【短編】25日のケーキ
クリスマスはとても騒がしい。駅前は、私にとって目を覆いたくなる現実として広がっている。ついに私も20代後半。いつまでクリスマスを素直に楽しい行事として受け取っていたのだろうか。コンビニの棚には、クリスマス以前には並んでいなかったケーキや期間限定のチキンも並んでおり買って欲しいと自己主張している。うっとうしくてしょうがない。クリスマスは仕事である私に対し、このイベントを楽しんでいる方々は少し幸せを分けるべきだ。
いつ頃からだろう。同級生からメールが来る。
件名 結婚することにしました。
件名 ついに家庭を持つことになりました。
件名 結婚式のお誘いです。
日に日に自分の仲間は減っている。現在進行形だ。昨日まで普通に連絡ができた人が遠い。そして、一歩先に進んだ存在となる。この前の結婚式では友だちに心配され、ブーケを直接手渡しされ、
「次はあなたに幸せになって欲しい。頑張って。」
眩しすぎる笑顔と共に放たれた言葉だ。余計なお世話だった。浮いた話は一切ない自分に対しその言葉はケーキナイフのように私の心を真っ二つに引き裂く。勿論、結婚式は喜ばしい行事であり、誘われる事も素直に嬉しい事だ。でも、最近の結婚式で泣いてしまう理由は嬉しさだけではない。いつから素直な自分を見失ってしまったのだろう。
……仕事は、楽しい。いつもはそんな事考えた事もない。でも、今日は楽しいと自分に嘘をつかないと仕事に集中できない。……仕事は、楽しい。
25日なのに、気付くと11時を過ぎてしまっていた。今日も夕食はコンビニ弁当になってしまうのだろう。弁当を買いに走る。コンビニの棚には24日の朝にみたケーキがまだ並んでいた。記憶が正しければ1つも売れていないみたいだ。しかし、そのケーキには変化があった。今では、半額の値札がつけられている。昨日までの輝きが失われており、棚の隅に追いやられている。
私も半額なのかな。
女性の婚期は良く、クリスマスケーキに例えられる。需要は20台前半までという例え話だ。失礼な話である。大卒、仕事をしている、資格を持っている、料理がうまい。私というケーキの上には立派な苺が乗っているはずだった……。値段が高いのだろうか、置かれている場所が悪いのだろうか。
どことなく親近感がわき、ケーキを手に取る。絶対に来年こそは楽しいイベントにするという決意の表れだ。
「探せば、絶対に買う人は見つかるはずだ。」
心の中で何回も反芻する。
立派なケーキがある。でももし、棚に並んでいなかったら誰も買う事は出来ない。自分から壁を作っていたケーキがまた1つ棚に並び始めた。
今日はクリスマス。決意の日から丁度1年だ。結婚式の会場、ビデオで自分の歴史が流れる。父親と母親が泣いている。
「幸せになってくれてありがとう。」
沢山の友だちも泣いてくれた。私はブーケと共に言う、
「次は、あなたに幸せになって貰いたい。」
悔しいだろう。多分、嫌な女だと思われてしまった。でも、悔しさをバネに頑張って欲しい。
「ありがとう。」
……声が震えている。
子どもが出来たら半額のケーキを買って帰るなんて恥ずかしくてできない。でも、今年位は半額のケーキを買って帰っても怒られないかなと思う。
「半額のケーキ買ってきたよ。」
私はこんな私を貰ってくれてありがとうという思いと共に夫にケーキを差し出すのだ。半額を強調した私に対し、夫は不思議そうな顔をしている。次はいつ結婚式に誘われるだろうか。私は楽しみで仕方がない。
短編、4作目。評価、レビュー、感想等気軽に頂けるととても嬉しいです。