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神様チート

 ◇


「おい、どういうことだよ」

 目の前に立っているのはクソジジイならぬ、神様だった。


「お熱いところすまぬのう。だがお主の願いは完遂されたことじゃし、もう時間なのじゃ」


「時間?」


「お主には、これからこの世界の神様になってもらう」

 お主の世界で換算するとちっと200年ほどじゃ、と彼は付け足した。


「そんな話聞いてないんですが」

「儂は最初からこのためにお主を呼んだのじゃよ」

「200年も?」

「その間は年を取らぬようになっておるから安心せえ。任期を務めあげたら適当な世界から人を連れてきて、願いを3つ叶えさせる代わりにそやつを神様にするんじゃ。これまで儂がしてきたようにな。3つ叶えないと元の世界に戻れてしまうからの」


 ふぉふぉふぉふぉふぉ、と彼は高笑いをした。


「200年が終われば、お主は元の世界に戻れるのじゃ。異世界に来る直前のお主にそのままの。ただ異世界での記憶は失っておるからそこは注意じゃ」


「俺は一体、その200年で何をすればいいんですか?」


「ただ見守るだけじゃ」

「見守る?」

「そう。結構面白いぞ。地上に降りて人間にちょっかいをだしてもいい。元の世界の住人を連れてきてもいい。ただ、叶えられるのは別世界の人間の願いだけじゃ。あと、幽体化するから直接触れることはできぬぞ。もし世界が崩壊しそうになったら、まあ、そのときはそのときじゃ」


 この世界を頼むぞ、と言い残し老人は消え去った。


 こうして俺は神様になった。


 ◇


 それから俺は上から世界が発展していくのをひたすら眺めていた。

 神様になったからといっても、自分の思いのままの世界を作れるわけではなかった。


 レミエルのところには毎日姿を現していた。

 200年は、独りで過ごすのには寂しかったが、2人で過ごすにはあっという間だった。


 神になった経緯を聞いて、驚いた顔をしていた。

「ほぼ詐欺同然の手口じゃないですか」

 事の詳細を聞いた彼女は大きな声を上げた。

「まぁまぁ、こうなったからには神様ライフを楽しむよ」

「……まだ感情の学習が終わってないんです。私のところに来てくれますか?」

「ああ、もちろん。毎日来るよ」


 レミエルは200年の間で3度、大きな故障に見舞われた。

 自力でメンテナンスをできる範囲を超えていたが、俺のアドバイスや機械師の仲介でなんとか乗り越えた。


 別の世界、つまり俺の元のいた世界に顔をのぞかせることもできたが、やめておいた。


 そして、155年が経った。

 異世界の文明も発達し、1度大きな戦争があった。


「お願いがあります」

 ある日、レミエルがこう切り出した。

「私の願いは2つまでなら自由に叶えることができるんだよね?」

「確か、そうだったはず」

 3つ叶えてしまうと、レミエルが次の神様になってしまう。

「じゃあ、逆に君が自由にできることなら願いにカウントされないのかな」

「自由にできること?」

「今から言うことは、私のひとりごとだから。お願いじゃないから」

「お、おう」


「地球の私をこの世界に連れ帰ってきて、155年前の世界のあの街に送ってほしいんだ」

「え、どういうこと?」

「神様があなたに言ったはず。この世界に限り、過去に戻ることができる」

「確か、言ってたような」

 レミエルには、神様とのやりとりを全て話していた。

「そして、今は地球は2171年なの」

 異世界、つまり地球から人を連れて来るのは俺の権限でできることだ。


「でも、どうやって過去に送るんだ?」

 俺は幽霊のような状態なので物に触れることができない。


「それに関しては問題ないと思う。ここからは推測だけど、どうして神様は過去に戻れることができるんだと思う?」

「どうしてって、神だから?」

「現在地点には戻れても、未来には行けないんでしょう?」

 役目をサボれないかと思って、未来に行けるかどうかは既に試みていた。

 その前提から考えてみたの、と彼女は言った。


「神様はあなたに最初こう言った。自分は世界の管理人だって」

「言ってた気がする」

「神様の役目は世界を見守ること、そして崩壊させないこと。それだと、万が一崩壊したときに、神様は無力だよね。直接、住民と関われないから。だから、ターニングポイントとなる過去のある時点に異世界の民を送り、『願い』という形で住民に干渉させることで、破滅的な未来を変えるっていう裏技があるんじゃないかと思うの」

「バタフライ効果か」

「そういうこと。過去に戻れるのも、人をよそから連れて来るのも、本来ならばバックアップとして備わっている機能だと考えられる……って思ったんだけどどうかな?」

 だから、地球の人間をこの世界の過去に送ることができると結論付けた、と彼女は言った。


 言うなれば、神様チートってわけだ。

 神様の役割を異世界の人間に任せないのは、自己に有利な未来を形成できるからだろう。何度も過去に地球人を送ることで気に入らない現状を変えることができるからだ。


「じゃあその原理を利用しない手はないな」

 こくりと彼女は頷いた。

「あなたがこの世界に来たのは、もしかしたら未来を変えるためかもしれない。そうじゃないかもしれない。ただ、あなたが選ばれたのは、神様の目に留まってしまったから。でも私は違う。2171年の私は、未来のあなたに飛ばされてここにやってきたの」


「俺が?」


「私を呼んだ神様は仮面で顔を隠していた。変だと思っていたの。あなたが未来から来た神様だったらつじつまが合うわ。それに、私に『頑張ってね』と声をかけてきたのは、他ならぬ私の声なの。残っているデータと今の私の声が一致したんだ」

「人間の女の人の声じゃなかったんだっけ?」

「私の声は前とは違って、ほぼ人間に相違ないから」


 そう考えるとすべてが繋がる。

 あのいい加減な前の神様も、彼女のことは『範囲外の異物』と呼んでいた。


「そうだな。しっくりくる」

「だから、あなたと会う前の捨てられそうな私を救ってほしいの」

 あなたと出会うために、私はここに来たの、と彼女は言った。


 俺は2171年の地球に飛び、製品ナンバー21359587-0876-098731の彼女を探し出し、連れて帰ってきた。


「望みは何だ」

 仮面を付けた俺はそう問いかけた。

「特にありません」

 彼女はとても平坦な声で返した。最初はこんな感じだったなと懐かしくなった。


「頑張って」

 過去に戻ろうとしたとき、レミエルが叫んでいるのが聞こえた。


 155年前のあの街の近くで彼女を下ろした。

 声をかけて送り出そうと思ったがやめておいた。

 彼女は、草原を歩いていた獣を見ると興味津々といった様子で近づいた。しばらくべたべた触っていたが、目からレーザーを出して獣を殺してしまった。

 ……見てはいけないものを見てしまった気がする。

 来る途中で見た獣の死体は彼女が原因だったのか。


 ◇


 そうして、200年が過ぎた。

 結局、俺はずっとレミエルと一緒にいた。

 世界は崩壊の危機を迎えることはなかった。


 俺が次の神様役として連れてきたのは、売れっ子漫画家だった。200年の異世界での休暇に彼は喜んでいた。


 レミエルともお別れだ。

「俺は2016年に戻るよ」

 漫画家の最後の願いを叶えてあげた後に、俺は彼女にそう告げた。

「お勤めご苦労様です」

「ずっと、話し相手になってくれてありがとう」

 そっけないふりをしているが、今にも俺は泣きそうだった。

 こういうときにどう気持ちを伝えればいいのだろう。


「私も、人間のことを学習できて面白かった。なにより楽しかったしあっという間だった。一緒にいられたのがあなただったから」

 彼女の頬に触れようとしたが、掴めなかった。差し伸ばした俺の手に、彼女は両手を重ねた。


「私も君に願いを叶えてほしいことがあるんだ」

「2つまでなら大丈夫だよ」

 彼女も実質的には別世界からの人間扱いになる、というのが2人の出した結論だった。


「1つ目。私を18歳の人間の女性にしてほしい」

「わかった」

 ほいっと言って俺は彼女の願いを叶えた。


「2つ目。2016年の地球で、普通の女子高校生としてあなたと出会いたい」

「……本当に?」

 彼女は泣きそうな顔になっていた。

「ずっとそばにいたいってことが、好きってことでしょう?」

 俺は黙って彼女の2つ目の願いを叶えた。


「今まで本当にありがとう。もしよかったら次の世界でもよろしくね」

 レミエルはにっこりと笑っていた。


 言葉を返そうとしたとき、視界が真っ白になった。


 ◇


 コンビニで買ったチョコをカバンに入れようとしたとき、「こんにちは」と前から歩いてきた老人に声を掛けられた。

 初めて見る老人だったが、俺も挨拶を返しておいた。

 ふぉふぉふぉと老人は笑いながら歩き去っていった。

 振り返ると老人はどこにもいなかった。どこかで見たことのあるような気がするが、全く思い出せない。


 そう首をひねっていると、「ねぇ君」と呼び止められた。

 制服姿の女の子が立っていた。まじまじと見つめてしまうほど可愛かった。もう10月なのに、なぜか夏服姿だ。

「君だよ君。さっきチョコ買っていたよね? あのチョコ、結構マニアックだけどおいしいよね、私も好きなんだ」

「え?」

「ごめんなさい、同好の士を見かけてついつい声をかけちゃいました。迷惑でしたか?」

 上目遣いで俺を見上げて来る。反則だ。

「……い、いや全然そんなことないです」

「もしよかったら話でもしません?」

 彼女が指さしたのは喫茶店だった。

「これは3つ目のお願いです」

「え?」

「あなたに拒否権はないから。逃がしてあげないんだから」

「は、はあ」

 ちょっと変だけど、悪い人ではなさそうだった。

 それに、なんだか懐かしい気持ちになった。

「暇だし、いいよ」

 やったーと声をあげ、俺の手を引いて道を進んでいく。

 彼女の手は温かかった。



王道のファンタジーを書こうとしたらこんなものが出来上がってしまいました。

最初が「で始まるときって字下げしないのが一般的なんですね。最終話で気づきました。

普段は推理小説まがいのものを投稿しています。よかったらそちらもどうぞ。


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