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『むぐ、むぐ。よぐ、よおぐ、お聞ぎ』

 日照りが続いていた。およそ百年ぶりの大日照り。田畑は乾いて、いつもの収穫の半分も見込めない。そう、大人たちが嘆いているのを聞いた。

 貧しい寒村だった。若者たちは皆戦にとられ、残ったのは老人と女子供だけ。まともな働き手も見込めないまま必死で耕したことも、全ては無駄となってしまった。僅かな蓄え。やがて訪れる冬の冷気は、容赦なく多くの命を奪うことだろう。少女の幼い妹や弟たちも、その外には漏れない。祖母もそれを理解していたのだろう。彼女は痛いほどに少女の両肩を掴んで離さなかった。

『むぐ、むぐ。おめは――』

 その言葉の後。少女は母親に引かれて山に入った。母と手を繋ぐことは久しぶりだった。野良仕事や家事、妹や弟の世話に追われて、日頃母が少女と向かい合うことは稀だった。彼女の荒れた手を握りしめ、少女は母を見上げる。もっとも母が彼女を見なかった理由は、それだけではないだろう。彼女にとって少女は、数多いるわが子の中で最も不要で――愛情のない子供だった。

 草を分けて、山に入る。普段足を踏み込まぬ奥にまで、母は進む。繋がれた手が、ぐいぐいと容赦なく少女を引き摺った。途中草で足を切ったが、母は娘の声を無視した。疲れた眼差しは、少女を見ない。気遣う素振りさえない。しかし、少女は嬉しかった。

 たとえその後に待ち受けるものが何であろうと――繋いだ手のぬくもりだけで、少女は幸せだった。


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