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プロローグ
始まりは、一人の男が虚構を現実に変えたことだった。
『迷宮見聞録』という題の架空の冒険譚があった。
人々からは空想小説と思われていたその本を読んだある男は、描写の詳細さから本の内容は真実なのではないか、と考えた。
多くの人たちに笑われながらも、その物語の舞台となる不思議な洞窟を探し、男は世界中を巡り、遂にはある洞窟を発見した。
ウィグト大陸のキュリオ地方。その内海に存在する、名も無き孤島の洞窟から帰還した男は、『迷宮見聞録』に書かれた物語は全て真実であったと証明した。証とばかりに、莫大な財宝と希少な魔道具、更には凶悪な魔物の遺体の一部を持ち帰って。
男は手にした財で島を開拓し、後に組合と呼ばれるようになる、洞窟を管理する組織を立ち上げる。
以後、洞窟とその下に広がる地下世界を迷宮、迷宮に挑む者たちを冒険者と呼ぶようになった。
迷宮の発見から百年近くが過ぎ、無人の島から交易盛んな港町へ変貌した今となっても、迷宮に挑む者と二度と還らなかった者は後を絶たない――。