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アクアツアーの人喰いトラウト

 兎モドキは追い掛けて来なかった。

 マダ、イラナイ。そう言っていたことと関係あるのか。詳細は分からない。だが、僕らに対して何かをしてくる可能性があるとわかっただけ良かったのかもしれない。

 もとよりドリームランドに巻き込まれているのはさておき。

 そして……。


「辰君に、メリーちゃん? えっ、何で? 奨と一緒じゃなかったの!?」


 目下最大の問題は、ジェットコースターから出来るだけ離れて、メリーと一緒に情報を整理しようと思った矢先で、この人――、瑞希さんと鉢合わせになってしまったことだった。すぐ目の前にはアクアツアーへの入り口ゲート。つまり、瑞希さんが挑んでいたアトラクションがここだったのだ。

 繋いだメリーの手が、より固く僕のを握り締める。僕はそれに対して、大丈夫と握り返す事が出来なかった。


 ※


 ここまであった経緯を、僕らは彼女に包み隠さずに話した。

 奨さんや、猫背男……悟志(さとし)さんという名前だったらしい二人が至った末路。

 そして……。少しだけメリーと相談して、僕達はカードを切ることにした。自分達の事を、彼女に話したのだ。

 瑞希さんは、僕らの突拍子もない話を全て真っ直ぐに聞き入れて。そのまま、静かに目を閉じて。「信じるわ」とだけ口にした。


「本気なの? こんな、突拍子もないことを……」

「あら、メリーちゃん。突拍子もないことなら、私だって少しは体験した覚えがあるわ。だから、信じるって言ったら、信じるの」

「……ありがとうございます」


 思わず安堵の息を吐きながら僕がため息をついていると、不意にガタンと、大きな鈍い音がする。


「来たわね。……この先は、〝アクアツアー〟で話しましょう。……あ、でも、無理はしないで。私が戻ってくるまで待っててくれてもいいわよ?」


 私は、どうしてもここに行かなきゃ行けないから。そう付け加えながら、パタパタと慌て両手を振る瑞希さん。

 それを見た僕らは少しだけアイコンタクトを交わし、やがて同時に頷いた。


「……行きます」

「一緒に、ね」


 今まで、待ちに徹していてダメだったのだ。それに、話は出来るだけたくさん聞きたい。もしかしたら、それが解決の糸口になるかもしれないのだ。

 先導する瑞希さんについていく。途中、ジェットコースターにもあったボロボロの立て看板が目についた。


『アクアツアーにようこそ! 探索者のみんな! 次はモンスターが潜む、ジャングルの川を進むんだ! 安全に進むための謎は……』


「もう、意味はない」猫背男。もとい、悟志さんはそう言っていた。ならば、意味がないものをこれ見よがしに配置している意味は?

 経年劣化など微塵も見えぬ。新品同様の遊園地。だが、看板をはじめとした、所々にある小物は古いものが混じっていたりする。これが、時間が歪んでいるということ? そんな単純な話なのか?

 何かを思い出したように震えだした奨さん。彼は……あの局面で自分の何と対面したのだろう。

 入り口にいたマスコット、兎モドキ。今も園内を歩き回り、探索者達に引導を渡す存在。アイツの目的は何だ?

 一番最初に、僕らの背後から来ていたという子ども達の群れ。あれは、どこからやってきた? 何より……。


「辰、見て……」


 アクアツアーは、本当にジャングルの入り江を再現したかのような景観だった。そこに木組みの船着き場が設置されていて、そこに樽とタイヤを組み合わせて作ったかのような、大きめのエアクッション艇。俗に言う、ホバークラフトが置かれていたのだが……。


「あら何よこれ。趣味悪いわねぇ……」


 虫でも見たかのように、瑞希さんが顔をしかめる。ホバークラフトのボディには勿論。船着き場の至るところには、またしても効力が失われた〝角大師〟の魔除け札が至るところに貼り付けられていた。

 そう、一番不気味なのがこれだ。

 移動中もジェットコースターでも何枚か見た、全て効力の失われたお札。

 時間経過で劣化したにしても、そうさせうる何かがこのドリームランドにはいたという話になる訳で……。


「兎モドキかな……?」

「案外、ドリームランドそのものかも。こうやって私達を飲み込んでいるんだし」


 取り込んだ子どもを消してしまうドリームランド。確かにここそのものが、一つのオカルトと化しているのは否めないのかもしれない。

 可能性としては一番濃厚かな。と、推測しつつ、ホバークラフトに乗り込む。乗り心地としては……結構揺れるようだ。

 取り敢えず周りを見やすいということで僕とメリーが端に陣取ろうとしたら……。瑞希さんが満面の笑みで僕らを引き寄せて。そのまま自分の前に抱え込むようにして座ってしまった。


「あの……」

「中身はアダルトでも、今は子どもでしょう? お姉さんに任せなさい!」

「……何で鼻の下が伸びるのかしら?」

「そりゃあ、二人セットで並べたらお人形さんとそのお相手みたいで可愛い……コホン。――安全のためよ」


 今更キリッとしても遅いわよと、突っ込むメリー。

 一応大きくなっても瑞希さんがお姉さんなのは多分かわりないのだが、こうしてみると大きさがあべこべながら、近所にすむお姉さんに懐いた、小さい女の子を連想した。


「…………ん?」


 その時だ。僕の中にふと、ある突飛な考えが浮かび上がった。

 すぐにいやいや。あり得んだろ。と内容を否定するが、何故かその説はずっと胸にこびりついていて。

 いっそ試してやれ。と、もしもという仮定を上げ続けて考えていけば……。恐ろしい結論に行き着いた。


「…………っ、瑞希さん」

「ん~? なぁに?」

「今……何年ですか?」

「あらあら、どしたのよ辰君。そんなの19××年に決まってるじゃない」

「…………え?」


 思わずメリーが声を上げる。それは、僕らが生きていた時代より、十年以上昔の年代だった。

 時間が歪んでいる。とは、恐らくこういうこと。そして……。


「瑞希さん。失礼ですけどおいくつですか?」

「に、二十五よ……」

「……落ち着いて、答えてくださいね。保育士になった過程は? 大学はどちらに? ご両親の年齢は……?」

「え? あ……ふぇ? あれ、あれあれ?」


 一つ一つ。考えてくれたのだろう。

 指折るごとに彼女の顔が青ざめていき。迷子になった子どものように僕とメリーを交互に見る。

 やがて、己の両手をじっと眺めてはビックリしたかのように跳ね上がり。最後には震えながら涙を流し始めてしまった。


「なん、でぇ? ミズキ、ここに……来て。〝グレート〟を探しに来て……それから。それから……。ふぁ……」


 怖い。怖いと、大きな身体を揺らす瑞希さん。拳が白くなるほど握られている。

 ここまで事が進むとは僕も予想できていなかった。

 刺激が、やはり強すぎたのだ。兎にも角にも、(サイ)は投げられてしまっている。

 だから今は、彼女をまず落ち着かせて……。


「瑞希ちゃん、だいじょーぶ?」

「ふぇ?」


 これはもう、僕自らが渾身のギャグを練るしかない。そう考えていた矢先、不意にふわふわした綿飴のような、甘くて蕩けるような声がする。

 うぇ? と思いながらそちらに目を向けるとロリー。じゃないメリー。いや、もういっそ……天使がいた。

 瑞希さんの頭を飛びっきりのニコニコ笑顔で撫で撫でしつつ。メリーはゆっくりと。落ち着かせるように優しく彼女を抱き寄せて。背中をポンポンと叩く。

 ……誰だ君はぁ! と、叫ばなかった自分を褒めてあげたかった。

 パクパクと僕が金魚みたいに呆然としていると、メリーは瑞希さんには見えないように一瞬だけいつもの顔になり。僕に「周りの警戒よろしく」と目配せだけをよこした。瑞希さんは引き受ける。そういうことだろう。「ごめん」と、小さく呟いて。僕はそっと二人から離れる。

 ホバークラフトは爆音を上げながら、黄昏色の空の元、暗い水面(みなも)を突き進んでいた。


「だいじょーぶだよー。私、メリーさん。今、貴女の味方になったの」

「ミカ、タ?」

「うん。瑞希ちゃん。怖かったねー。あの女とお化けたらしな鈍感鬼畜マンは、メリーがやっつけてやったからねー」


 ……酷くない?

 苦笑いしつつ、動向を見守る。メリーはいつものクールな雰囲気やシニカルな笑み。皮肉っぽい口調全てを封印し、柔らかく瑞希さんに話しかけていく。

 ママ……。と、瑞希さんが呟いたのは、多分聞き間違いではないだろう。

 同時にそれは、僕の突飛な考えが、真実であってしまったことの証明なのだから。


「瑞希ちゃん、いくつになったの?」

「……九歳」


 つまりはそういうこと。時間が歪んでなのかはわからないが、僕らが縮んでいるならば。その逆も然りだったのだ。

 ドリームランドでは、子どもが消える。今までの犠牲者全員が子どもだったなら。その上で、これまた推測になるが、何らかの方法で大人の人格を植え付けられていたのだとしたら……一応は筋妻が合う。

 思い返してみれば、悟志さんもジェットコースターの当時の様子を知っていた。多分大人と子どもの人格が、ギリギリの所であやふやになっていたのかも。だからこそ、言動があれだけ支離滅裂かつ一方的だったのだ。


「そっかぁ~。おっきくなったら、何になりたいの?」

「保育園の、せんせぇ……」

「わぁ、凄いねぇ。似合うよぉ~」

「ほんとう?」

「うん、瑞希ちゃん優しいもんね~。ドリームランドは、誰と来たの~?」

「ママと、二人」

「そっかぁ。何に乗りたかったの?」

「――っ! そう、アクアツアー! アクアツアーだよ! 〝グレート〟を探さなきゃ!」


 ここだ。と、僕らは気を引き締める。淀みなく質問を繰り返すうちにたどり着いた核。瑞希さん。もとい瑞希ちゃんは、ここにはいない母と来たという。

 全ての探索者が子どもで。恐らくはまだドリームランドがまだ遊園地として成り立っていた頃に、何かを目的にここへ訪れたのだとしたら……。それこそが、もしかしたら僕らが解き明かすべき謎なのではないだろうか?


「グレートって……何かなぁ?」

虹鱒(ニジマス)! お爺ちゃんと飼ってたの!」

「ニジ……マ、ス?」


 その返答には、流石のメリーも目を白黒させていた。多分、女の子には馴染みがないだろう。

 ニジマス。別名レインボートラウト。スポーツフィッシング用に日本に釣れてこられた外来種の淡水魚である。

 繁殖力もつよく、個体としても雑食かつ丈夫なので、各地で食用に養殖もおこなわれているらしい。僕が知ってるのはそれくらい。

 高校生の頃に行った、オープンキャンパスで訪れた大学の一つで巻き込まれる形で学んだムダ知識である。

 というか、何で大学に釣り堀があったのか。それが未だに謎である。


「グレートが、ここにいるの?」

「うん! いるの!」


 思わずメリーと一緒に、川を覗き込む。まぁ、魚は住めないという訳ではないだろうが……。


「グレートのお話、もっと聞きたいな」


 メリーがそう言うと、瑞希ちゃんは大喜びし……すぐに暗い顔になる。


「嘘だって笑わない?」

「瑞希ちゃんも、私達を信じてくれたでしょう?」


 だが、メリーがそう答えると、すぐに明るい顔を取り戻し、そのまま僕らの間に座る。「女とお化けたらしの、どんかんきちくやろーも聞いて」という風評被害と共に。


「グレートはね! 凄いんだよ!」


 ※

  

 瑞希には、自慢の祖父がいた。

 何でも願い事を叶えてくれる祖父が。

 ある日瑞希は言ったのだ。


「魚が飼いたい!」


 祖父は笑顔で頷くと、家の裏手にある川にて、素手で鱒を捕まえて、その日のうちに川の中に生け簀まで作るという離れ業をやってのけた。

 当時幼少ながら英語が好きだった瑞希は「Great!」と叫んで。それが何故か捕獲されたニジマスの名前になったそうな。


 グレートは、すくすくと育っていった。生け簀はかなり本格的なものを作った上に、小規模な滝……まではいかぬ流れの下に位置していたので、魚にとっては素晴らしい環境である。

 瑞希は一週間に一度。祖父の家に訪れる度、その生け簀にミミズを投げ込んでは、グレートが水面を弾けさせるようにして食べるのを見るのが大好きだった。


 さて。グレートを飼い初めて一年後。夏の水辺が澄んだ日のこと。近くで瑞希グレートを見れるようにと作られた桟橋の上。体長八十センチの大台に行った飼い淡水魚を眺めながら、瑞希は呟いた。


「グレートが寂しそう」


 子どもながらの考えである。だが祖父は笑顔で頷き、網を手に川魚を大量に捕獲してきたのである 。孫バカここに極まれり。

 それらはそのまま生け簀に投入された。一気に賑やかになった生け簀の中。一番身体の大きいグレートは、悠々と泳いでいた。


「これで寂しくないね!」


 と、瑞希ははしゃいで。また数週間後。……事件は起きた。


「……生け簀の魚がグレート以外皆消えてる?」


 一体何があったのか。瑞希はそう問い詰める。

 すると、祖父は物凄く困ったように肩をすくめてこう言ったのだ。


「ああ、グレートが何日かかけて皆喰っちまったよ。そもそも大きさも普段喰ってるのも違うしな」

「普段食ってるもの?」

「ドッグフードだよ。ミミズは高いし、あの大食いには足りん」


 衝撃の事実に瑞希は苦笑いしつつも、以来はドッグフードを川に投げ込むようになった。

 グレーとは、またすくすくと大きくなっていきました。そして……。


「どうしてなの!」

「危ないからだ!」


 ある日突然の出来事でした。祖父が言ったのです。生け簀にはもう近づくなと。

 瑞希は納得がいかなかった。


「グレートに餌……」

「上げている! だが……ダメだ! とにかく近づくな!」

「なんで……」


 生まれて初めて、祖父が瑞希の願いを退けたのである。

 だが、それでも納得がいかない瑞希は、ある日。祖父の言いつけを破り、こっそり家の裏へと回ることにした。会うくらいいいだろう。それが彼女の考えだった。

 そうして桟橋の上に足を乗せる。水面は静かに揺らめいて、やがてそこでにゆっくりと何かが近づいてきて……。

 驚くべきことに、そこには二メートルをゆうに越える、巨大な淡水魚が円を描くかのように泳いでいたのだ。


「……グレート、なの?」


 瑞希は思わず興奮の声をあげる。信じられなかった。こんなに大きくなるなんて……。小さく幼い瑞希には、それが怪物には見えず、ひたすら神秘的な存在にしか思えなかったのだ。

 すると、川の中にいたグレートが、パシンとヒレで水面を叩き、顔をこっちに向けた。分厚くて固そうな口が、ゆっくりと。大きく大きく開いていくのが見えて……。


「瑞希ぃ!」


 その瞬間、祖父の鋭い声と。顔にかかる水飛沫を感じた時。瑞希は何かに抱き抱えられ、猛烈に身体を揺さぶられるのを感じて……あまりの衝撃に、彼女はそのまま気絶した。


 ※


 話を聞いた僕達は開いた口がふさがらなかった。


「………………そのグレートが、どうしてここに?」

「生け簀が壊されそうで。市に連絡したらけんきゅーしゃ? がきて、引きとって行っちゃったの」

「こ、ここにいるって話は?」

「噂を聞いて、きっとグレートだって思って!」

「あ、そう……」


 よ、良かった。確実にいるって訳じゃないんだ。

 流石の僕らでも、エイリアンはお断りである。しかし……まさかこれが、本人の言っていた突飛な体験だろうか。凄まじいにも程が……。


「し、ん」


 その時だ。僕は隣から、小声で呼び掛けられる。メリーだ。

 どうしたの? と、僕が彼女の方を向くと……。メリーは、顔面蒼白のまま、瑞希ちゃんには見えないように進路後方を指差して……。


 いた。


 長い。二メートルどころじゃない。下手したら巨大サメと同じくらいの大きさ。四メートルはありそうな魚影が……。ホバークラフトから少し離れた位置を泳いでいた。

 一定の距離を保ち、此方の様子を伺うように。


「…………っ、人は食べないよ」

「……本当かしら? ドッグフードの都市伝説を思い出しちゃったわ。非合法なあるいは、田舎の闇市で売られてるドッグフードは……実はその材料に……」

「ま、眉唾だよ! ほら、スタート地点見えてきたよ」


 思わずそう否定し、前を見る。どのみちこんな状況ではロクな手は打てないのだから。するとメリーは震えながら僕のTシャツの裾を掴むと、囁くように呟いた。


「じゃあ、もう一個。熊や犬とか……まぁ、人間の味を覚えた生き物ってね。何故か狂ったように凶暴化したり。巨大化したりするらしいわよ?」


 肌の体温が、一気に下がった気がした。

 さっきと同じだ。

 もしもを一番最悪な事態に置き換えて分析する。


 あの魚が話に聞いていたグレートで。

 ドッグフードの材料が人間の腕や。犬猫をミンチにしたもので構成されていて。

 メリーが言う、これまた生物の凶暴化の都市伝説にグレートが当てはまってしまうとしたら……!


 パシャン。と、水面をヒレが叩く音がして。何処からともかくマーチ風の歌が聞こえてきた。


『いらない子! ど~こだ? 男の子~に、女の子! 皆が宝石持っている! ピカピカ光る~宝石だ~い! ど~こだどこだ~』


 船ノ上……!


 身体が一気に強ばったその時だ。

 僕らの身体が強引に引き戻された。

 瑞希ちゃん。いや……。


「間に合った」


 瑞希さんだ。彼女は大量の冷や汗をかきながら、僕とメリーをまるで名残惜しむように見た。


「……っ、待って」


 メリーが、声を詰まらせるすると。瑞希さんは哀しみと喜びが入り雑じった顔で、僕らを順番に撫でた。


「聞こえてたわ。メリーちゃんの優しい声。……気にやまないで、ね? 私はしょうがないのよ。辰君は……気づいてるかしらね」


 そう言って、此方を見る瑞希さん。僕は一瞬だけ躊躇ってから、小さく頷いた。


「悟志さんが……骸骨になった。あのジェットコースターが、過去や未来……彼の提唱するタイムマシンのようなものだと仮定して。かつ、小さなサイズ……つまりは子どもの骨格になっていたのだとしたら……」


 多分、探索者の全員は、もう既にこの世にはいない。そういう事になる。


「正解よ。うん、悟志も言ってたけど、今まで来た人達と違うのかしらねぇ。私はさっき全部思い出したんだけど」

「……っ、今まで! やっぱり、貴女達は雄一達に会って……!」

「ん、ごめんなさい。一人一人の名前までは知らないのよ。そして……貴方にも教えることは出来ない」

「そんな……」


 僕が肩を落とせば、瑞希さんはコツンと僕の額に拳を当てた。


「こーら。男の子でしょ。大丈夫。きっと大丈夫だから、ちゃんとメリーちゃん、守ってあげてね」

「……言われなくても」


 はっきりそう宣言すれば、瑞希さんはよし、と笑い、次はメリーに向き直る。


「私のこと、忘れないで。友達って言ってくれてありがとう。凄く嬉しかったわ。……巻き込んでごめんなさい」

「……全くだわ」


 俯いたまま、メリーはぶっきらぼうにそう答える。瑞希さんはそれを優しく見つめてから静かに頭を垂れた。


「私達全員の共通目標教えてなかったわね。それを教えるわ。次は……ミラーハウスに向かいなさい。私達は、そこで〝作られた〟」


 ホバークラフトが、岸に到着する。「飛んで!」と、叫ぶ瑞希さんの声を合図に、僕はメリーの手を引き、地面に降りたった。

 その瞬間。辺りが少しだけ暗くなる。

 僕らが振り返ると川の中から、空を覆わんばかりに跳び跳ね、大口を開ける怪魚の姿を見た。


「瑞希さ――」

『全てを、白日の下にして! 頼んだわよ!』


 それが、最期の言葉だった。

 咄嗟にメリーが見ないように、彼女の顔を懐に押し付ける。

 高波が押し寄せたかのような、豪快な音と水飛沫が上がって……。

 後に残されたのは泡立つ入り江と、バラバラに砕けたホバークラフト。そして……震えながらその場に座り込む、無力な少年少女と化した僕達二人だけだった。

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