケィ・ドゥーイン!!!!!」


 唐突に、絶叫が沈黙を切り裂いた。


 小人コロボックル鈴木さんの、それは【号令】と言っていい大音量の【一喝】だった。


 それはその場にいたもの全員の身体を委縮させていた。


「は……はいい……?」


 ビビりながら……超ビビりながら、マークトは恐る恐る鈴木さんに視線を向ける。


 背筋が伸び切り……訓示を始める軍人のような姿勢で、鈴木さんはふいに、マークトに視線を向けた。


 ただし……その顔には、笑顔が宿っていた。


「マークト君は、どうするんだい?」


「どう……とは?」


「女の子()人、これだけ惚れさせといて、どういう対応をするのかって事さ」


「どういう対応って……え? さ、三人?」


 間抜け面で問い返す【テンプレ転生者】。


 それに、鈴木さんは……口元だけの笑顔を見せる。


「そりゃどう考えたって、()人だろうよ。


 もちろん、その中に私は入っていないけどね。


 この()人は……覚悟を決めてるよ。


 命がけの覚悟をね。


 すなわち………君の判断に、命さえ委ねるという覚悟さ。


 それを惚れてるって言わずになんて言うんだい?」


「………」


「つまり……この()人は、君が死ねと言えば死ぬつもりだよ。


 君が求婚を取り下げるなら……【生贄】の子は【生贄】として死ぬ。


 君が求婚を取り下げないなら……【お目付け】の子は【お目付け】として戦って死ぬ。


 突き詰めて言えば、そう言う事さ」


「………っ!?」


 鈴木さんの言葉に、マークトは三人に視線を向ける。


 三人は……無言のまま、真剣な視線をマークトに向けていた。


 沈黙が、その問いを肯定していた。

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