第三章《少年よ騎士になれ》〔05〕
光に包まれるクロラの体…。
アイザはただ呆然とそれを見ていた。
やがて光が消えると、彼女と老人の姿が。
老人はへなへなと床に座り込み、リバウンドしたように膨れ上がった右腕を押さえ
苦しんでいる。
クロラは老人の杖を手に持ち、はぁはぁと息をついて。
彼女の格好はいつも着ていた真っ黒な服とは対照的で、真っ白なドレスを着ていた。
「そんな……ありえん、わしの魔法は完璧だった」
「ごめんね、ボクはまだこんなとこじゃ死ねないんだ」
クロラはその真っ白なドレスを揺らして家のドアに一歩一歩と歩き出す。
純白ともいえるドレスは踏み出すたびに元の真っ黒な服へと変わっていった。
「でも凄かったよ。あんな芸当、誰にでも出来ることじゃない。
後一歩これを使うのが遅かったらボクはやられていたね」
そう言ってクロラは戻りかけのドレスの裾を指で掴み言った。
「それに、ボクの目的地はここじゃなかったみたいだし。
あんたに命令したヤツが、まだ他にいるね?」
「なっ……!!何故それを!?」
老人がクロラに問う。
「ちょっと、腕のある情報屋からね」
クロラが笑いながら家のドアに手をかけ、外に出る。
「まだ……わしの野望を果たすためにはぁぁぁ!!!!」
老人が立ち上がる。
膨れた右腕を高々と上げ、クロラに向かってその手を向けると
「「血の静粛」に関わっていたものはコイツだ!!
リテュール!わしに従え!!コイツをあの方のところには向かわせるな!!!」
「………!!?リテュールって!?」
クロラが慌ててアイザを抱え、走り出す。
大きな爆音とともに、煙が立つ。
ドンッ
「やっばぁ~……ありゃ、ボクでも手に負えないなぁ」
爆風の中から出てきた人物の姿を見てクロラがため息をつく。
姿は緑髪の小さな子供で、右目の下には血がついていた。
子供ー…リテュールと呼ばれた少年は「キシシ」と笑って
「あれ?僕が殺ればいいのって」
老人の方を向く。老人は「そうだ」といってリテュールに叫んだ。
それを聞いたリテュールはまた「キシシ」といってクロラの方へ走り出す。
「強そー」
「……っ!!?」
一瞬で間合いを詰められたクロラはまともに対応できず、少年の拳で宙に飛ばされる。
クロラは宙に飛ばされた体を必死に動かして、受身を取った。
「あれ、弱い?」
「そうだね、君は強いもんね」
リテュールの質問に軽く答えて今度はクロラが攻撃を仕掛けた。
肉食獣のように地を蹴り、リテュールの首目掛けて大きな漆黒の鎌を振るう。
だがリテュールはその鎌を軽々とよけ、背後に回ってクロラの体を足で蹴った。
「がっ…!!!?」
「やっぱり、弱い」
勢い良く地に叩きつけられたクロラにリテュールが近づく。
「もう、終わり」
リテュールが拳を上に振り上げ倒れたクロラの背中にトドメを刺そうとした、そのとき。
タンッ
たった一発の銃声とともに、リテュールの拳がそれた。
クロラが銃声音の先を見ると、そこにはあのときのように両手でハンドガンを構えたアイザの姿。
「逃げよう!!クロラ!!」
「……うん!」
アイザの差し出した手にクロラが捕まる。
「くっそぉぉぉおぉぉおおぉ!!このボクに攻撃した罪は重いぞ!!
一生追いかけてやるぅうぅううぅ!!!」
リテュールの叫び声にクロラとアイザは逃げるようにして村を出た。




