第五章《愚者の足掻き》〔04〕
ノイシュタットの前に位置するフェンガスト山の前で、クロラは敵を待ち構えていた。
身の丈以上の鎌を肩にのせ、白い雪の上に黒の腕袋を投げ捨てる。
どさっと似合わない重そうな音が、耳の中に残った。
「………Release」
小さくクロラが呟いて、彼女の体から白と黒の光の球体が飛んだ。
二種類の球体は、みるみる大きくなっていきボールほどの大きさに変わると、分裂を始めた。
幾つもの球体が、クロラを囲むと光を帯びて体に吸収されていく。
そのとき。
雪山の下辺りから、何本もの剣がクロラに向かって飛んできた。
風を切るかのように猛スピードで進む剣が喉元をかすり、HPは少し削れる。
「………来たね」
大きな罵声と、爆発音。
こちらに向かってくる敵たちは、ターゲットの姿を確認した途端お互いを攻撃し始めた。
まるで自分の手柄にするためのように。
そうしているうちに、クロラの姿は消えてしまった。
どこだどこだと探す感染者の群れの真上に、その姿が。
真っ黒な衣装に身を包んでいた彼女とは違い、今度は真っ黒なパーカーを着て
後ろのフードを目深にかぶって、そこから少しばかり見える瞳が冷たく見える。
「………さァ、はじめようか」
手を伸ばし、鎌を振り上げると敵に向かって走り出した。
「クロラー!!」
「ラー!」
「え!?何で!」
クロラの向く方向とは反対の方に、アイザたちが走ってきた。
いつもと格好の違うクロラの姿に、一同ー…セブ以外が驚く。
「え!?お前、アバター着替えたの!?」
と、キリコ。
「クロラちゃんっ!!可愛い……けどどーなってんの!?」
と、ウェリ。
「すげー!!かっけー!!クロルすげー!!」
と、リテュール。
「いや、クロルじゃないし、クロラだし」
若干呆れ顔で、クロラはリテュールの頭をぐりぐりと撫でた。




