第三章《少年よ騎士になれ》〔04〕
獣の息が古ぼけた家の中を埋め尽くす。
狼とライオンの合成獣が五匹、クロラとアイザを囲む。
老人はクロラの姿を見ながら、にまっと笑った。
「こりゃまた、やってくれたね」
クロラは噛み付いたキメラの体を鎌で切り裂く。
切り裂かれたキメラの体の鮮血がクロラの顔に飛び散る。
アイザは彼女を見て思った。
傭兵クロラにはひとつの噂話がある。
それは「不死身の体」でノイシュタットの大量虐殺事件、「血の静粛」に関わっていた
ということ。
そのときアイザはまだリアルセカンドの存在を知らず、現実で普通の生活を送っていた。
「血の静粛」は『魔王』と名乗った一人の少女が、
ノイシュタットに滞在していたプレイヤー約80人を強制アンインストール、
殺害したという事件。
噂によると、プレイヤーだけでなくNPCまでもを殺害したのだとか。
もしかしたら、誰かが噂に嘘の情報を付けたししたのかも知れないが、アイザは
その噂を信じられなかった。
「アイザ君!後ろ!!」
クロラの叫び声がアイザを振り向かせる。
そこには飛び上がり、アイザに噛み付かんばかりのキメラの牙が。
アイザは体を左に捻り、キメラの体にハンドガンで撃ち込む。
だがアイザの弾はキメラには効かず、背後からもう一匹のキメラに肩を抉られた。
「ぐぅぅっ…!!」
アイザの体は床に崩れ落ち、HPは嫌な音を立てて大きく減った。
クロラがそれに気づき、アイザに駆け寄る。
「アイザ君!!」
「クロ、ラ……!!」
「ふはは、良いぞ!!不老不死はわしのものだぁ!!」
老人がクロラの周りを囲むキメラを杖で殴りつけ、クロラの前に立つ。
老人はクロラの額に杖をあて、そして魔方陣を展開する。
「クロラー!!」
アイザが叫んだとき、部屋の中は光で埋め尽くされた。




