第3節 お散歩しませんか
床も天井も壁も白い部屋。
部屋に柱は無く、半球形の天井を持っている。
部屋の中心には大きな机と椅子があり、その椅子に腰掛ける少年がいた。
幼くも美しい容姿に目が引かれる。
それはまるで、椅子に腰掛ける人形のようだった。
雲が退き、遮る物が無くなった日の光は、大きな窓を通り少年の影を床に落とす。
少年の持つ綺麗な金髪が、光を受け煌く。
大きな瞳。
小動物のような可憐な鼻と口。
そして大きな耳。
左の耳たぶには、フープ状のピアスが二つ。
不意に少年は椅子から飛び降りる。
二つのピアスがぶつかり、カシャリと音を立てた。
「外に行きたいな……」
少年が呟き、重い足取りで部屋を出る。
間を置かずして扉の外では、少年と誰かが争う声が聞こえ出す。
机の上には絵かき帳とクレヨンが残されていた。
***
自宅で買った魚を冷凍魔術が施された箱にしまっていると、脳に一瞬ノイズが走る。
誰かが俺に通信魔術を行使したようだ。
意識を集中させて、通信を受け入れる。
(ギルド職員のセリーヌ・アリオーです)
あぁ。あの桃髪のショートカットか。
通信魔術は個人の魔力波長を記憶、 個人に向け大気中のマナを振動させて交信を可能にする魔術だ。
ギルドは円滑な業務を行うために、冒険者の魔力波長を記録し通信魔術の行使を可能にしている。
個人間でも魔力波長を記憶すると通信魔術が行使出来るが、気質が合わないというか魔力波長が合わないと行使の際に嫌悪感が走る。
物事とは上手くいかないものだな。
それにしてもあちら側から通信してくると、考えられるのは――
(クロンヴァール侯爵からの個人的なお願いですか?)
ギルド側から通信してくるとは、それしか考えられない。
(あ、いえ。ち、違います。ギルド側からの依頼としては違わないんですが……)
違うってどういうことだ。
俺が困惑していると彼女は続ける。
間を察するのが上手い。
(えぇーっと……依頼者様側からギルド最高位の冒険者に依頼するように言われまして。その……アルウェルに滞在している最高ランクの冒険者は現在トウヤ様になるのですが……)
あぁ。そういうことか。
三人しか居ないSランクはもとより、Aランクも国内外関係なしに飛び回ってるもんな。
(依頼の内容は何ですか?)
(今回の依頼は護衛になります。これからすぐ護衛について欲しいと。依頼に関しまして、護衛が目立たないように一人のみ雇うとのことです)
最高位の冒険者を一人のみ雇う……?
一体どういうことだ。
(危険地帯での調査でしょうか? そうなりますと準備が必要になるのですが)
(あぁ、いえ! 対象地帯は商業都市アルウェルです。危険そうな場所には絶対足を踏み入れさせてはいけないと……)
(そうなると……依頼者はどこかの貴族ですか?)
(違います。民間の方です。伝えるのが遅くなりましたが、依頼内容は依頼者様の息子さんのアルウェル探索を護衛することです)
続けて彼女は言った。
(平たく言いますと、散歩の付き添いです)