7.
ああ、船医さん。あいつが、あごひげと黒のフロックコートの医者が現れたのです。やつは時間に取り残されたようでした。最後に会ってから十八年も経つのに、姿かたちが少しも変わっとらんのです。やつはまだ奇妙な形の赤ん坊の研究をしておったのです! やつはあれから標本になりそうな子どもの骸をさがして、イタリアじゅうを旅してまわっていたのです。カラブリアの山奥やナポリの貧民街で、やつはしこたま奇形の子どもの骸を買い集め、防腐剤のなかに漬け込んで観察し、奇形の子どもが生まれる仕組みを研究していたのです。そして、やつはカステルビアンコに戻ってきたのです!
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ああ、船医さん。やつは、わしのことを覚えていました。やつは、また、わしに死んだ奇形の子どもの母親を紹介してくれといいました。やつは褒め言葉のつもりか、わしが紹介した家の子どもが一番学術的興味をそそられたとぬかしおったのです。おお、船医さん。わしはやつに、あんたにかまっている暇はないんだといってやったのです。事実、そのとおりでした! わしとわしの家族は、金がないばかりにドン・トゥリッドゥに殺されるというのに、やつは医学だの研究だのの話ばかりして、わしにまとわりついたのです。研究、研究! ああ、船医さん! やつはミラノの生まれでした。ミラノには《叔父》のような連中がいなかったので、わしがどんな災いに見舞われているか、見当もつかなかったのでしょう。わしがやつを振り払って、駆け出そうとしたそのとき、末っ子のジュセッペが窓にひょっこり姿を見せ、指が一本しか生えていない右手を無邪気にふりました。
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ああ、船医さん。やつはジュセッペの右手のかたちに一目惚れしたのです。やつの目の色がどんなふうに輝いたか、とてもじゃないですが伝えられません。聖ジョヴァンニ祭の花火よりもギラギラと輝いたのです。やつはいきなりわしの耳に金額をささやきました。やつが申し出た金額は死んだ子どもに支払うにはあまりに高額の礼金でした。そうなのです。やつは生きた子どもに支払おうとしていたのです!
「私は村はずれの下宿屋に泊まっています。そこまで連れてきてくだされば、あとはこちらで引き受けましょう」
やつはそういいました。ああ、船医さん、医学とはそうまでして進歩せねばならん学問なのですか? やつは、わしのジュセッペを生きたままホルマリン漬けにするつもりでした。わしは、そんなこと断じて許すつもりは……
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ああ、船医さん、信じてくだされ。わしはそんなことするつもりじゃなかったのです。でも、気がつくとわしは村の街路の端にいました。ジュセッペの手を引いて!