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異世界日本人村2

「さあ、着いたぜ。 ここが俺の家だ」


 そう言いながらバイオレンスハゲエルフは駐車場に止めたトラクターのエンジンを切った。


「「「…………」」」


 ディーゼルエンジンの消音器から漂う不完全燃焼の排気煙の匂い……それに顔をしかめるヒロインズ。


 おかげで、彼女たちの中でトラクターは【鋼の獣】から【口のくっさい獣】という事になってしまった。


 そのトラクターの隣に、さくらはテーラーを止める。


 連結された荷台を器用に、真っすぐにトラクターの隣に停車させ、そのままテーラーのエンジンを切る。


 こちらも不完全燃焼の排気煙が出たが……こちらはガソリンエンジンのものだった。


 その排気煙に鼻を向け、さくらはにっこりと微笑んだ。


「えへへ……わたし、このにおい、すきー♪」


 それは一般の日本人でも評価の分かれる臭気、【ガソリンスタンドの匂い】。


 嫌いな人は体調にかかわるレベルでの嫌悪を見せるが、好きな人間は本当に好きである。 さくらはどうやら後者のようだった。


「こら、さくら。


 そんなこと言ってると、【ヤンキーの嫁】一直線だぞ……」


 そう言いながら梶田はさくらの麦わら帽子の上に手を置いた。 そのまま、くしゃくしゃとこねくり回す。


「やーん♪」


「……まあ、ひ孫の顔は早く見られるかもしれんが。


 ……いや、やっぱ駄目だ。 離婚の確率が跳ね上がる。


 ……ん? そうなれば俺が養えばいいのか……いやしかし……」


「?????」


 壮大な近未来シミュレーションをする孫バカじぃじと、それを不審そうに見上げる孫の姿があった。

「……日本だ。 日本の家だ……けど……」


 納屋を改装した屋根付き駐車場の隣に、梶田家本邸はあった。


 その光景に、マークトは本気で驚いていた。


 素直に、その広大さに、であった。


 まず……都会で言う【家】の四、五軒分の敷地があった。


 その敷地の道路沿いの部分は、苔生した自然石を組み合わせた一.五メートルほどの石塀になっており、そこから家屋までの部分は、小さな池まである日本庭園となっていた。


 そして……一つの敷地の中に、なんと家が三軒立っている。


 その一つが……一階部分が駐車場に改装した半二階建ての木造の納屋。


 その隣に木造二階建ての本邸があり、反対側には木造平屋の離れがある。


 本邸の玄関からは見えないが……家の裏には白壁の蔵まであるらしい。


 都会では考えられないような、かなり立派な個人宅。


 しかし。


 それは……【新築】という言葉からはあまりにもかけ離れていた。


 建物に痛みは見られなかったが、実際、築年数で言えば、相当のものなのであろう。


 それはどんな地方集落にも一軒ぐらいはある【昭和初期ぐらいまでは豪農でしたよ?】という佇まいの家であった。


「……なんだ? 俺の家に、なんか文句でもあんのか?」


 不意にバイオレンスハゲエルフに声を掛けられ、マークトは我に返っていた。


「い、いえ、とんでもない。


 ずいぶん立派な家だなあ、と。


 【前世】の僕の両親も地方出身で、その実家は都会の家より大きいですけど……そのどちらもこんなに立派な家じゃなかったですよ」


 慌てて取り繕うマークト。


 それに、バイオレンスハゲエルフは皮肉っぽい笑みを見せる。


「ふん……今の【日本】じゃなかなか農業で食ってはいけないそうだからな。


 コメにしても他の作物にしても、有名な生産地でなおかつかなり大規模にやらないと……な。


 昔は、商品価値の高い作物を買取価格の高いところ、いわゆる【名産地】に卸して稼ぐって事も出来たんだが。


 ……今の日本じゃなかなか難しいらしいからな。


 やれやれ……日本の農業は衰退するしかねえってことだな」


 そう言いながらバイオレンスハゲエルフは、本邸の勝手口の方に足を向けた。 ……農業用の長靴で玄関から入ると、娘に叱られるからであった。


「……ちょっと梶田さん!?


 なんか今、とんでもないことを口走りませんでした!?


 それって、【産地偽装】って言いません!?」


 バイオレンスハゲエルフの背中を追いかけながら、制止の声を掛けるマークト。


 それに、バイオレンスハゲエルフは背中越しに応じる。


「なんだ?


 商品を、より買取価格の高いところに卸すのは当然だろ?


 そもそも、産地偽装って言葉の方が後から出来たんだし、実際やってるのは生産者じゃなくてブローカーだ。


 文句を言われる筋合いはねえな」


「は、はぁ……したたかなんですねえ……」


 悪びる事もなく、平然と言うバイオレンスハゲエルフに、マークトは思わず呆れていた。


「……当たり前だ。 百姓が聖人君子な訳がねえだろ。


 一揆、暴動、革命……それらを起こしてきたバイオレンスな連中の子孫だぞ?


 百姓ってのは、基本的にアウトローでバイオレンスな生き物なんだよ」


「な、なるほど……」


 梶田の言葉に、マークトは思わず頷いていた。


 確かに、日本史を紐解くだけでも百姓はなかなかにアウトローでバイオレンスなことをしでかしている。


 圧政に立ち向かうための一揆、年貢の減免を求める強訴……究極は国をまるまる乗っ取った【百姓のつくりたる国】の加賀一向一揆であろう。


 そして。


 その子孫を名乗る男が目の前にいた。


 マークトの中で、初めて【百姓】という言葉と【バイオレンスハゲエルフ】という言葉が合致した瞬間だった。

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