『五大能力者』
男性は鋭い目をして、さっきの人のように手で銃の形を作り、それをこちらに向けてきた。
(こいつは火を出すやつ!)
パンッ!
そして、打ってきた。
「ぅおい!」
俺がさっき倒した人にやったように、顔面に狙ってきやがった。
(おいおい、流石に火を顔面に当てるのは残酷すぎるだろ!!
けど、これくらいの速さなら!!)
「俺の動体視力を舐めるな...うぇ!」
命中したわけではなく、避けようと足を踏み込んだところ、床にこぼれていた水に足を滑らせて転んでしまったのだ。
しかし、結果顔面に飛んできた火の玉を避けることは出来た。
「ッチ。」
松本という男はしたうちをし、再び手を構え、転んで動けない夢渡に容赦無くもう一発撃った。
(やばいっ!体が!!)
だめだ、完全に殺された....終わったと思っていた瞬間、火の玉は突然現れた水に阻まれ、お互い打ち消しあって蒸発した。
「っえ?」
自分でもわけがわからなかった。
「こいつ、まさかハニーと同じ能力を!?」
そんな驚いている松本を見て、チャンスだと思い、夢渡は動いた。
転んだ状態から四つん這いになって、
さっき投げたもう一人の方に投げた野球ボール(硬球)を拾おうとして、そっーっと前進した。
そしてボールに手を伸ばし....
パンッ!
「アチッ!!」
松本はそれに気づき、すかさず火の玉を飛ばし夢渡のがボールを取ろうとした手に撃ち込んだ。
一瞬で作った火の玉なので、その分威力は無く脅し程度の力しか発揮はしていなかった。
しかし、それでも効果はあり、夢渡は驚き退いてしまった。
「.....」
(や....やばい...このままじゃ、殺されてしまう。)
「もうこれで終わりか?」
「わ...分かった...カンナはあんたらに渡す!この事は誰にも話したりしないから!!」
(カンナは
捕まってまた実験台にされてしまう...
そうだよ...
そもそも何で俺があって数日の女の子のためにしな無くちゃいけないんだよ....)
「そうか...だがもう遅い。これで終わりにしよう。」
(はは...恥ずかしいな...俺は結局逃げたくせ殺されちゃうのか。....結局最後の最後で女の子一人守るのを諦めて....逃げようとして....かっこ悪いな....)
走馬灯なのか、昔の出来事を思い出した。
あの時の昇の声が頭の中で響いた。
「いつまでも逃げて続けても何も変わらない....」
あれ?この言葉...昔聞いたことが....
「なら、胸を張って立ち向かえよ。
怖がらずに立ち向かえ...」
そうだ、小学生の頃自分がいじめられていた時、引っ越してきたとき俺があいつに言われた言葉だ....
「逃げるな!!立ち向かえ!!」
(そうだ......違う....何...俺怖がってるんだよ...
カンナを....
そうだ。
逃げない。最後まであいつを守る!
だから...絶対...ここで死ぬわけには行けないんだ!!!)
パンッ!
「うぉおおおおお!!」
「なっ。」
夢渡は飛んできた玉を左手で掴んだ。
本当なら熱さで手が燃えているはずだ。
けど今の夢渡にそんな感覚を感じることは出来なかった。
夢渡はそのまま右手で落ちているボールを拾い、立ち上がって振りかぶった。
(体中が熱い....これもあいつの火の玉を掴んだせいか....
けど、諦めない....絶対にだ!!!)
右手から全身に熱が広がるとともに、身体中に何かしらのチカラも湧いて来た。
「な!?お前...俺の火を!!」
さっきよりも驚いた顔をしている松本に力いっぱいボールを投げ込んだ。
夢渡は振り切った右腕の反動に耐えきれず、体を捻らせてその場で倒れた。全ての力をはたき尽くし意識が失っていくなか、自分の投げた玉が炎のように燃えながら、相手の腹に直撃するのを見た。
(あれ....幻覚かな....俺の投げたボールが燃えてる....)
「なん...だと!!ぐぁぁああああ。」
相手の悲鳴が聞こえる中、自分は意識を失った。
「ほう。この子...が...ね。」
萩原は倒れた夢渡を見て笑みを浮かべた。
☆
夢を見た。
目の前にはカンナがいた....
近寄ろうとしたが、近づいても近づいても、なかなか距離が縮まない。
むしろ距離が離れているような感じかする。
「待って!!」
そんな声は無意味だった。
走りながら彼女に手を伸ばすがだんだん小さくなって行く姿を掴むことは出来なかった。
嫌だ....結局助けられなかった....俺が逃げ出そうと考えたから....
追いつくことが出来ず、カンナは自分の前から消え去っていった。
カンナ....カンナアア!!!
☆
「カンナ!!
....」
目が覚めた...
(何だ、岡類斗大学でのことは夢か。)
って感じで、夢オチになるほど世の中上手くできていない....
「ってわけないか。」
「起きたか。」
寝転がっていたソファーから立ち上がり回りを見渡した。
自分がいるソファーと硝子張りの接客用の四角い机を挟んだ、向かい側のソファにはお腹に大きな火傷をして倒れている松本を、目を覚ましたのか、もう一人の水蓮という人がそれを看病していた。
さらに辺りを見回したら、回転椅子に座り、足を組んでタバコを吸っていた。
「萩原!?」
「萩原で....合ってる。」
名前を覚えていられたようだ。
「っう」
タバコの煙が部屋に充満していて、夢渡はそれを吸ってむせた。
「ああ、悪いな。換気しようか。」
立ち上がり、すぐそばの窓を開放し、空気が大分入れ替わり楽になった。
(ってかこんな場所で煙草吸っていいものなのか?)
少し疑問に思ったが、そんなことはどうでも良かった。
「じゃなくて、俺をこんなとこに縛り上げてどうするつもりだ!!」
「縛ってないがな」
「....
何をするつもりだ!!」
「もう何もせんよ。
お前らに手出しはしない。約束しよう。」
「本当か?けど、どうして?」
「それは....そうだ。なら君にいい事を教えてやる。」
「いや、俺はなんで突然手出しをしなくなたっかを...」
「まぁ、いいだろ。黙って聞いてくれれば返してやるんだから。」
「.....」
「よし、じゃあまずカンナちゃんのことからだ。」
萩山は窓の外に煙を吐いた。
「あの子は君の言う通りに私たちの実験材料として扱われていた。」
「....」
「彼女には奇妙な知識があるのを知ってるだろう?
それが彼女の能力なんだ。
しかし、彼女のその能力はとても希少で世界を乗っ取ることもできるかもしれない。
...もしその能力が他者に渡れば?」
「....悪用する奴が出る...って言わせたいんだろうけど、現にあなた達だって。」
「いや、少なくとも私は一人の研究者としてそんなつもりは無い。
超能力や第六感といった非現実的に近いものを今まで追い続けていたのは私は知りたいからだ。
そして今は能力と言うものがある、私はそれの真実を知るためだけに研究を続けているのだ。
研究者と言うものはあることを追求し、その全てを知ろうとするものだ。
自分の利益やましてやそれを悪用するために研究をするものは私は研究者失格だと思ってる。」
「.....」
「ただ、私は彼女から研究のため、これから広がる能力を理解して共存出来る様にするためにその能力を利用してもらっていただけだ。
かと言って誰かを傷つけるような真似をしてまで私は道徳心は抜けておらんよ。」
確かに嘘はついている様には見られない。
けど。
「じゃあ、なんでカンナは記憶が無いんだよ。」
「記憶が...ない?」
「そうだ、会った時から彼女は自分のことを全く知らない。」
「....」
「それに、なぜ、彼女は猫の姿になったり、猫の耳と尻尾が生えているままになっているんだ?」
「それは私たちではない、予測するに先日の〈覚醒現象〉によるもので、きっとそれも能力の影響だ。
私の様に能力がまだ制御し切れていない人は少なくも無いんだ。
だが....」
「?」
「いや、気にする必要はない。その件に関してはこちらで研究してみる。」
「そうだ....それに拾ったとき彼女は数箇所の切り傷があった、それでも人を傷つける真似をするやつは認めないと言うのか?」
「それは申し訳なかった。私の部下が出来損ないのせいだ。
私が責任を負って謝ろう。」
そういって軽く頭を下げてくれたが、謝るのは俺じゃ無くてカンナにして欲しい、それに煙草を加えたままとか心から謝っている様には見えなかった。
「そして、もう一つだ。
一応君にも軽く知っておいて欲しいことだ。」
そういって萩山は窓から離れ部屋の中を歩き始めた。
「君も知っているかもしれないが、能力には大きく分けて、〈特殊能力〉と〈普通能力〉の二つがある。」
「ああ、ちょうどテレビでみた。それも本当はカンナから聞き出したことだろ?」
「そうだ。
だが、まだ明るみにはしていないが、もう一つ〈五大能力〉と言うものがある存在する。」
「そ...ソース?」
「ああ、昔見つけた本があってな、そこには面白いことが書かれていたんだ。」
『ある神は一人の人間を作り出した。
その人間には造るチカラを与えた。
ある神は作ることに意欲的で効率を上げるために、一人にチカラを上げるチカラを与えた。
ある神は創ることに否定し、一人にチカラを下げるチカラを与えた。
ある神は間違えたチカラを元通りにするために一人にチカラを入れ替えるチカラを与えた。』
長々と話しながら萩山は座っている夢渡の背後から肩に手を起き顔を近づけて声を小さくして言った。
『そしてある神は自身でチカラをツクルことの出来ない1人にそのチカラを真似るチカラを与えた。』
「ゴホッ!」
煙草を近くで吸い、咳き込んでしまった。
(このおっさん....)
「という話でね。その先はよく覚えていないんだ。
はじめは神話の様なものだから気にしてはいなかったんだが、彼女から〈五大能力〉聞いた時、まさにそれだと思ったんだ。」
「つまり何が言いたいんだ。」
「この世には二つ意外に、五大能力という能力が存在するということだ。」
「....なんでそれを俺に?」
「....答えは自分で見つけなさい。
もしわからなければ彼女から聞けばいいさ。」
「....」
「このことは他言無用だ。いいね。」
「はい。」
結局この萩山のおっさんが言いたいかったことを今一理解出来ず、部屋を後にした。
来年もよろしくお願いします