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異世界に溺れちゃう  作者: ぽんぽこ太郎
第0章 抜き身持つは誰か
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第3節 アルウェル(後編)

 ヒールが折れた。

 構うものか。

 ギルドに向けて、駆ける足は止められない。

 同僚のエヴァートン先生には悪いことをした。

 せっかく誘って頂いたのに。今度お詫びをしなければ。


 それよりも今はトウヤの事だ。

 昨日、暮れ時の少し前にトウヤは家を出た。

 冒険者ギルド登用試験を受けるため。

 武器となる魔導器は持っていかなのか、と尋ねるとトウヤは、名ばかりの試験だから、と。

 それもそうだと思った。

 ギルド側は野営の手際だとか、耐性だとか主張していたが、本来の目的は同期となる冒険者との親睦会だ。

 中には肌身離さず魔導器を持っている人もいるが、はたしてこの登用試験において幾人ほどいるか。

 私としても、トウヤの立場なら魔導器なんて大げさなもの持っていかない。

 持っていくとしてもせいぜい護身用のナイフ程度だろう。


 本気になって止めれば良かった。

 冒険者なんて危険なだけだ。

 トウヤなら軍の騎士階級にだって成れる。

 危険は伴うが、そっちの方がずっとまともだ。


 しかし、なんで……。

 毎回この登用試験が行われるのはルフドルの森。

 ルフドルの森に魔物なんて現れない。


 それにエヴァートン先生は襲撃があった、と言っただけだ。

 きっと、ギルドの職員か試験生が撃退して、門出を祝う武勇になった。

 きっとそうだ。誰も怪我していない。きっとそうだ。

 エヴァートン先生にはみっともない所を見せてしまった。

 トウヤの安全を確認して終わり。

 確認したら、とにかく冒険者なんて辞めさせよう。

 そうだ。もしかしたら、もう既に家に帰っているかもしれない。

 そしたら、少し遅くなるけど朝食を準備しよう。

 夕飯は一緒に外で食べるのもいい。

 ほら、この前言ってた海岸が覗ける魚料理のお店。

 食後にはそこで一緒にポートワインを飲もう。


 そういえば卒業祝いがまだだったね。




 だいぶ冷静になれた。

 白を基調とした、アルウェル学院と同様の大理石の建築物。

 城のように大きな建物が見えてきた。

 もうギルドはすぐそこだ。

 何やらいつもより騒がしい。

 祝杯を上げているのだろうか。

 こんな日の高い内から。



 ギルドの門に近づくに連れ、怒号が大きく聞こえる。

 明らかに異常な雰囲気だ。


 開けっ放しの門を潜ると、人々がせわしなく行き交う。


 市民にギルド職員に――治癒術士。


 視界の端に、膨らみのある幾つもの黒い納体袋を捉えた瞬間、思考が停まった。


 遅れて血の臭いが鼻をつく。

 そこで思考を戻す。


 私は馬鹿だ。

 希望的な推測ばかり述べ、目を背けていた。


 呆けてるわけにはいかない。

 行動に移そう。

 適当な女性のギルド職員に捕まえて、トウヤ・シミズの事を尋ねる。

 何が起きたかは尋ねない。

 説明を聞く暇もする暇も、今の私と彼女にはない。

 一刻も早くトウヤの安否を知りたい。

 二階右手の部屋にいます、と彼女は答えた。


 礼を述べて私は、泣き崩れている市民達――亡くなられた試験生、いや冒険者の家族だろうか――を横にギルドの正面にある大階段を上る。


 います、とは一体どういう意味なのだろうか。

 彼だった物がある、という意味ではないだろうか。

 歩みは遅らせない。

 行きつく先がどうあれ私は、事実を受け止めよう。


 二階右手の部屋。ここだ。

 扉は開いている。


 大きなこの部屋に入ると、中には寝台が並べられていた。


 手前の寝台の上には、人が目を閉じて横たわっている。

 寝ている……のだろうか。


 部屋を見渡す。


 一番奥の寝台に、黒髪を見つけた。

 上体を起こし窓の外を見ている。


 この世界では存在しない自然な黒髪。

 間違いない――


 ふと彼――トウヤ・シミズと目が合った。


「フ、フラン……!」


 彼が頓狂な声を上げる。


 手放しかけた希望は、私にとって再び涙を流させるに足り得る物だった。


主人公は帝立アルウェル学院高等部を、飛び級を重ね一年で卒業しました。

本編を完結させた後に、主人公の学院編を書かせて下さい。

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