追及2
「そ……れは…………」
幼馴染の問いかけにマークトは……言葉を詰まらせていた。
視線を泳がせるように幼馴染から視線を反らし、二人の妹の姿を見る。
「………」
「………」
いつも通り、寡黙な妹たちは今も無言だった……しかし。
その視線はマークトに固定されていた。
その目が……幼馴染の問いと同じ問いかけをしていた。
マークトが、何者なのか。
マークトは……その問いに答えられなかった。
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結論を言ってしまえば、彼は【日本】からの【転生者】である。
しかし……それは彼にとってのアドバンテージであり、秘密であった。
アドバンテージ……つまり、科学技術や文化芸術の進んだ【日本】から持ち込んだ、この世界にはない【知識】や【経験】である。
マークトにはそれがあった。
また同時に……【転生の女神】からの神授である【転生特典】も。
なお、彼マークトの【転生特典】は【身体強化】と【魔法強化】である……意外と地味だった。
【転生特典】、【チート知識】……それらによって彼は、周囲の人間からの【優位性】をとり続けていた。
いわゆる【俺TUEEEE】に【俺SUGEEEE】である。
常に頭一つ以上に周囲から抜きんでており、ヒロインズの通常以上の関心や興味を引いてきた。
その過程や結果の説明は他の【テンプレ転生モノ】に譲るとして……その原因を今、ヒロインズに問いかけられていた。
つまり……【ネタバレ】を求められたのだ。
「………………」
しばらく経っても、マークトは答えなかった。
わかりやすく言うなら、【カンニングで得た好成績に対する説明】を求められている、という事になる。
【本来自分にはなかった実力以上の実績に対する説明】とも。
それに対して非難されているような気がして……マークトは無言になってしまっていた。
「……た……」
釈明しようとしてマークトは、言葉を詰まらせる。
物理的に、喉が渇いていたからだった。
つい先ほどまで麦茶を口にしていたのに……マークトの喉は、いつの間にかカラカラになっていた。
過度に不安を感じたり緊張したりすると、人間はそうなってしまうようだった。
マークトは、もう一度セドリックに貰った麦茶のコップを一気に傾ける。
いつの間にか手まで震えていたためか、口元から麦茶が少し零れていた。
「『……た……?』」
返答を待つヒロインズたちが、返答を促す。
「……たぶん、話しても、解らないと思う……」
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静かに、マークトは、ゆっくりと答えていた。
確かに……ある意味それは問いかけに対する的確な返答ではあった。
【この世界】と【日本】では……文化が違いすぎる。
【輪廻転生】とは川の水のように【魂が循環する】という考え方からくる【霊魂不滅】という概念。
文明の発展に【河川】が重要な役割をした大河流域で自然発生した考え方だ。
キリスト教にしても………古くは【死=無】であり、例外的に【復活】というものがあるだけで、カソリックやプロテスタント派というものが登場して初めて【天国】【地獄】【地獄で第二の死を迎える】という概念が発生したのだ。
【この世界】においては、回復魔法などの【神の奇跡】というものが割と身近にあるためか【天国】【地獄】の概念はあっても【輪廻転生】という概念はない。
つまり、【異世界転生】という概念を、【この世界】の人間は誰も理解できないのだ。
ゆえに、マークトの回答は的確と言っても良かった。
しかし、【説明】にはなっていなかった。
マークトの言葉に、応じる幼馴染の言葉に険が含まれた。
「『説明しても解らない』とは……随分ね。
私は、いままでずっとあなたを見てきた。
あなただけを見てきたわ……つまり、あなたと私は【同じ程度】の【知識】や【経験】があるはず。
その私に、『説明しても解らない』なんて……馬鹿にしないで欲しいものだわ」
取り方によっては熱烈な愛情表現ともとれる台詞だったが、それは真剣な表情で語られた言葉だった。
マ-クトはそれに突っ込む余裕はなかった。
応じて、妹たちが言葉を継ぐ。
「兄、それは私たちも同じ……私たちはずっと兄を追いかけてきた……」
「それでも私たちは兄に追いつけなかった……その秘密がこの村にあるのだと思う……」
「兄、私たちに、教えて欲しい。
私たちは……兄と同じ視線の高さに居たいから……」
真摯な、真剣な三人の言葉と表情。
それに射抜かれ、マークトはまたも無言になっていた。
「…………………」
マークトは、語るべき言葉を持たなかった。
持てなかったともいえる……何故なら目の前の少女たちは、【仲間】だったのだから。
【今まで】仲間だった者たちから……【今までとは違う】目で見られることが、怖かったから。
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「あらあらー、マークトさん、ちょっとよろしいですかー?」
不意に掛けられた声は、セドリックのものだった。
空気を全く読んでいないように思われたが……実際、その声が家の奥から聞こえてきたことからも、マークトたちの張りつめた空気を知らなかったのであろう。
「は、はい!! セドリックさん、何でしょうか!?」
梶田の娘の声に応じながら、マークトは声のする方に歩き始めていた。
逃げた。
要するに、これ幸いとヒロインズの追及から逃げ出したのだ。
「………」
「………」
「………」
背中に三人の視線を痛いほど感じながら、マークトは駆け出すようにその場を離れていた。