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こども村長2

「なんすか、もー……何するんすかー」


 いきなり後頭部をはたかれ、振り返って文句をつけるノッブ。


 だがそれは、ふいに殴られたことに対する不条理さや痛みを覚えさせられたことによる苦痛を訴えられている訳ではなかった。


「僕を殴る人なんて、梶田さんぐらいのもんっすよー、もー」


 ノッブは……殴られたにもかかわらず、嬉しそうにニコニコしながらそう応じていた。


 察するに、気安くいじられたことがうれしいようだった……たぶん。 彼が【ドM】と呼ばれるエリートスキル持ちでないことを祈るばかりだ。


 おそらくは……ノッブの【前世】を知っていながら、恐縮や畏怖を見せない者は少ないのであろう。 ある意味、バイオレンスハゲエルフ梶田の面目躍如である。


 御年四八二歳、日本史にその高名を轟かせた【織田信長】は、【日本人転生者】としてこの世界の【古竜】として転生し……全てのしがらみと責任感から解放され、のんびりとスローライフを送っていた。

「……うるせえな。 なんかムカついたんだよ。


 まったくおまえって奴は……何をそんなにヘラヘラしてんだ。


 ノッブ……それでも【なんちゃら魔王】かよ」


 ため息を見せながら、腕組みしながら、頭を傾けて見下ろしながら……釣り糸を垂れるノッブに声をかけるバイオレンスハゲエルフ。


 応じるノッブは、ニコニコと肩の力が抜けきった様子で応じる。


「なんちゃらって……【第六天魔王】の事っすか?


 いやぁ、面目ないっす……ていうかそれ、僕が言ったの一回だけなんすけどね。


 ヒゲ達磨が普段の悪行を棚に上げて【天台沙門信玄】なんて言うから……カチンときて『じゃーこっちはこっちは【第六天魔王】だー』って言ったら、広められちゃっただけっすから。


 知ってるっすか?


 応仁の乱より始まった大戦国時代。


 中でも武田信玄は……結構無茶苦茶だったっすよ?


 甲斐国のためだけに周辺国に侵入して根こそぎ巻き上げては甲斐に戻る、良家の妻女は奴隷にして鉱山夫の慰みものにする、不戦同盟は平気で破る……甲斐国人にしたらまさしく英雄っすけど、周辺国にしたら大迷惑、まさに【甲斐の】英雄。


 そんなヤツが【沙門(修行僧)】なんて名乗ってたんすよ?


 ならこっちは【第六天魔王(仏道修行を妨げる魔)】って言うしかないじゃないっすかー。


 それを仏教関係者が過剰に喧伝しちゃっただけっす。


 実際、僕がそれ言ったの、後にも先にもその一回だけっすからね。


 決して自分を神格化したり、偉人だと思い込みたかったわけじゃないんすよ」


 ため息をつきながら説明するノッブ。


 その言葉に、バイオレンスハゲエルフは鼻を鳴らした。


「いやお前……ここで歴史の講義なんぞされてもな。


 だいたい、武田信玄って誰だよ。


 それに俺は、そもそも織田信長ってのがどういう奴だったかってのを、よく知らねえんだ」


 堂々と、これ以上ないくらいの平常運転で、バイオレンスハゲエルフはそう断言していた。

「………マジっすか、梶田さん……」


 自身の説明をバッサリ切られ、ノッブは大いに驚いていた。


 その笑顔はいつも通りだったが……目が、マジの目をしていた。


 言葉にはしなかったが……その目が、おもいきり問いかけていた。


 すなわち……こいつ、本当に日本人か、と。


 その反応に構わず、梶田は続ける。


「ああ、世界史には興味がなかったもんでな」


「………」


「それより……今日お前に逢いに来たのはな、用があったからなんだ」


「………。 ……用?」


「ああ、たまにはお前に【村長】の仕事をさせないとな。


 ……またこの村に、【日本人】が来たんだ。


 【マークト】ってヤロウだ。


 【村長】、すなわちこの村の【顔】として、挨拶してやってくれ」


「挨拶っすか?」


「ああ。 それが筋合いってもんだろう?」


 至極真面目な顔をして、バイオレンスハゲエルフは答えていた。


 バイオレンスハゲエルフは……意外にもこういう【組織内の序列】や【組織のしきたり】を重視しているようだった。


 ……その割には、いきなり村長の後頭部を引っ叩いていたが。


 応じて村長……ノッブは、百点満点の優等生のような笑顔を見せた。


 それは……少女漫画ならバックに花を背負っていそうな、さわやかな笑顔だった。


「わかったっす。


 じゃあ、今夜にでも梶田さんに寄ることにするっす」


 その言葉にバイオレンスハゲエルフは静かに頷く。


「うむ。


 あと、【転移組】の【聖女】やら【転生組】の他の連中やらにも声をかけておくぞ」


「おっ、じゃあ今夜は宴会っすね。


 だったら僕、食材調達にちょっとひとっとびして海まで行ってくるっす」


 そう言うとノッブは背中から……明らかに胴体のサイズに合ってない巨大さの、古代生物の【翼竜】を思わせる【翼】を出現させた。


 古竜種エンシェントドラゴン織田信長ノッブはそのまま超巨大な翼をはばたかせ……空の住人となっていった。


 あとに残されたのはバイオレンスハゲエルフ。


 梶田はノッブのその後ろ姿を見送りながら……静かに呟いていた。


「アイツ、釣り竿を忘れていきやがった……なんだかな。


 後で届けといてやるか……やれやれ。


 【織田信長】って奴は、随分うっかり屋なんだな。


 手元足下が疎かな奴は、大コケするか大コケさせられるか、どっちかってもんだ」


 そう言ってバイオレンスハゲエルフは、来た道を戻っていった。


 彼の評価が正しいかどうかは、各人に任せることとする。


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