ケモ耳少女タマ2
「で……なんじゃったかの?
……そうじゃ、かの耳長ハゲからの伝言じゃ!」
タマは自らの亭主をおんぶ紐でくくり直しながら、【聖女】に声をかけていた。
「梶田さんの……っ!?」
きゃるるるん(擬音)と目を輝かせながら【聖女】はタマに言葉を返す。
「……うむ。
何やらこの村に【新入り】が入ったようでな。
その紹介をするから、主だったものは今夜村の【公民館】に集まるように、との事じゃ。
妾は、他の【村人】にも伝えるよう、伝言を頼まれていたのじゃ」
腕を組んでムフーと鼻息を荒げながら……偉そうに伝言を伝えるタマ。
ちなみに……【公民館】とは、ある程度の人口の地方集落によくある、マンションなんかで言う【集会所】みたいな建物である。
共同管理され、催しの場所や災害時の避難所として利用されることもあるという……まったくもって厨二心をくすぐらない名前の施設だ。
「あ……あれか、マークト君だ」
「……知っておるのかの?」
「ああ、うん。
梶田さんにショットガンで撃たれてたから、私が回復させたのよ」
「……………」
【聖女】の言葉にタマは……数秒間、無言になっていた。
「……相変わらずじゃな、あのハゲは。
……まるで、妾があのハゲと初めて会った時のようじゃの。
あのハゲ……容赦というものを知らん」
忌まわしい記憶が掘り起こされたのか、タマはそう言うと自らの肩を抱きながら、深いため息をついた。
「へぇ……そんなことが。
天下の大妖怪が、後れをとったの?
(さ……さすが梶田さんっ!! 後世に名を残した妖怪を手玉に取るなんて以下略)」
だらしなく口元をぽへー(擬音)と緩めながら問い返す【聖女】に【天下の大妖怪】タマは重い口を開く。
「……聞いてくれるな。
というか……【天下の大妖怪】などと、言ってくれるな。
虚しくなるわ……確かに妾は、かつていくつもの城を傾け、国を傾け、滅ぼしてきた。
今風に言えば、【無双】できた。
じゃがのう……今から思えば【あの世界】、【魔法】が発達しておらんかったからこそ、妾は【無双】できたのじゃ。
それが……【この世界】に来てからというもの、どうじゃ。
そこら辺のウサギでさえも【妖術】を使いおる!! しかもなんか凶暴な目と角でこちらを刺してきおるし!!
食物連鎖下位の草食動物でさえこれじゃぞ!?
食物連鎖上位の生き物なぞ、言うに及ばんわ!!
雨のように毒液を飛ばしてくるデカい蛇、炎の大妖術を操るトカゲ、巨木を切り倒すレベルのかまいたちをバンバン打ってくるカラス、服だけを溶かす巨大粘菌……うう、【この世界】の生態系はどうなっておるのじゃ!!??
【あの世界】なら【伝説】級【神話】級のバケモノが野生生物レベルでゴロゴロおるのじゃ……うう、妾は我が夫ムネヒトとともに生き残るだけで精一杯じゃった。
ならばか弱きヒトでも食らうかと思ってこの村を襲ったのじゃが……駄目じゃった。
十にも足らぬ童子に返り討ちじゃ……そこら辺に落ちていた木の枝で、【達人】か【剣聖】かという剣技でフルボッコにされたのじゃ。
もう、プライドなんかズタズタじゃ……。
そこをな、あのハゲに助けられたのじゃ……まあ、その前に、ショットガンで穴だらけにされたがの。
妾はな、もうこの村でひっそり生きていくと決めたのじゃ………」
「(【達人】か【剣聖】って……信長さんかな?)
へぇ………そんなことがあったんだー」
腕を組みながら金毛白面九尾狐の歎息に応じる【聖女】。
がっくり肩をおとす大妖怪の姿を優しく見ながら………【聖女】は、思考を巡らせていた。
「(て言ってもそれ……【転生】した場所が悪かったとしか……。
ここ、【不帰の森】って言われる【魔の森】の最深部だし。
まして……【転生者】【転移者】がゴロゴロしてる異世界日本人村を襲ったのなら……まあ結果は火を見るより明らかよね。
……ああっ、そんな間抜けな元【大妖怪】を助けるなんて、優しい梶田さん以下略っ!!!!)」
聖女の思考は結局……いつも通りの地点に終着していた。
「(ま……黙ってよっと。
ムネヒトくんの為にも……大きくなるまではこの村にいたほうが良いだろうし)」
追加でそんなことを思いながら……【聖女】は元【大妖怪】に背負われた、タマの未来の夫の頭を優しく撫でる。
……ついでに、間抜けな【大妖怪】に育てられる可哀想な幼児に、【加護】を与えておいた。
「(お母さん兼奥さんはこんな人だけど……せめて健やかに育ってね……)」
さくらと同じ【加護】をフルセットで貰いながら……宗仁君は、静かな寝息を立てていた。




