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日本人転生者の郷愁


 マークト・ケイ・ドゥーウィンには人には言えない秘密がいくつかあった。


 そのうちの一つは……彼が日本からこの世界に転生してきた転生者であるということであった。


 日本から……剣と魔法の西洋風のこの世界に。 もちろん転生時に、転生の女神様に強力な能力を貰って。


 彼がそのことを思い出したのは……女の子と一緒に着替えたりお風呂に入ったりすることができない年齢になってからだった。


 ……その時の彼の悔しがりようといったら、周囲の人間がドン引きするレベルであった。



 転生前は人並みの社交力があり、特に周囲と対立することもなく、また隔絶することもない、ごく普通………という風に周囲に思われていた彼。


 その彼には……人には言えない趣味があった。 


 そう、それは彼の秘密の一つ……趣味の世界の中で、彼は【ょぅι゛ょ】至上主義者であった。


 かつ、ホラー趣味をこじらせて、スプラッタとおもらしを嗜好するという高度な嗜みを得ていた。


 ただ彼は、趣味の友好関係を除き、身近な人間からもそれを完璧に隠蔽していた。


 その為、急死後遺品整理のために家族に晒された彼の自室は、家族が放火による証拠隠滅を考えるレベルの衝撃を与えた事であろう。


 ……ちなみに、彼が幼少時から自室に収集していたコレクションは、一般人から見ればクズ同然のクズがほとんどだったが、一部の好事家からすれば垂涎のものばかりだった。


 『あの伝説の有害図書』とか『発売後すぐに回収処分となった狂気のビデオ』とか『原作者がショックを受けて号泣ししばらく休載したといういわく付きの同人ゲーム』とか『これを押さえてないとロリコンは名乗れないよね』といった冊子とか……そういったものが数多く含まれており、出張査定に訪れた買い取り業者が『立派な葬式を二回出せる』ほどの金額で買い取り、家族を唖然とさせた。


 そしてそれらの一部は数日のうちに海外の好事家の手元にまで届いた、というレベル。


 彼の趣味のファンタスティックさは、世界レベルだったのだ。



 そんな自分の趣味に一途な彼だが……転生前の記憶を取り戻してからの活躍は目を見張るものがあった。


 わりとシュッとした西洋人風のイケメンに生まれ変わり、【転生特典】によって驚異的な魔力と超人的な身体能力に恵まれ、なおかつツンデレツインテ幼馴染とブラコン妹ズに囲まれるという……彼はまさしくなろう系【転生者】であった。


 幼少世代、村の友達と探検しに行った洞窟はなぜか盗賊のアジトであったが、彼はチートパワーでそれを一網打尽にし……捕らわれていた裸の女たちを汚物を見るような目で見ながら優しく保護した。


 その後、生家の相続を兄に託して冒険者に。


 そしてその最初のクエストにおいて、ちょっとHなことで有名なオークの群れに遭遇するも、それを優しい笑顔で一体一体切り刻み、最終的に群れごとスプラッタして……捕らわれていた裸の女たちを生ゴミを見るような目で見ながら優しく保護した。


 また、冒険者ギルドの近くにあった困窮した孤児院の経営に参加し、【ょぅι゛ょ】以外を叩き出すという革命的なアイディアで経営改革した。


 その後、貴族同士の抗争に巻き込まれるも、双方の当主を平等に放射性廃棄物を見るような目で見ながら優しく拷問死させ、その双方に【ょぅι゛ょ】の当主を据えるという平和的解決をみせた。


 あと、合間合間におっちょこちょいのギルド女職員に惚れられたり、メスの獣人に盛られたり、冒険者の師匠に告白されそうになる、などといった【幕間】を含む。


 きっとこの先、【魔王】やその一党を捕まえてフン縛って拷問して切り刻んで、娘とか孫の【ょぅι゛ょ】をお持ち帰りするぐらいの事はやってくれるであろう。


 とにかく彼の英雄譚は枚挙の暇がない。


 彼は転生当初……ある野望に燃えていたのだ。


『ふっへへへへヘぁ!!


 異世界に転生した以上は……僕はテンプレ転生者になるんだ!!


 チートな転生パワーで強力な魔物をなぎ倒し、定番アイテム【リバーシ】や【チェス】の販売権で小銭を稼ぎ、日本にあってこの世界にはない【調味料】で人間化したドラゴンや吸血鬼なんかを餌付けし、同じくこの世界にはない【調理方法】で王侯貴族を篭絡して……まずは叙爵じょしゃくして【貴族】になるんだ!!


 そして陞爵しょうしゃくして【領地】を拡大して……【ハーレム】の礎を築くんだ!!


 そしてそして……【孤児院】を乗っ取って、人間だけではなく亜人の【ょぅι゛ょ】をあつめるんだ!!


 そしてそしてそして……恐怖に歪んだ【ょぅι゛ょ】から採取したレモン水で満たした二五メートルプールで……溺死したい……っ!!』


 ……最後のファンタスティックな一文を除き、人はそれを【テンプレ転生もの】という。


 まあ、名声と金と権力(と性欲)は人間の大好物であるため、彼の野望もまた仕方ないものともいえる。


 だが……彼には不満があった。



『ふむ、確かに……理不尽チート転生パワーは手に入れて、まあまだ一人じゃ無理にしてもドラゴンくらいなら余裕で倒せる。


 パーティのレギュラーメンバーにグレーター)魔術使いがいるから、少々の軍隊が相手でも、僕かその娘で【隕石落とし】をかければ何とかなる。


 けど……この世界。


 リバーシやチェスどころか、囲碁に将棋に軍人将棋まであったし……かと思えば料理系チートの定番である【醤油】と【味噌】は、この世界に【大豆】ってものがなくてつくれなかったし。


 同じく定番の【石鹸】なんて、数千年前からあったらしいし……もしかしてコレ、この世界から地球に伝わったんじゃないか!?


 せっかく異世界に来たんだから、粗製乱造量産型テンプレ異世界転生物の真似事ぐらいさせろや!!


 くそっ……小銭を稼ぎ損ねた。


 まあそれは良いとして……そんなことより僕、女運がなさすぎるよな。


 何だよ、爆乳幼馴染って。


 ツンデレツインテとくれば普通、ロリコン星人の妥協的回避策、【貧乳】だろうが。


 『貧乳はステータス』なら『爆乳はステータス異常』だろ。


 妹たちも爆乳予備軍だし……JCにして足元がちょっと見づらいってどんだけ早熟!? ……まあそれで階段でつまづくのは若干萌えポイントではあるんだけど。


 しっかも、こないだ助けたハイエルフの長老の孫も爆乳だったし……IZUBUCHI(パトレイバ○型)エルフを祖とする和製ファンタジーのガラパゴス化の間違った影響かよ。


 魔剣製造時に知り合ったエルダードワーフの娘なんて、合法ロリかと思いきや……髭の剃り跡があったし!!


 ゴウホウホモショタ・アッー!(一部間違い)なんて……そんな高度な性癖は持ち合わせてねーよ!!


 ていうか……黄色人種以外の人種って、そもそも産毛からして濃ゆいよな!! 知らなかったよ!!


 こないだ会った王女様だって、よく見れば体中に産毛が濛々と生えてて、逆光で見たら皮膚の表面が金色に輝いてたよな………。


 この世界、ムダ毛処理って概念が無いのか!!


 しかも……鼻が高い分、ビックリするぐらい鼻の穴がデカいし!!!


 アニメでしか西洋人を知らない僕には難易度が高すぎるよ!!


 やっぱり【ょぅι゛ょ】最強!!


 くそう……せっかく異世界に転生したってのに。


 ……なかなか、思ったようにはいかないもんだなぁ……。


 最近ちょっと………疲れてきたよ……』



 彼は常々そう思いながら沈みゆく夕日に向かってため息をつくのであった。


 ……そしてそれを遠巻きに眺めるヒロインズは樹や扉の影から、雄か雌かで言えば雄じゃないほうの顔をしながらピンク色のためいきをつくのであった。


 異世界は彼に優しすぎた……しかし【ょぅι゛ょ】至上主義である彼にとってそれは苦痛でしかなかった。

 そんな折だった。


 ある日、この世界にも当然のようにあった【冒険者ギルド】の掲示板でたまたま見かけた一枚の依頼票……彼は驚きを隠せなかった。




  『日本人転生者はいませんか?

   良かったらうちで保護しますよ?

         ~~異世界日本人村』




 依頼掲示板の端……数年、場合によっては数十年前から張りっぱなしになっている【尋ね人捜索依頼】が固まったエリアだった。


 行方不明になった村人や冒険者の、名前や特徴を連ねて書かれた依頼票……その中で、【日本語】で書かれたその文章が異彩を放っている。


 残念ながらこの世界、尋ね人捜索の依頼が消化される機会はあまりない。


 法の目が届きにくいこの世界では、行方不明イコール、死亡か略取目的の誘拐というケースがほとんど。


 そのため、古くからの依頼票は消化されることのないままだんだん端に寄せられ、重なり合ってしまう。


 その中に埋もれていた【日本語】が彼の目に留まったのは奇跡と言っていい出来事だった。


 その瞬間、彼は自分でも気付かないうちに……涙を流していた。


「あれ……あ、あれ?


 はは、コレ……日本語……日本語だ。


 六年ぶり……いや十五年ぶりってことになるのかな……?


 なんだこれ、畜生……ただの広告レベルの張り紙なのに。


 なのに……ちくしょう、なんで涙が止まらないんだよ……」


 そう言って彼は言葉を詰まらせ、そして再び人目をはばからず滂沱ぼうだしていた。

 彼がこの世界に赤ん坊として転生し、十五年。


 転生前の記憶を取り戻したのは六年前だ。


 さほど苦労もない異世界生活だった。


 彼の少しばかり特殊な嗜好に合致しないとはいえ、彼の力になってくれる多くの友人にも恵まれた。


 基本的に、恵まれた、誰もがうらやむ人生だ。


 だが。


 どんなに名声を掴もうと、どんなに権力を握ろうと、人は必ずある感傷に捕らわれるらしい。


 それは……郷愁。


 幼い頃の思い出。 過ぎ去った日々への憧憬。


 それが良いものにしても悪いものにしても、一生のうち、人はそれを思い出さないことはない。


 自分の人格を作ったルーツ、それは思い出補正という事もあるのだろうが、良きにつけ悪くにつけ、その人間の多くの部分を占め、影響を与える。


 その一端に触れ、彼は感情を抑えきれなくなっていた。


 その身体は西洋人風に生まれ変わり、この世界の言語を喋り、この世界の文化に沿った生活をし、魔法やスキルと言った日本では考えられない超常現象を目の当たりにしながらも……彼は、自分を日本人だと知って(・・・)いる。


 実際人格の方はそうであるし、今も忘れず日本語を理解することができる。


 しかし……この六年間、誰かに日本語で話しかけられたことはなかった。


 意味のない落書きや秘密のメモなどで彼が日本語を書くこともあったが……それは自分の為のものだった。


 六年間……誰かが話したり書いたりした日本語というものに、彼は六年間触れていなかった。


 チートな能力を持ってこの世界を生き、自分以下の能力のものを力ずくでねじ伏せ、さほど苦労もせず多くの他者の上に立ってきた彼だが……彼の目の前に、生きた日本人が現れたことはなかった。


 日本で生活していれば気にすることではないのだが……自分が日本人であることを、他の日本人と共有できなかったのだ。


 この広い世界で、彼が知る日本人は彼一人だった。


 ある意味、この六年間……彼は孤独だったのだ。


 姿形こそこの世界の人間ではあったが……【異邦人】であったのだ。


 そこへ来て……急に彼以外が発信した日本語を見た。


 自分のものではない日本語に触れた。


 それを目にし、理解し出来たという事は……自分が日本人である(・・)ことの証明だ。


 それは自分が日本人であった(・・・)ことの残滓と言っても良い。


 ある意味、この六年間……日本人である(・・)ことを自覚しながらも、日本人ではなかった(・・・・)のだ。


 六年前から自分が日本人であることは知っていた(・・・・・)が……六年ぶりに、自分が日本人であることを思い出す(・・・・)ことができたのだ。


 そしてそれは……異邦に日本人である自分がただ一人で立っているという事を示す。


 郷愁……それは離れている期間が長ければ長いほど、心に突き刺さってしまうもののようであった。


 彼は堪えきれず、心を溢れ出させていた。


 涙となってそれは、形になっていた。


 そしてそれは、しばらく止まることはなかった。

 変化があったのは、彼の呼吸が安定したその数分後だった。


 日本で言うB5サイズのその依頼票が、急激に光を放ち始めたのだった。


 そして、表面に書かれていた日本語が消え去り……新たな日本語が表示される。




  『この依頼票を手に取ったという事は

   ……あなたは日本人でしょうか?』




 一瞬久々に見た日本語が消えて焦った彼だが、次の瞬間には素直に驚いていた。


「すげえ! 表示が切り替わった!!


 ……これ、普通に紙だよな?


 て事は……まあ魔法があるこの世界とは言え、紙の薄さのディスプレイかよ。


 はは……日本の技術力、負けてんじゃん……」


 懐かしさが先行したのか、苦笑しながら彼の口を付いたのは日本語だった。


 ちなみに……彼が転生したころ【スマホ】や【タブレット端末】というものはあまり普及していなかったので、その名称を彼が引き合いに出すことはなかった。


 依頼票は新しい日本語を表示する。




  『ご苦労なさったでしょうね。

   【異世界】は【異なる世界】。

   日本の常識が通用せず、暴力が

   まかり通る世界。

   私たちはそんな同胞を助けたい

   一心で、この依頼票を、各地の

   冒険者ギルドに張り出したので

   す。』




「………」


 その思いもかけない文面に、彼は押し黙ってしまった。


 優しいその言葉に、涙腺がさらにゆるんでしまいそうにもなった。


 また同時に、違う思いも発生した。


 今まで、この世界に自分以外の日本人が存在することなど、考えたこともなかった。


 もしかしたらいるかもしれない、という程度だ。


 そして今、明らかな日本人の痕跡に触れて……彼はふと、同胞がいたとして自分は救いの手を差し伸べようと思うだろうか、と自問する。


 答えは出なかった。


 救いの手を差し伸べたかもしれないし、そうではないかもしれない。


 状況にもよる、という事もあるだろう。 例えば、敵対する立場であったとしたら? 例えば、その素性が自分の安全を脅かすものだとしたら?


 だが……この依頼票を出した人間は、それを踏まえてもなお、救いの手を差し伸べようというのだろう。


 あるいは……どれだけその素性が危険な存在だったとしても自力で排除できるという自信に裏打ちされているのかもしれないし、その可能性を思いつかないほど呑気なのかもしれない。


 でなければ、こんな依頼票を出したりするはずもないし、できないだろう。


「聖人なのかただのアホなのか……でもまあ、それが却って日本人ぽいのかもな……。


 ……ふふふ、これが罠かも知れないのに、信じる気になってる僕も根っこは日本人ってことかな……?」


 そう言って彼は苦笑した。


 そして、表示がさらに切り替わる。




  『念のため確認させて頂きます。

   なぜなら、誤操作などによって

   日本に全く関係ない有象無象に

   来られても困りますので。

   まあ心配なさらずとも、普通の

   日本人なら誰でも答えられる、

   クイズレベルですので。

   サーみんなでー考えよー!』




「なんか急にクイズ来た!?


 まあそれは良いとして……ん????


 みんなで???? どういうことだ?


 急に口調が砕けたし……複数人が同時に確認する可能性も考慮に入れているのか……わからないな」


 真剣な様子で応える彼。


 残念ながら、この日本語の文章を考えた者と彼の間にはジェネレーションギャップがあるようだった。 しかも相当の。


 そして紙上の日本語が切り替わった。




  『今の日本の年号を答えよ』




 紙の上部に表示された文字の下には、五十音表が表示されていた。


 そしてその下に『タッチしてください』の文字。


 日本の現行技術を超える超薄型ディスプレイはタッチパネル機能も搭載しているようだった。


 パソコンのキーボード配列と違ったのは、広い年代に向けた親切設計であったのかもしれない。


「……えっ?」


 彼は思わず問い返していた。


 そしてしばらく考えてから応じる。


「な、なるほど……日本人かどうかの認証に、年号を入力させるわけか。


 緩すぎるかもしれないけど……まあ、『今の総理大臣の名前を答えなさい』って言われるよりはましか。


 日本の総理大臣って、日本じゃ戦前から、頭をケガした人の見当識障害のチェックや痴呆判定の題材に使われるくらい、コロコロ変わるもんだしな……。


 大統領と違って、総理大臣って任期はない筈なんだけど……ま、いいや。


 ……入力するか。


 へ、い、せ、い、と……」





  『残念でしたー』





 無慈悲に、紙はそんな回答を表示していた。


 もしこの紙にスピーカーが内蔵されていたら、低い電子音が流れていただろう。


 それくらいの冷たい突き放しっぷりだった。



「ちょ!? なんでだよ!?


 あ……もしかして僕、キー入力間違えた!?」


 割とマジなトーンで、彼は突っ込んでいた。


 それを無視するかのように、紙は淡々と表示を切り替える。




  『日本人なら間違えないはずの

   問題だったのですが。

   もしかしたらすこし前の世代(・・・・・・・)

   の方もいらっしゃるかもしれ

   ませんので【大正】でも可、

   だったんですけど。

   参考までに。

   今は昭和七十八年(・・・・・・)吉日です。』




「ちょっと!! どういうこと!?


 昭和は六十四年で終わってるんですけど!?


 今は平成なんですけど!?


 しかも昭和で言うと九十三年なんですけど!?


 つまりこの依頼票、十五年間張りっぱなしって事かよ!!」


 彼は紙の無慈悲さとその不条理さに、思わず連続してまくし立てていた。


 なお……その彼も、平成が三一年四月三〇日で終了、という事を知らない。




  『ではでは。

   これにて認証を終了します。

   なお、この依頼票はあと一〇秒で

   消滅します』




「なんで!?


 スパイもののアメリカ映画ネタを何で急に!?」


 速攻で突っ込む彼……だがそれは、出題者の年代から考えて多分その元ネタの方の、アメリカの大昔のTVドラマシリーズの影響と思われる。


 つまり……出題者の年代は、少なくとも平成以前の生まれであることは間違いなかった。




  『嘘です。

   わざわざ依頼料を払って掲示して

   るのに、燃やすわけないじゃない

   ですか。

   という事で、この紙は元の場所に

   もどしておいて下さい。

   あ。

   一応、指紋は採取しましたので、

   あなたは二度と操作できません。

   日本人なら(・・・・・)、私の言ってること、

   理解できますよね?』




「むっかー!!」




  『では。

   スリープモードに移行します。

   二度といたずらしないでくださ

   いね?』




 そのメッセージが表示されて数秒……超薄型パネルトップPCのようなその紙は、元の状態に戻っていた。


「…………」


 無言のまま、彼はしばらくその紙を握りしめていた。 その手は、身体は……怒りの為、プルプルと震えていた。


 その背中に、声をかけるものがいた。


 例のテンプレ爆乳ヒロインズであった。


「マークト……依頼票を握りしめて、どうしたの?


 べっ別に気になるわけじゃないんだからねっ!


 それに、さっき叫んでた言語は、一体どこの国の」


「次のクエストは決まったよ、みんな……」


 ヒロインズのうちの一人のキャラ付けを忘れない問いかけに、彼はそのセリフを制するように食いながら、静かに応じていた。


 ゆらり、と立ち上がった彼から静かに溢れ出しているのは……明確な怒りだった。


「異世界日本人村ってとこだよ……そして、このふざけた依頼票を作った奴をぶん殴るのがクエストだ。


 ふざけんなってええええ!!!


 舐めんなあああああ!!!!


 僕の何分か前の郷愁を返せえええええええ!!!!!」


 彼の叫びは、冒険者ギルドの誰もが縮み上がるほどの……魂の絶叫であった。

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