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5年という年月はとても小さな体を少年と呼ばれるまで年代まで成長させた。少年は公爵から5歳になったら家庭教師を付けるとすっかり忘れていたころにあの雰囲気の違うメイドが呼び出しにきて、公爵に会うなり
「明日から家庭教師を付ける。」
とだけ言われすぐに部屋から追い出されてしまった。
次の日の朝に朝食を軽く済ませてから指定されて場所に立っていたのはメイドだった。いつもは屋敷の掃除をしたり給仕をしているメイド服のまま立っていた。
そんなメイドが掃除をするモップではなく剣を持って振り回している。その振り回している剣は無茶苦茶でとても強そうではなく、ましてや人に教えれるはずがない剣裁きであった。
大量の本と大きい屋敷から考えてちゃんとした剣士ではなく、あんな無茶苦茶な剣の使い方をしているメイドが俺の教師だなんて見捨てられているとしか思えないな。この時間は適当に流してさっさと終わらせよう。
「ようやく来ましたか。それではまずは実力を測ろうと思うので試合をしましょう。」
メイドはニッコリと挑発的な笑みを浮かべながら提案した。
それに対して打算と自信を持って
「いいですよ。」
と返した。
試合が始まる前まではメイドの事をなめていたが、剣や槍などのいろいろな武器を魔力を用いて速度を上げてもメイドは魔力を一切使わず全ての攻撃をいなし躱し少年を叩き潰した。
強い、けどこのままやられっぱなしなのは少しだけムカつく。
「さて、そろそろ自己紹介をしましょうか。私は今日から坊ちゃまの剣術、槍術、弓術などといった武術を教えるリーファと申します。呼び方はそのままでもいいですし呼びずらかったらリーとお呼びくだい。」
「もう一試合だけいいですか?」
その言葉を聞いたリーファは少しだけ嬉しそうに微笑んで了承した。
打算と自信の正体は前世から、ただただ愚直に修練し極めようとしていた空手であった。
魔力の半分を体全体の強化に充てて残りの半分は目と腕の強化に充てる。勝てないとしても一矢報いてやる。
お互いに距離を取るとゆっくりと息を吐き最後にフッと息を吐きだしながら突っ込んでいく。
突っ込んできた少年に対して上段から鋭く振り下ろしたが、少年がその小さな体をリーファのふところに入り込ませ足腰を踏ん張り強化した左腕を下からリーファの手と持つ剣ごと弾き上げ、そのまま体の勢いを利用した正拳突きへと繋げたがリーファはすり足で突きを躱して剣をバットの様に横に振ったが少年はその攻撃に対して一切逆らわずに逆に攻撃の勢いを利用してリーファの斜め後ろに回り込んで右手で脇腹に向かって殴ろうとしたが当たるより早くにリーファがその場を離脱していた。
なんであんなにも強い人がメイドなんかをやってるんだ。
それにこのままだと俺の身体が戦いが終わるより先に潰れてしまう。今さっきの短いやり取りだけで身体が軋んできているから次の相手の攻撃からのカウンターで終わらせる。
間合いを取ってから一呼吸おいた後に次はリーファから距離を詰めて斜め上から少年の頭へと剣を振り下ろそうとした少年はその攻撃にワンテンポ遅れ気づいたのでカウンターを取れそうにないと思い両腕でガードしようとしたが、次の瞬間には剣は斜め下からの斬撃へと変わり少年の腹に当たる寸前で止まった。
「これで私の勝ちですね。しかし剣などの武器を使わずに戦うという発想は素晴らしくそして大分完成された技術だと思いました。」
リーファが何かを言っていようと少年には聞こえていなかった。最後の意味不明な攻撃に対して考え続けていた。
「フフッ・・さっきの最後の攻撃の正体が気になりますか?」
「・・・・・・え?」
口から少しだけマヌケな声が出てしまった。自分の手の内は相手に教えてはいけない事だと考えていたのでその質問は意味不明で常識にはない質問だったからだ、しかしその正体を知りたかったので首を縦に振った。
「そうですか、正体はとても簡単です。坊ちゃまがガードをした瞬間に体に魔力を込めて剣筋を変えただけです。坊ちゃまは目で見た攻撃や体の動きに過剰に反応しすぎです、これからは剣の使い方などを中心に鍛えていきましょう。」
「一つだけ質問だ、俺の技術は有効なのか?」
「はい、有効だと思います。いろいろな人やモノと戦ってきましたが武器を使わずに素手で戦う技術などは初めて見ました。」
「そうか、この技術は無駄じゃなかったのか。」
「ええ、剣術なども身につけておいても無駄ではありません。次からは剣術の基本からやっていきます。では今日はもう終わります。次からはもっときつくなりますからね覚悟しといてください。」
「あぁ、楽しみに待っておく。」
やられっぱなしは嫌だから無理やり不敵な笑みを浮かべリーファは嬉しそうで上機嫌な笑みを浮かべながら屋敷に帰っていった。
あの世界でも意味のあるものは一つはあったんだな。
8月が終わるまでにできるだけ早く進めていきたい。