白地家は今日も平和
どうも一年と数ヶ月ぶりです。
要は今回は一年かけて書いた話となります。(完璧に仕上げたとは言っていない)
「なぁ、その服....」
夢渡は千城の制服にたくさん染み付いている血のような赤いものがなんなのか尋ねる。
「いやーね。実はいつも使ってる近道の階段のある方から行ったら、足を踏み外しっちゃってね、ははは、痛かったよ」
「....そうか」
こっちに来て間もない人がいつも使ってる近道なんて言えるわけが無い。でもなんで嘘をつくのか。
(やっぱり....聞くべきだろうか?
千城が「K」何かのか?....って。
でも聞いてどうする?もし本当にKだったらこの場で餌食にされるのか?でももし違ったら、何もしらない彼女を巻き込んでしまうかもしれないし、何より彼女の信頼を失う。
そもそも、彼女と信頼しあえるほど一緒にいないから....ん)
「....へへへ、ごめんね。でも今の....ゆめとには関係ないから。って聞いてる?」
千城が何か意味深なことを言っているのに、気にしていた当の本人は上の空を見ていた。
「なんかさっきから上で飛んでるのが気になってさ」
「鳥...?」
10メートルくらいの高さを何かがぐるぐる飛び回っている。
羽の面積は広く、姿形は鳥と言うよりは、コウモリに見える。
「撃ち落とす?」
「何物騒なこと言ってるのこの子!?やだ怖い」
と1度その飛行体から目をそらして再度見上げると、飛行体の影が徐々に大きくなっていく。大きくなっているだけじゃなく、近づいても来ていた。
「っ!?」
「親方!空から女の子が!」
「ふざけてる場合じゃないだろ!」
夢渡は咄嗟に体を動かして空から降ってくる女の子を受けとめようと墜落地点で構える。
落ちてきた少女は構えた腕の中に上手く収まったが、結局は人間。重さに耐えれず腕ごと下に持っていかれそのまま地面に叩きつけられそうになった時。
「〈可変ベクトル〉」
千城がそう呟くとガラスが割る様な音と一緒に少女の体がふわっと軽くなりそのおかげか、力持ちとは言えない夢渡でも持ちこたえることが出来た。
「た、助かった。
今のが....千城の能力なのか?」
「....さぁ~」
「何を今更隠す必要があるんだよ~素直にそうだって言えばいいのに。まぁ、ありがとう」
「それでその子は?」
今、軽く夢渡に持ち上げられてる少女。背は低く小学生くらいの容姿だが、驚いたのは夢渡達の通う水屯高校と同じ制服。その子は別に気絶している様子にも見えず、自分が空から落ちてきたことを気にもしていない様子だった。
「えっと君は....?」
少女は落ち着いて穏やかに自分の名前を口にする。
「....市ヶ谷未来」
「ごめん俺の聞き方が悪かったよ、なんで空から?」
夢渡が聞き返すが返事がない。
「ん?」
「....すぴー」
「この短時間で寝ているだと!?」
夢渡の腕の中で市ヶ谷未来という少女は心地よさげに寝ていた。
おいおい、もう何が起こっているか自分の思考が追いつかないんだが。
「ごめんねそこの君!」
「うぁああ!」
背後から突然現れた女性の声の驚いて少女を抱えたまま尻をつく。
目の前に立つ20代後半くらいの凛々しい女性の格好を見て呟く。
「め、メイド?」
「ウェイトレスです!!」
女性は恥ずかしそうに強く否定した。
少女は夢渡の元から立ち上がって、女性の元に行き穏やかに怒った。
「....百合うるさい」
そんな静かな少女の冷たい一言を無視して女性は夢渡に謝る。
「ごめんね!うちの店長が馬鹿な真似して迷惑かけて!!」
何のこと言っているのかチンプンカンプンな夢渡は目を点にして首を傾げた。
「何がなんだか分からないですが、とりあえず手を離してくれます?」
ウェイトレスが自分の両手を握っているのは感謝の気持ちの表し方なのだろうけど、異様に握ってる時間が長い。
「.....」
「.....」
「あの.....このままだと自分勘違いしちゃいそうです//」
「あはは、ごめんね、ちょっと気を失ってた」
「いやいや」
「それじゃ!最近物騒だから気をつけるんだぞ少年!!ほら行くよ未来!」
「....ヘタクソ」
「うっさい!」
あっという間に女性と少女の姿は見えなくなっって、また千城とつ夢渡の2人きりになり、何がなんだか付いていけてないことを、お互いに確かめた。
「一体なんだったんだ?」
「さぁ....あの人達がむしろ物騒だったよね」
「そうだな」
横槍に変なことが起きたせいでさっきまで何を考えて何を話していたのかすっかり忘れてしまった。
「まぁいいや、帰ろうか」
「そうだね」
夢渡と城千の2人は白地家に向け、再び歩きだした。
「なぁ千城、俺があの2人に関わってる間なんで距離とってたんだ?」
「面倒くさそうだったから」
ボロボロの制服を着ている少女は薄情なやつだった。
☆
「あー、やっぱ演技ヘタクソだなー」
夕陽に照らされ長く伸びた電柱の影から飛び出てきた、頭にボロボロになったバンダナを巻き、ラフな格好の青年はそう呟くと近くに来ていたウェイトレスの女性が不満の顔を浮かべて反論する。
「演技以前に、この作戦の台本自体おかしいのよ!なんで未来ちゃんを空から落とす必要があったのよ?自分の妹大事にしなさいよあんた」
「....うるさいバカ百合」
隣で喚く百合を静かな少女は罵った。
「だいたいもし、あの子達に10mの高さから落ちる人間を受け止めるだけの力が無かったらどうしてたのよ!!」
「え、そしたらまた影の中の落として上げるさ」
「ん?あんたの能力って、影の出入り口作ったらしばらく固定されちゃうのよね?ってことは未来ちゃん落下無下ループ!?あんた未来ちゃん殺す気?」
「別に死にやしねーだろ。それだったら未来自身がそれを知ってるはずなんだからよ」
「....アニキのこと信じてるし」
「まぁそうよね」
その2人に言葉であっさりと認めてしまう、武蔵関百合28歳独身。
この兄妹のお互いへの信頼は誰よりも高く、そしてそのことを誰よりもそれを私が知っているのだから。
「それで、どうだった。お前の〈本質を見抜く力〉は?」
「今はまさに〈無能力〉だけれど、彼の奥深くには何か膨大な何かがある。大きな扉に複雑な鍵で閉ざされているみたいで、多分記憶もその扉の先に一緒にあるのが見えたわ」
「....あと寝心地が良かったけど、〈未来〉を観る事は出来なかった」
「だそうだ、満足か?」
青年は手にしていた通話中の携帯電話に対して口にした。
『ああ、そうかありがとう』
電話越しに聞こえる若々しいがしっかりとした声の男性がお礼を言うと携帯電話の持ち主はニヤけた顔をして、報酬の取引について会話をして通話を切った。
「んじゃ帰るぞ~」
「え、ほんとにこれだけでいいの?なんか重大な出来事が起きそうなのに私達も何かし....」
「俺らの仕事はここまでだ。いいかこれ以上首を突っ込むな。俺らは今まで通り探偵と喫茶経営と裁判ごっこしてりゃいいんだよ」
「な、裁判ごっこって!」
「....裁判中に真犯人探し当てるのは裁判じゃない」
「ぐ....そんなこと知ってるわよ!!」
「まぁ、1年越しの更新に俺らがこれ以上突っ込む必要はないってこった。話がややこしくなるだろうが」
「うわ、メタい!!」
影を出入口にする兄、未来を夢で観る妹、物事の本質を見抜くことが出来る弁護士ウェイトレス。
彼らの出番はもう無いに等しい。
☆
夢渡と千城の2人は白地家へ着くやいなや、夢渡が汚れた格好の千城をお風呂場へ直行させた。
「タオルと着替えここに置いとくよ〜」
脱衣場と風呂場を隔てる曇りガラスの向こうから水の音と共に一言「ありがとう」も聞こえた。
タオルを衣服籠の隣に置くと、あるのもに目がいった。
脱ぎたてのボロボロの制服にスカートの上に乗っけられた、白い下着.....の上に置かれていた巾着袋だ。
千城が常に首にから飾っている巾着袋の中身は小さなガラス玉が入っていると、というのをさっきの不審者二人と遭遇した時に確認出来ている。
「このガラス玉を取り出して、それが割れて、能力を使ってたよな....」
このガラス玉は能力を使う為の消耗品と考える。すると〈無能力〉の自分も、このガラス玉を使えば能力が使えるのではと妄想をしてしまう。
「ちょっと試してみよう」
袋から1粒取り出して軽く握ると、ガラス玉は簡単に割れ、手の中で破片と共に溶けるように消えていた。
「これでいい....のか?」
何か力がみなぎってくるわけもなく、体にに力を入れても何も変化はない。
「千城にしか使えない物ってことか、というか消失しちゃうのかよ悪いことしちゃったな....バレたら謝ろう」
こちらからも向こうに存在確認できるように、向こうもこちらに誰かがいるのが分かるようになっている。
なかなか消えない影に千城は声を扉の向こう声をかける。
「ね〜、まだいるの?」
「あ、うん。すぐ出ていく」
「もしかしてイヤラシイ事でもしてた〜?」
「ち、違う!!この制服どうしようかなーって。ほらボロボロじゃん?」
「ほんとに?」
「嘘じゃないよー」
咄嗟に出た回答は別に嘘ではなく、本当に考えていたことでもある。
「そもそも、下着が見られてることに関しては気にしてないのか」
「いや別にー」
「アットホームすぎないか?まぁ、下着含む着替えやらを俺が持ってきている時点で、お互い気にしてないんだろうけど」
「そうだねー意識してないし」
傷つく言い方だが、夢渡も千城をそういう風に意識していない、家族のような、妹の様な感じだろう。
出会って1日もしないのに、変な安心感がある。
逆にその妙な安心感と、Kとの遭遇直後というのもあって千城のボロボロの格好が、Kと似ているという疑惑から、怪しい匂いを漂わせていた。
「んじゃ、出てくね」
「出てけ出てけー」
お風呂場を出て、リビングのソファに腰掛けては携帯を取り出して電話をする。
姉の園花にだ。
無断で女を連れ込んでいると知られたら、ドヤされる。その前にそれを回避するために連絡を入れる。
「もしもし、お姉ちゃん。しばらく友達(女)が泊まるけど大丈夫?」
『いいよ』
ブチッ....ツー....ツー....
「え」
一言返事で許可され困惑するが、これでちゃんと姉もそのことを把握したという事と判断して夕食の支度に取り掛かることにした。
「さーって、買い物袋からは、割れた卵にぶっかけられたキャベツに粉々に粉砕されている胡椒瓶がミックスされていて....ってうああああ!」
買い物袋を2回も落として出来上がった、キャベツの胡椒卵かけを見なかったかのようにゴミ箱へ持っていき気を取り直して、冷蔵庫に残っている食材で夕食を作っていくことにした。
「ゆめとー」
「なに?」
お風呂から出た千城はサイズが少し合わなかったのか、はだけていて少しイヤラシイ格好になっていた。
「例の空いてる部屋って何処にあるの?」
「え?そういえば、俺の家の部屋が空いてること知ってるんよ」
「ゆめとのお姉ちゃんから聞いた」
「共犯かよ」
でもこれで姉の知り合いかなにかという確証が持てる。
「分かったよ、ついてきて」
千城を先導して二階へ上がろうと階段を一段一段上る。
すると後ろの千城が足を滑らせ階段の下へ転倒していく。思わず手を伸ばして千城の体を抱き寄せて、匿う夢渡。
「いってー」
「あいたたたた、ごめんね」
「ああ、いいよ。それよりも」
夢渡の上に乗っている千城のはだけている部分から危うい部分が見えそうになるのが気になってしまう。
「早くどいて」
「え、うん」
膝を床につけて立ち上がろうとする千城だが、そのまま滑らせ体を夢渡の頭の上に乗っかり、胸が夢渡の顔を埋めてしまう。
「フゴゴゴ」
必死に千城をどけて顔を出すと、そこには帰ってきた姉の園花が恐ろしい笑顔でこちらを見ていた。
「え、」
「夢渡?ナニシテル?」
「デジャヴ!?」
化け物がうろついていて、物騒な街中だが、今日も白地家は平和だ。
書き方忘れたので次回は1年以内を目指す




