ノーキョーのひみつ
「あ、わすれてた!!
おじいちゃん、おかあさんがカレーとコーヒーをかってもらってっていってたよ!!」
挙手をしながら、さくらはバイオレンスハゲエルフに声をかけていた。
「……おせえよ。 もう家に着いてるじゃねえか。
もっと早く言え」
自宅の勝手口前である。
さくらにそう声を掛けられて、バイオレンスハゲエルフはため息をついていた。
「オカアサンガカレートコーヒーヲカッテモラッテッテイッテタヨ?(二秒)」
「……早く言えってのは、早口で言えって意味じゃねえよ(ふひーっ!! す、すげえ! 俺の孫、発想が天才的じゃね!? 頭良すぎね!?)」
静かな口調で言いながら孫バカを発動させるバイオレンスハゲエルフ、今日も平常運転だった。
そしてバイオレンスハゲエルフは、彼の転生特典を発動させた。
「【ゲート・オブ・ノーキョー】より…【∀コープ】を選択、食品一覧を表示。
ふむ……カレーと……コーヒーだったな………」
そう呟きながら虚空に視線をやるバイオレンスハゲエルフ。
そしてそのまま、立ち尽くしたまましばらくブツブツと呟いていた。
「…辛口は駄目だな、さくらがいるから甘口……俺用にガラムマサラもいるな。
コーヒーは一番デカい奴でいいか……」
何もない所に視線をやりながらブツブツ呟くさまは、まさしく【(略)】のようであった。
さすがに心配になってマークトが梶田に声を掛けようとした瞬間……バイオレンスハゲエルフがもう一度口を開いた。
「【購入】、と」
「梶田さん、大丈夫で………ふわっ!!
またなんか出た!?」
要介護者に声をかけるような口調で話しかけたマークトだったが……バイオレンスハゲエルフの目の前に、カレー粉とお得サイズのインスタントコーヒーと瓶詰のガラムマサラが突然出現したことで、それは中断させられた。
「……なんだ、お前。 何をそんなに驚いているんだ?」
【異世界】に、【生産国:日本】と書かれた商品を三つも出現させながら平然と問いかけるバイオレンスハゲ【エルフ】。
唖然としたままその場に固まるマークトに……バイオレンスハゲエルフはさくらに商品を渡しながら、続ける。
「……村の外れでも見せただろ?
ほれ、レトルト食品を大量に買ってやっただろうが。
これは【ゲート・オブ・ノーキョー】の派生スキル、ノーキョー系列にして地方農家御用達のスーパー【∀コープ】だ。
こっちは食料品限定だが……まあ、日本にある食料品なら大概購入できるな。
……言っただろ?
日本の農家と同じような生活ができるって」
日本食から遠ざかって一五年……まだ青い稲にさえ郷愁と食欲を感じるマークトに向かって、バイオレンスハゲエルフは平然と言い放っていた。
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「て……ていうか、梶田さん!
さっきも言いましたけど……それってラノベとかでよくある、【ショッピング系】のトンデモスキルですよね!?
【ネットスーパー】とか【ホームセンター】とかの!!
商品系チートなら、商業的に世界征服することも可能でしょ!?
こんなところで何やってんですか!??」
ほとんど激昂という勢いでバイオレンスハゲエルフに問いかけるマークト。
それにため息をつきながら、バイオレンスハゲエルフは応じる。
マークトに向き直り、腕まで組んでいる……これは、完全にお説教スタイル、と言って良かった。
バイオレンスハゲエルフは、応じる。
「【らのべ】とか【ねっとすうぱあ】ってのはよくわからんが……とりあえず、【こんなところ】って言うな。
あと……こっちもさっき言ったと思うが、【ゲート・オブ・ノーキョー】には制約が多いんだよ。
まず、【ノーキョー】とのやり取りは、基本的にすべて【日本円】となる。
【ノーキョー】も一応【外為】は扱っているが……こちらの世界の通貨は取り扱ってくれねえんだよ。
それに。
金貨や銀貨を潰して貴金属としての取引も取り扱ってねえ。
あくまで、【日本円】しか取り扱ってくれねえんだ。
だから……【ゲート・オブ・ノーキョー】のために【日本円】を稼ぐには、こちらから【農作物】を【納品】するしかねえ。
だがな。
言っとくがな。
【ノーキョー】はな。
こっちが生産したコメ六〇キロ……ほれ、あの頑丈なクラフト紙で出来たデカい米袋一つがだいたい三〇キロだ。
それを二つ分。
しかも一番できのいい【一等米】六〇キロ、それを……【ノーキョー】はいくらで買い取ると思う?」
「え、ええと……」
突然問いかけられ、躊躇しながら考えるマークト。
日本のスーパーで売っている五キロのパック、その値段を思い出しながら、適当に答える。
「二、三万円ぐらいですか?」
「アホか。
銘柄にもよるが……一万円行くか行かないかだぞ?
つまり、一〇〇万円稼ごうと思ったら、コメを【六トン】作らなきゃいけねえんだ。 しかも経費抜きでだ。
【ゲート・オブ・ノーキョー】は確かに便利だが……こちらの労力を考えたら、そうぽんぽん使えるもんじゃねえ。
ふむ、そう考えると……百姓は、【ノーキョー】に踊らされてるような気がしてならねえな……」
「………」
「……制約はそれだけじゃねえ。
いわゆる、【無農薬】で作ったコメ。
……といっても、今の日本じゃ周囲の環境的に完全な【無農薬】ってのは不可能だが、それでも、農薬を全く使わなかったコメ。
これを、【ノーキョー】は、いくらで買い取ると思う?」
「え、ええと……二万円くらい?」
「【買取不可能】だ」
「……えっ?」
「【ノーキョー】はな、【一定量の農薬を使った物】じゃないと、【農作物】として扱ってくれねえんだよ。
しかもその【農薬】は、基本的に自分のところで扱った物だけしか認めねえ。
つまり【ノーキョー】は、農薬をジャブジャブ使った物しか買い取らねえし、販売しねえ。
俺はそこまで気にしないんだが……昔、知り合いの百姓が言ってたよ。
『日本で流通してるコメや野菜は、残留農薬が怖くって食べられねえ』ってな。 実際、百姓が口にするのは自分のところで作ったモノだけだしな。
とは言え……アメリカなんかと比べて日本は農薬を使う量がかなり少ないんだけどな」
「……………………」
日本の食品生産現場のとんでもない裏話を聞かされ、マークトは絶句した……絶句するしかなかった。
……その後背にいたヒロインズには『??????』でしかなかったが。
沈黙してしまった一行に……バイオレンスハゲエルフは不敵な笑みを見せる。
「まあそんなに心配するな。
お前らには……さっきも言ったが、百姓の本気を見せてやるよ。
『完全無農薬』『完全無肥料(化学肥料)』で作った【百姓の本気】ってやつをな……」
本当に、本当に心の底から楽しそうな笑みを見せるバイオレンスハゲエルフ。
しかし……その笑顔は、完全に猟奇殺人犯のものでしかなかった。
バイオレンスハゲエルフの名は、伊達ではなかった。
バイオレンスハゲエルフがデレましたねw




