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「『温風』」
その言葉の後に温かで優しい風が赤ちゃんの体を包み込んだ。
その瞬間に赤ちゃんは少しだけ目を見開き自分の体に起こった変化に驚いているように見える。
どういうことだ!あれは何なんだ!
まさかここは地球じゃないのか。ならばここは異世界なのか?
あぁ本当に異世界に産まれたのかそう考えるといろいろと説明がつくな。
プラスチックが無いのはまだ発明されてないだけで、この怪我をした体に止まらずに湧き上がってくる力はこの異世界独特の力つまりは魔力なんだろうな。
あぁ、つまり俺はあの世界あの日常に戻ることなく寝て起きてご飯を食べて死ねるのか。
それはなんて、なんて、なんて素晴らしい人生だろうか。
俺が感動に震えている間にメイドは出ていき部屋の中には誰もいなくなっている。
ポロポロと目からあふれ出すこの涙の流れる感触が、このしょっぱさが偽物では教えてくれる。
この世界を満喫してやろう。まずは魔力ってやつを操ってみよう。
う~ん難しいな、ていうか全く魔力が操れない。
なぜだ、感じれるし、魔力には確かに干渉してるはずなのになんで操れないんだ?
こういう時ラノベとかのテンプレはなんだっけ、そうだ詠唱だ!って俺の身体は今は赤ちゃんだから喋れないんでした。
もういいやこうなりゃ不貞寝だ、どうせ成長していったらわかるしな。
1ヶ月が経ち、体が丸みを帯び始めた頃までに赤ちゃんの部屋を訪れたのは、ご飯の時とおしめ代わりの布を変える時にやって来る数人のメイドだけであった。そのメイドも教育のためか二言三言赤ちゃんに喋りかけては部屋から出ていく。
2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月と経ち5ヶ月目にして自分の中にある魔力を動かすことに成功した。しかしその動かし方は、あまりにも遅くそしてムラがあったため操るまではいかなかった。
6ヶ月目と7ヶ月目は魔力をメイド達に気づかれないようにしながら動かすことだけをやり続けた。そして8ヶ月目にして体の中の魔力を自由に動かせるようになった。
9ヶ月目に体の一部を魔力で覆って生活しているとあることに気づく。それは覆ってる体の一部の成長が少しだけ他の部分に比べると成長が早くなっていることである。
なんか他のとこより魔力で覆っていた所の成長が早い気がするな。
つまり喉を魔力で覆うと早く喋れっるてことなのか、よく分からないが一応喉を覆って生活してみるか。
10ヶ月目には赤ちゃんが考えた通りに喉の成長が早くなり一通りの言葉をメイド達からの会話から学習していたので話せるようになっていた。
そして赤ちゃんはついに魔法と思われるあの一言を喋ろうとしていた。
あぁ楽しみだな、もしこれで本当に魔法が出たらここは本当にあの世界じゃなくて異世界ってことで安心することが出来る。
さぁ、あの時の光景を思い出しながら唱えてみよう。
「『温風』」
しかし起こったのはあの時メイドが起こした風に比べるととても小さく、温かくもなんともない風だった。
どういうことだ?なぜこんなにも小さいんだ?魔力の込め方が甘いのか、それとも唱え方が悪かったのか。ならもっと魔力を込めてもう一度だ。
しかし起こった風は一回目より少しだけ強くなっただけであのメイドに比べるとやはり小さかった。
今さっきとそこまで変わらないってことは問題は魔力の込め方ではないということだ。
さっぱり分からんな、こういう時はラノベとかだったらどうするんだったかな、たしかイメージが大切だとよく書いてあるよな、ならイメージを固めよう。
イメージするのはドライヤーだ。よしいくぞ。
「『温風』」
唱えた後に今までとは比べ物にならないくらいの温かな風が出ていた。それはメイドが出した風にも負けないくらいの風だった。
よし、成功だ。やっぱりイメージだったか。
これからはイメージをしながら魔法練習の開始だな。
11ヶ月目と12ヶ月目はずっと魔法練習を続けた。
そして自分の中にある魔力量が増えているのが分かった。
魔法練習と並行して足腰や指や手を魔力で覆いできるだけ早く成長させようとしていた。
そして1年と少しが経った頃には完全に歩けて喋れるのようになっていた。