二人目 ☆
7月24日
昨日あんな恐ろしいことがあったにも関わらず、外に出て学校へ行く。
いつかの自分ならズルズル引きずって、暫くは外に出なかったかもしれないだろうが、今はそうではない。
もし家を出てもう一度人食いに襲われたとする、次が怖がらないと言うと嘘になる、けど心の奥底でどうにかなると呑気に考えている。
何度もこんな事になろうと、今ままでもそれでどうにかなったのだと思う。
今までも?
そもそもそんな経験した記憶はない。
まぁ、兎に角今日、昨日俺を助けてくれたあの子にちゃんと礼を言わないといけない。
今日合って言わないと一生後悔する気がした。
一生というのは大げさか、今日は夏休み前日であり今学期最後の登校になる。だから今日言わなければしばらく言えなくなる。
8:00
駅から学校へ通う途中だった、駅の改札を出てすぐにあの子の姿が見えたので呼び止めた。
「野咲さん。」
「なに?」
「昨日はありがとう。」
「なにが?」
「ほら、昨日襲われてたところを助けてくれたじゃん。」
なぜそんな不思議な顔をするのだろう、普通誇らしげな顔をしてもいいぐらいのことはしたのに。
「ええ、けどそれは自分のためであって別にあなたのためにしたことじゃない。
....それにせっかくここまで来てあなたに死なれては困るのよ。」
最後にぼそっと言っていたことが何を意味するかはわからないが、それでもちゃんと誠意を見せようと思う。
「いや、でも助けてくれたんだし。」
「ならそれは貸しにしてとっておく、だからその時はよろしく。」
「え、俺はまだお礼をするとか何も言って...」
言い終わる前に先に行っていしまった。
(何を考えてるかわからないな子だな....)
少しして、今結構時間ないことを思い出して急ぎ出した。
「よし、セーッフ!」
「お、ゆめおっは〜」
教室に入るとまず昇が反応し、それに続いて青野や黄華が挨拶してくれた。
「昨日あんなことあったから、今日は学校サボるかと思ったよ〜」
昇が半ば心配して言ってくれた言葉に義理の兄妹黄華が変なところに食いついてきた。
「ねぇ、あんなことってなに?
昨日私達をのけ者にして男二人きりで一体何してなの?ナニしてたの?」
「お前今日のスイッチの沸点低いわ!!
それに昨日言っただろ!ユキエのとこ行くって!」
(おお、昇を押している。)
さすが、会ったときから何故か見た目小学生くらいの弟をいつも抱いているイメージがあるだけ、昇とは少し違う性癖の持ち主だ。
(類は類を呼ぶんだな。)
「本当は今日来るか迷ったけど、夏休み前にはやらなくちゃいけないことあったしね。」
授業が始まるの静かに座って待っている美時をちらっとみてそう言った。
「あーなるほどね。
...ってあれ、夏休み?え、まじで?ああ!そうだ忘れてた!!明日からじゃん!!」
「うるさい。」
「あ、ごめんなさい。」
近くで騒ぎ始めた昇に青野が喝を入れた。
「そうだよ、夏休み!
夏休みといえばプールか海!
最も露出の多いイベントで、大きな胸を思う存分見て味わえるぐへぁ!」
「ひ、貧乳で悪かったわね!!」
「いやそんなこと思ってても言ってはいなぐはぁ!」
ビンタからの腹パンの2コンボだどん。
「変態は連れていきなくないわね。」
「いいしー!ってかそもそもGWの時お前は誘われてないじゃん。
しかもあの時邪魔したのは誰だっけー?」
「わ、悪かったわね!でもあの後夢渡くんと約束したからね!」
「え、ゆめお前はこんな胸は凹んでるようなブフォ...誘った...のかよ。」
「え、ああ。うん。仲間外れは良くないし。」
「夢渡くん優しい!」
はっきり言ってなんのことが自分には分からない。
けど、せっかくのいい雰囲気をぶち壊すような真似はしたくなかった。
「おーいお前ら。」
いつの間にか教壇も前に立つ代理の担任の先生の声で気がついたら。
「チャイム鳴ってるのにいつまで待たせるつもりだ。」
もう5分もオーバーしていた。
「すみません。」
自分も席の周りに集まっていたみんなやすぐさま自分も席に帰っていった。
「おい、青野。お前はE組だろ。」
空いている席に自然と座っていた青野は気づかれたことに、舌打ちして元の教室に戻っていった。
(うわ、青野ってあんなキャラだっけ。)
「さて、昨日今日でそして明日から夏休みなのにと思うが転校生だ。」
「「「「「「「はぁ!?」」」」」」」
クラスほぼ全員驚いてついその声が口に出てしまった。
「いや、先生!ほんとなんで夏休み前日何ですか!」
クラスの数少ない生徒の知らない男子がそう質問すると、先生は暗い顔して言った。
「しょうがないだろ....信用から生徒が減っていくなかこうやってこの学校に来てくれたんだ、1日でも早くこの学校に親しんで欲しいんだよ....わかってくれ」
「あ、はい。なんかすみません。」
次に黄華が先生に問いかける。
「先生。なんでうちのクラスなんですか?ほかのクラスも同じように少ないのに、うちのクラスに二日連続っておかしくないですか?」
真面目な質問に対して先生は、「知らん」ときっぱり言い切った。
「あと落合黄色、勝手に隣の落合ハクと席くっつけて抱きつくな、リア充爆ぜろ。」
「大事な弟なので、それにリア充じゃありません。リア獣です。いや、リアショタです。」
「お前は何言ってるんだ。まぁいい、そろそろ転校生来るはずだ。」
といいタイミングで来たようだ。
走ってきたのか、息を切らしながら「すみませ。手続きが...」と言って先生の隣にたった。
肩より少ししたまで伸びる少し明るさが混じった黒髪に、後ろからおでこうえへ持ってきた青いリボンの結び目が目立つ女の子だ。
(ん...なんかあのカンナって子に似ているような。)
見た目も雰囲気もすごく似ている。
「えーっと名前は...え、おいどこ行く。」
先生が先に紹介しようとするとこだった。転校生は夢渡と目が合うとすごく嬉しそうな顔してこっちに近づいてきた。
だんだん来る速さを増して近くまで来ると、
「ゆめとおーっ!!」
って叫んで抱きついてきた。
「え!?えええ!?」
それから、転校生の子は夢渡から離れようせず嬉しそうに抱き続けた。
「なんだ、白地、お前の知り合いか。だがこのクラスで抱き続ける変態は落合黄色で十分だ。そしてリア充爆ぜろ。」
「いや!俺の知りませんよ!ってか先生リア充にどんな恨みが!?」
「まぁいい。」
先生はチョークで黒板に彼女の名前を書いていった。
城千 香月
それがこの突然抱きついてきたこの転校生の名前だ。
☆
11:20
終業式を終えてその他もろもろが終わると、すぐに下校となる。
今日は同じ方面の電車で帰る昇や黄花、青野と全員に一緒に帰るのを断られ、拗ねながら一人で駅へ向かう。
後ろをこそこそとついてくるストーカを除いて。
「おい、なんでこそこそついてくるんだよ!」
そいつは慌てて電柱の影に隠れたが、普通にはみ出ていてバレバレだ。
「城千だっけ?バレバレだぞー」
そう言われて、仕方なく出て姿を現した。
「ちぇー、ばれちゃったかー」
「いや、モロバレだから。なんでこんな真似するんだ?」
そう聞くと、城千は上を向いたり下を向いたり、腕を組んだり手のひらを頬に添えたり悩む仕草をするが、長い。
ただ帰り道が同じって言えばこんな疑わないのに、こんなに悩むってことは何か他に理由があるってことだ。
けど、長すぎたので夢渡は「もういい」と呆れてその場を去った。それでも彼女はまだついてきていた。
駅に前まで来て、改札を潜ろうとした時だった。
「あ、ちょっと。」
「勝手についてきておいて何だ?」
「えっと...その。
お金ない。」
「なんだよ、それが目的かよ。で、どこまでだ?」
「多分ここまで。」
切符売場の上に貼られた路線図の一つの駅を指さした。
(俺と同じ方面だな、駅は俺より遠いが...まぁ本当に帰りがたまたま同じってだけか。)
「分かったよ、返すのはいつでもいいから。」
「ありがとう、ゆめと。」
城千の代わりに切符を買ってあげ同じ電車に乗る。数駅過ぎて、自分が降りる駅で降り別れたと思ったが....
「...なんで降りたの?」
「え、 だって。」
「降りるの俺よりもうちょっと先の駅じゃん」
「間違えちゃった☆」
「間違えちゃった☆じゃないよ!お金貸してあげたのに、それはないだろ。
本当は俺に何かあるんだろ?
俺の名前知ってるようだけど、俺は君のことを知らないし、もしここ半年のあいだに合ったことあるんだったらごめん。」
「ううん、仕方がないもの。
それでね、なんで私がゆめとについて行くかって言うとね。
その...帰るところがないから。」
「....ちょっと待て それって俺の家に泊めろってことかよ!」
城千はケロッと顔を変えて当たり前じゃないといった顔をしてこう言った。
「そうだよ。ゆめとの家泊めてもらいたいの。」
「いやいや、まずいっていくら家に姉ちゃんがいるからって、両親いないんだし女の子を家に泊めるなんて」
「でも1つ部屋空いてるんでしょ?」
「え、なんでそれを...」
「それに服とか余ってるんでしょ?」
確かに、自分の家に知らない女の子の服や下着が何着か置いてある。
サイズも確実に姉より小さいのできっと誰かが泊まっていたとは思う。
(この子はなんでそのことを知ってる?
もしかしてこの子が...?)
「で、でもやっぱり...」
「私じゃだめ?
私にできることなら何でもするよ?
ゆめとが望むんだったら...あんなことやこんなことも...
恥ずかしいことだって...」
ゴクリ
「なーんてね。もし泊めてくれないんだったら、ここで大声で痴漢ですって叫ぶよ?」
「ちょ、結局脅しかよ!!」
「ずっととは言わないよ、少しのあいだだけでいいの、本当に少しだけで...」
流石にここまでお願いされ、脅されたら断れない...
「わ、分かったよ。けど姉ちゃんがいいって言ったらな。」
「うん。」
一人で帰るはずだった道が、一人増えて二人で帰る。
何故か違和感の感じない。
むしろ一人で帰るのに違和感があったのだろう。
「なぁ、城千」
「香月でいいよ。」
「香月はお金がないのにどうやって学校まで行ったんだ?ってか、何で水屯高校に入学したんだ?」
「...え?そんなことより、このあとお昼ご飯何食べる〜?」
「おい、俺の話を...」
「そうだ?泊めて貰うんだし私が作ってあげるよ。
ね、材料買いに行こうよ。」
「まった、その金は...」
「よろしくね☆」
☆
13:20
こんな昼間でも霧が耐えない緩やかな山道を、考えながら昇は登っていく。
最近噂にたっていた人食いが昨日ゆめを襲い、それを昨日転校してきた「私はあなたの知ってる美時ではない」と言った能力事件で行方不明扱いされている野咲美時。
そして、謎の二日連続の転校生としてやってきた、城千香月。
その子は何故かゆめのことを知っている上に親しそうに接している。
あと、昨日のユキエの言葉。
「もうここにくるなって....」
ゆめが目覚めるのを図ったかのように次々と色んなことが起こる。
「にしても、今日は一段と霧が濃いな...それにいつも通りに歩いている筈なのに、巨大樹にたどり着かない....まさか...」
(いや、ここにはもう数百回来ているし...けど着かない。)
「迷ったあああああ〜ー!!!」
霧狐山に昇の叫び声が響きわたった。
その時からだった。
近くの茂みからガサガサち何かがいる気配を感じた。
「おお、ユキエか!?助けに来てくれたの..っ!?」
動物が襲いかかってきたのを右腕で庇い、噛み付かれたあとに振り落とした。
「いって...」
右腕は見事に牙で穴を開けられ、そこから血が流れる。
(くっそなんだ...って)
「ユキエか!?」
ふるい落とした動物は黄色い毛に黒と白の尻尾の四足動物、狐だ。
姿を形は完全にユキエと同じ...はず。
他の狐と比べ一回り小さいからユキエだ。
(けど、なんだ...いきなり襲いかかって...
いつものユキエじゃない...)
起き上がった狐は鋭くまるで起こっているような顔つきでこちらを睨みつける。
(これはまずい。)
痛む右腕を我慢して急いで逆方向に走り出した。




