岡類斗大学
12月27日
いつもなら姉ちゃんが起こしにきてくれるのだが、今日は違った。
かと言って別にカンナに起こされたってわけじゃない、自分で勝手におきてしまったのだ。
何か嫌な夢でも見たのかもしれない、よく覚えてないけど...
多分誰よりも早く起きたのだろう。
部屋の時計は5:30を差していた。
「喉が渇いた....」
布団を出て、寒いのを我慢しつつ、震えた体で階段を一段ずつ降りた。
「あれ?」
この時間はまだ外は暗く、階段の途中までは真っ暗だが、下からは明かりが....
(姉ちゃんか?)
リビングに着くと、カンナがまじまじとテレビを見ていた。
こいつに先に起きられていると、負けた気分で不愉快だった。
しかし、そんな風に思っている場合ではなかった。
「カンナ?」
「...」
テレビを無音にしているようだが、まるで我心ここに在らずのように夢中に見てるせいか、夢渡の声は聞こえてないみたいだ。
(一体何を見てるんだ?)
テレビ画面を覗き込むように顔を近づけた。
画面には男と女が真っ裸で....
要するにイケナイ動画だ。
「ば、バカっ!!朝から何見てんだよ!?」
バシッ
軽くカンナの頭を引っ叩いた。
「...痛い」
「お前の大事な大事な耳に当たらないようにしただけでも感謝しろ!!」
(ん?この映像見たことあるような...しかも、普通のチャンネルじゃあ放送するはずないし。
というか、有料ケーブル以外の方法じゃあ放送しないはずだ....)
そこで夢渡は一つの結論にたどり着いた。
「って、勝手に人の部屋から物を持っていくな!!」
バシッ!
「...凄く...痛い...」
今度はあえて耳にも当たるように狙った。
このビデオは俺が中々開けることの無い押入れの奥にしまってあったものだ。
あ、これは決して俺のビデオではないぞ。
昇に無理矢理貸されていたものなんだ!
強いられてるんだ!!
「取り敢えず返せ!!」
「...」
「何で勝手に持ってった?」
「...面白そうだったから」
「どこがだ!?」
カンナのそばに落ちてたビデオケースが目に入った。
表題は
[フラダーンスの犬]
「あ....」
(そうだ、パッケージと中身が違うんだっけ....
昇...殺してやる....)
夢渡は片手で頭を押さえながらため息混じりでボソッと謝った。
「俺が悪かった。」
頭を叩いたことを無かったかのようにするためなのか、目の前の何も理解していない純粋な女の子の頭を優しく撫でた。
「....?」
ならこちらも気にすることもない。
「何でもない。朝から悪かった。
けど、勝手に人の部屋から物を持って行くなよ。
そしてそのビデオ捨てるから返してくれるか?」
カンナは黙って頷き、ビデオを返してくれた。
このままビデオを捨ててやろうと思ったが、優しすぎる俺はそれを学校に持って行き、押し付けた張本人である昇の前で踏み潰してやると決心した。
「おはよう...。」
そこへ姉が眠そうに2階から降りてきた。
「おはよう姉ちゃん。」
「....おはようそのか。」
助かった、一足起きるのが遅かったら、バレるところだった...
その後、三人食卓を囲み朝食をとった。
「じゃ、姉ちゃん。カンナの服よろしく。」
「わかったわかった。」
今日はテンションが低いな...
無理もないか。ここ数日いろんなことがあり過ぎて流石に疲れてるよな。
俺も大分参ってるよ...
「じゃ、いってきまーす」
「いってら」
「...いってらっしゃい」
今日は早く起きれたので、のんびり歩いて登校することにした。
登校中にビデオの中身を思い出してしまい、カンナがそのビデオの終盤まで見ていた事に気づいてしまったという件については忘れることにした。
校門を抜けて、下駄箱で靴を上履きを履き、2階にあのの3年生の教室へ向かう。
そして、早速教室の前で野生の昇ると遭遇した。
「おっはよ~ゆめ~」
「おはよ。
あ、そうだ前に借りてたビデオ...」
「ビデオ?
・・・あ、ああ。
去年貸したやつか!そっかー。無くしたと思ってたわ。」
「へー。じゃあ、返すね。」
「おう。返せ返せ。」
まず、バックから取り出し、上へ振りあげ...
下へワンバウンド!
そして、ツーバウンド目に入るところで、同時に右足で踏み潰す!
「おまえ!!!ああああああ!俺の大事なコレクションがぁああああ!!」
泣き叫ぶ昇の前で右足ですり潰した。
(一年も貸しっぱなしにして忘れてたたくせに、何が大事なコレクションだ。)
昇を放って置いて暖房の効いた教室に入ろうと引き戸を開けると、女の顔が。
「うぉおお!?」
「ッ!?」
「....」
少し沈黙が続き我に返った。
そこには、青野がいた。
「おはよう白地くん」
「びっくりした...なんでここに立ってるんだよ。」
「一万年と二千年前から待っていたから。」
「何言ってるんだおまえ。」
「何でもない」
「何だ。とりあえず、ドアの前で突っ立ってないでくれ。」
青野は何処か寂しそうな顔をして謝った。
「ごめんなさい」
「いいよ。じゃあ。」
開けてくれた道を通ろうとして歩き出した時だ、彼女が俺を呼び止めた。
「あ...えっと...ちょっと待って....」
「ん?」
「きょ...今日終業式で午前授業だからその後一緒に遊びに行かない?」
(そういえば、今日が終業式だったな。)
普通ならもっと早いはずなのだが、今年はインフルで学級閉鎖があったので、2、3日程冬休みが減っているのだ。本当に迷惑な話だ。
そんな二人の会話を聞きつけたのか昇はすぐさまこちらに来て、割り込んで来た。
「あ!俺も行く行く!」
(クソッ!立ち直り早いな。)
ショックでしばらく静かになるかと思っていた夢渡は少し残念にしてた。
「上ヶ赤は引っ込んで。」
「うわ、何だよ。俺をのけものにして一体二人きりで何 企んでるんだよ~」
「べ、別に何もないわよ!!」
遊びに行きたい気持ちは山々だが....今日だけどうしてもむりだった。
「すまん、今日は用事がある。」
「え!?」
「フラれちゃった〜青野~。」
昇はニヤニヤしながら青野をバカにしてからかった。
「う、うるさい!!
で...でも白地くん...どうして?」
「塾があるから。」
「塾つっても、お前6時に行っても余裕じゃねえか。」
(チッ、昇め余計なこというな!
拾った女の子を連れ回さなくちゃいけないなんて言えるわけないだろ!)
「あのくそったれ塾の講師を倒さなくちゃいけないから。」
「倒すって?」
「ほら、俺成績悪いからさ、俺だけ個人面談あるわけなんだ。
だからごめん!今日は無理!また明日誘って!」
「あ、うん。わかった...」
夢渡は青野を避けて自分の席へ向かった。
「ゆめの奴何言ってるんだ?明日から冬休みだって言うのに。」
「....する...」
「青野?」
「え?」
「何そんな深刻な顔してるんだ?」
「ヘンタイには関係無い!ところであんた....」
☆
その後気づいたら終業式が終わっていり、最後に受験で重要となる最終通知表を受け取り下校した。
夢渡は今日、どうすればいいか頭の中がいっぱいでその重要な通知表のことなどどうでもよかった。
昼前には家に着いた。
「ただいま」
リビングからパジャマ姿のカンナが出てきてはこちらに向かってこう言った。
「...お腹すいた」
「わざわざお前のために遊ぶ約束を断って帰ってきた人が疲れて帰ってきたっていうのに、第一声がそれか。」
「...じゃあ...お帰り...ご飯にする?洋食にする?...それとも...わ・しょ・く?」
「お前はどんだけ腹減ってるんだよ!!」
一緒に飯を食って、ソファに横たわった。
俺は携帯で岡類斗大学までの電車などの経路を調べながらカンナに言った。
「そろそろ出かけるから着替えてくれ。」
「...うん」
「....」
隣から服が擦れるような音聞こえた
(おいおい...まさか...)
恐る恐る横を向けば、夢渡の予想していたとおり、カンナがその場で服を脱ぎはじめていた。
「ちょっ!!何でここで着替えるんだよ!!
お前、会って2日目の男の子を目の前に恥ずかしく無いのかよ!?」
「.....何で?」
「え...」
(ダメだ...こいつ常識と言うものがどっかに飛んで行ってる....
もういい、俺は気にしないことにするよ。
見なきゃいいんだから...みなきゃ...って言ってもこの前もろに見ちゃってるからな...今更見ても....
いやダメだろ。
それにこの前のはただの事故みたいなもので...
俺は昇みたいな変態にはならんぞ!!
我慢じゃなくて、興味ない!!!
そうだ、興味ないんだ!!
女に興味ない!)
そんな腐女子が勘違いして歓喜しそうなことを考えている間に着替え終わったようだ。
「...終わった」
「早いな。」
しかし、妙に着替えるのが早いせいか少し疑ってしまった。
(まさか、脱ぎっぱっていうオチじゃないよな....)
カンナの方を向くと、昨日と同じ格好のカンナの姿があった。
耳は出しっ放し、尻尾も短めのスカートからぴょっこりはみ出ていた。
「ちょ、昨日と変わってないじゃん!!
そんな装備で大丈夫か!?」
「....大丈夫...問題ない」
(おい、それはフラグだよ。)
「...後はこれ」
そう言ってカンナは帽子掛けから、ベレー帽みたいな帽子と、俺のお気に入りのコートを持ってきた。
「おい、それ俺の....」
「....」
カンナがその帽子を被るといい感じに耳は隠れ、俺のコートを着ると俺より小さい体はほぼコートに隠れ、尻尾も気にしなくなった。
(あぁ...俺のコート....)
「しょうがない...もうそのコートあげるよ。」
「....いいの?」
「ついでにこの前のマフラーもあげるよ。」
「....ありがとう、ゆめと。」
「ああ。」
しょうがない、俺はコートを買う前に着ていたちょっと目立つ色のダウンを着るしかないか。
「...そろそろ行こ」
「え?お前どこ行くか分かってるの?」
「...うん....大体予想付く」
「そう。」
(こいつ....分かっていたのか?)
しかし、カンナの少し何かを恐れている雰囲気を察してあまり触れないで置くことにした。
(あの能力専門家の教授の追手に追われていて....能力に詳しいか...
だいたい検討がついた。
こんな女の子一人を怖い思いさせて....許せない。)
「けど、やっぱりお前...一緒に来て大丈夫なのか?」
「...夢渡といれば怖くない....」
突然カンナがボソッと呟いたが、聞き取れなかった。
「なんか言った?」
「...知らない。
...早く行こ」
「分かった。」
☆
「ちょっと研究室に来てくれないか?」
「はい!ボス!」
萩原に呼ばれ、返事をする部下の二人。
その一人である水蓮は窓からちらりとあるものを見つけた。
「どうしたハニー?」
「...ごめんなさいダーリン...私にちょっとここに残るわ。
ボスにも行っておいてくれないかしら?」
「ああ。分かったよ。」
彼氏の松本は優しく承諾して隣の研究室への扉の向こうへ行った。
(あらあら、向こうから来てくれるなんてね....面白いわ。ちょっと遊んであげましょう。)
ボスのデスクに座り、すぐ手元に置いてある事務電話を使って1と言うボタンを押して受付に繋いだ。
「これから来る中学生くらいの男女を通して頂戴。」
☆
14:15
電車で20分ぐらいでついた。
「途中で知り合いに誰も合わなくて良かった。」
「...まずいの?」
「まぁな。」
それはそうだ。
冬休み明けに彼女ができた!?
しかも見ず知らずの子!?それに受験生のくせに!?
猫耳とか付けさる趣味なの!?
なんて噂されたら面倒だ。特に昇。
「ここが岡類斗大学か。
妙な学部ばかりある割には以外とでかいな。」
「....やっぱりここ...」
(やっぱりってことは来た事ある、もしくはここにいた可能性があるわけか。
さすが俺の天才的推理力だ。
「バーロー」を連呼してもいいぐらいだな。
ってことは、この子ここで....)
結構大きい大学なので、中学生が簡単に入ることが出来ないと思っていたが、入ってすぐの警備室のところで、「見学です」って言ったら、見学者と書かれた名札をくれてあっさり通してくれた。
(名前や年齢とか聞いてこなかったが、ここの警備本当に大丈夫なのか?)
他人の大学を心配してしまうほどに余裕で入れたのだ。
「えーっと...ここが超能力研究科か....」
事務で貰った大学案内図で場所確認しながら廊下や階段を上った。
「....」
「ねぇ、カンナさん?ちょっと...痛いんだけど....」
「...何処が?」
「お前がガッチリホールドしている俺の腕だよ」
カンナは俺の影に隠れながら、俺の右腕をへし折る勢いで両腕を組んでいた
「....」
「そんなに怖いのか?」
「...怖くない...」
(嘘つけ!
大学を目の前にしてからずっと俺の後ろにくっついて歩いてるじゃねえか。
うー...んやっぱり連れて来たのはまずかったかな...)
「....大丈夫よ。」
「あっそ....」
そんなやり取りしてるうちに、『超能力研究科研究室』と書かれたドアの前についてしまった。
ゴクリ
「やっぱりお前はここで待ってろ。捕まるかもしれないし、危険だ。」
「....うん...」
結局カンナは最後まで連れて行かず、自分だけ扉の先に行こうとした。
ガチャ
(あ..ノックするの忘れてた....)
バンッ
「うおおっ!!」
入った途端銃声のような高い音が響き、自分が入って来た扉のすぐ横で衝突した音と水滴が跳ね返って顔に当たった。
(待ち伏せされていた!?)
「あーら、ノックもせずにはいるなんて最近の子供はしつけがなってないわ~。」
人が片手で水の入ったペットボトルを持ってもう片方の手でこちらに指差して、オフィスデスクに座っていた。
「この声と....その能力....やっぱりこの前の....」
「あら、よく覚えていたわね。」
「あれ....けど男じゃ?」
確かに枯れて低い男のような声だ....
けど、服装や体型は確実に女性のような物だった。
「何を言っているのかしら?」
「....何でもないです。」
この際そんなことはどうでも良かったの。
「さて...ボスの命令だから一緒に来てくれた女の子をこちらに寄越してもらうわよ。」
問題なのは相手が能力者で、確実に不利であること。
そして、完全にこちらの意見を聞こうよもせず、一方的に相手が脅しながら要求していることだ。
けど、怖がっている場合じゃない。
俺がここにに来たのはカンナのため...
「ノックしなかった件については反省しますが、ごく普通の一般人に能力を使って脅してくるのはどうかと...」
「あら、冷静で良い子だわ。けど、次は外さないわよ。
だから、一緒に来た女の子をこちらに...」
「断る!!」
「ならいいわ、ここで死になさい!」
「っ!?」
相手はこちらの頭に目掛けてペットボトルから出した水を打った。
夢渡は咄嗟に右手を顔を隠すように構えたが....
(ダメだ、相手の能力の威力じゃ....)
「...え?」
さっきのような強烈な水鉄砲が飛んで来たわけでなく、ちょろちょろと水が当たっただけだった。
「アハハ、そんなビビらなくてもお姉さんは優しいからね。
けど、そろそろ我慢出来ないわ。
ボスやダーリンも戻って来る頃だしね...」
再び相手はこちらに鉄砲のようにこちらに指差してこう言った。
「早く寄越しなさい。」
(く....今度こそ....なら....俺だって....)
夢渡はポケットに手を突っ込み何かをつかんだ。
その数秒後
ボカンッ!
と鈍い音が部屋の中で響いた....
俺の隠し持ってた野球ボール(硬球)が相手の顔面に命中し、相手はそのまま気絶して倒れた。
(ちょっとやり過ぎたかな...)
「ごめんね。」
一応小学校の頃は野球クラブでピッチャーやってたからコントロールには自信があるのだが、見事に顔面に命中するとは思っていなかった。
「....」
「....まさか....死んでは無いよな...」
(流石に人殺しにはなりたくない.....)
「....」
後ろの入って来た扉から覗いて来たカンナが「あーあー、やっちゃった。」みたいな目でこっちを見てる。
「おい、なんだよその目は!!」
「....何も。」
「大丈夫、死んでないから!!」
「....」
「と、とりあえず。
向こう側は俺たちの要求を聞くつもりが無いことが分かったから。諦めて逃げるぞ。」
「...分かった。」
逃げようと外に出ようとした時だった。何処からかこの部屋に男性の声が聞こえた。
「おい、今なんの音がした!?」
そして、夢渡たちが逃げる前にこの部屋に研究室に繋がっているような扉から一人の男性が出てきた。
(この声って確かに〈発火能力〉の方の...やばい!!)
「は、ハニー!!」
そう言って先に出て来た男性は夢渡が倒した人の方に走り寄った。
次にさっきの扉からもう一人の男性が現れた。
「おい、君!.....それにかづ.....」
「やっぱりあなたですか!」
出て来たもう一人の男性は真っ白な清潔な白衣とは逆に、髪はボサボサで不清潔、テレビで見た時とは大違いだった。
「小田原さん!」
「萩原です。」
「あ、すみません。
萩山さん!!」
あって早々、名前を間違い謝った。
「まぁ無理もない、私が無意識に発動させてしまっている能力........私の一部の情報が記憶に残りにくいという能力、〈薄影能力〉の影響だしな。」
「無意識って...」
(それは迷惑な能力だな...)
「それでこれは君が?」
「ああ。」
「水蓮を倒したのか...で、君はわざわざその子を連れて来てくれて何がしたのかね?」
俺は後ろの扉にいるカンナに小さな声で言った。
「カンナ...ここから離れてろ。」
「...うん。」
そして萩原の顔を見て言った。
「それは...全てを知るためです。」
「全てを知る?」
「ええ、あなた方はカンナを...この子が恐れるような...この子を利用してなにか実験をしていたのでは無いのですか?」
「それは人体実験っていうことかね?」
「はい。」
「確かに...人体実験って言えなくもないな。」
「やっぱり。」
(こいつに生えた猫耳や尻尾はそれのせいかもしれない...)
「そして、その実験の影響でこの子の大事な記憶が消えた、そういうことですよね。」
「記憶が消えた?」
「とぼけても無駄です。
あなたはなぜ覚醒現象から3日しか経っていなのに能力に詳しいのか、そして、何で記憶のなくしたこの子は能力については詳しいのか....
それは...」
俺は萩原教授にかっこ良く指を突きつけ言い切った。
「それはあなたがカンナを実験台にして、今まで能力について研究をしていた!
そして、この子に口封じするために記憶を無くさせた。
そういうことですよね!」
「....あながち間違えではないが....なぜ私たちが記憶を消す必要があるのだ?
記憶を無くさせたのならなぜ私たちは今もなおこの子を追っているんだね?」
「....そ...それは....全ての記憶を消せなかったから?」
「はは...そもそも私たちの中に記憶を消すなんてことをできる奴はいない。
結局のところ君がどうしたいんだ?」
(俺は何がしたいかだって?...真実を知って....)
「この事を明るみにしたくなければ、これ以上俺たちに関わらないでほしい。」
「....そうしたいところだが、私はまだその子にいろいろ確認しなくてはならないことが出来たのでな。こちらに渡してもらおうか。」
「ダメだ!」
「大丈夫だ、その子を傷つけることはしない。」
「そんなので信用できると思っているのか?
カンナを拾った時、所々傷があったんだぞ。」
「傷?おい、松本!お前はまさか!」
萩原の怒りのこもった声が倒れた相方の差そばにいた男性を読んだ。
「はいッ!!」
「お前らまさか傷つけたのか?」
「え、いや。俺たちは怪我を負わせた覚えは...」
「もういい!!
少年!とりあえずその子は一度返してもらう!!」
「それでも嫌だと言ったら?」
「無理やりにでも取り返す。松本!!」
「はい!」
「やれ。」
「はい!」
スーツの男性はさっきの俺が倒した方を部屋のソファに寝かせ、こちらに向かって殺意を向けてこういった。
「このクソガキ....よくも...よくも俺のハニーを....」