#6 昇と黄華2
1月11日 10:20
「うむ、ここに下りてくるのも久しぶりじゃの。」
せっかくの冬休みであるのに、昇は朝起き霧狐山に登ってユキエを迎えに行き、すでにクタクタだった。
「昇殿、まずは何を食べようか?」
「いや、早速食い物かよ。せめて昼まで待てよ。」
「では、昼になれば沢山食べてもいいんじゃな?」
「ああ、もちろんだよ。」
(正月でお年玉入ったし、多分大丈夫だろう。
それに....)
「それになんじゃ?」
「いや、お前は気にしなくていいよ。」
「ぬぬ...わしの〈心読術〉を出し抜くため、自分の心も騙せるようになるとはお主も悪じゃのう。」
「ははは、結局自分が何なのか分からないんだし、なら自分を騙して生きればいいって分かったのさ。」
「可哀想な奴じゃ。」
そんなユキエの一言に少し心が痛んだが、元はと言えばこいつのせいでもあるからな。
けど、今はそれが自分なんじゃないかと思ってる。
困ってる人がいれば自分に従って助ければいい、周りがどう思おうが関係ない。
周りを気にするんだったら、そんな自分に嘘をつけばいい。
ちっとも可哀想なんてことはない、またそうやって自分を騙すしかない。
「うむ、分かっておるではないか。
じゃがの....」
パシっ!
静かにユキエの体に近づけていた俺の左手を、どこに隠していたのか知らないが畳んだ扇子で弾いた。
「じゃが、お主の第一欲求は騙せないようじゃな。それに、本当にその気ではなかったじゃろうし。」
「なんだ、バレバレか。」
「誰よりも密かに人目を気にするお主では、こんなところではする勇気もなかろう。」
「んじゃあ、なんで叩くんだよ!!」
「そうしてもらいたかったんじゃろ。」
(全部読まれてるのも考えようだな...)
「この力を出しぬけるのはこの前の黒塚殿くらいじゃろうな。」
「ぐぐ...何故だ、奴にだけは負けたくねえ....」
「本当に嫌いなんじゃな。」
「なんだよ!何を考えてるのか分からないんだよ、すげえイラつく。」
(まぁ、俺も周りには自分が何を考えてるのか分からないようにしてるから、人のこと言えないが。)
「お前はあいつの考えてること知ってるんだろ?ずるいよ!!」
「すまんな、まだ教えられんのじゃ。
まぁ、まさに神のみぞ知るといったところじゃろう。」
そんな上手いことを言ったことに対しても、イラついた。
「今はそんなこといいじゃろ!さぁ、楽しもうではないか。」
確かに今そんなこと話してもしょうがない。
ユキエの言う通りこ楽しもうと思った。
「よし、行こう!どこにでも行こう!」
「お、吹っ切れたようじゃな。」
ところどころ開いているお店を見つけては入り、ショッピング感覚で着物屋や雑貨屋などを回って楽しんだ。
ちょうど昼過ぎ、商店街を歩く人も増えてきて、初めてこの町の雰囲気を味わうことができた。
商店街も抜け、住宅街へと出たようだ。
「そうだ、ユキエはこの辺りなら結構知ってるんだよな?」
「そうじゃな、向こうの駅までなら知っておるぞ。」
「そうか、じゃあ案内してくれよ!」
「いいぞ。」
少し歩いた辺りで曲がるとすぐに自分の新しい家、そのまままっすぐ行けば駅があって、その周りならいろんなお店があると思う。
それを知ってる上でユキエにこの町のことを教えてもらった。
「この町はな昔はもっと田舎っぽくて農家が多かったんじゃが、少しずつビルや住宅などが建ち始めて今ではなかなか見ないんじゃがな。」
「へぇ〜。って、どこの町もそんなもんじゃないのか?」
「そうじゃな。じゃが、さっきの商店街は何も変わっとらんじゃがなぁ。」
ユキエが過去のことを語っているのを懐かしんでいるのがよく伝わってきた。
まっすぐ歩いていけば、少し先に他の家とは違う、いかにもすごい家系が住んでいそうな木造の家があった。
「おお、すごいな。あそこに誰が住んでるんだろうな。」
「...こっちじゃ。」
するとユキエは突然俺の手を引っ張りその家の前を通るのを避けるかのように角を曲がった。
「え?このまままっすぐ行ったほうがいいんじゃないか?」
「少し寄り道したいのじゃ。」
「おう...わかったよ。」
あの家はユキエの辛い過去に関係しているのだと感づいたが、あまり無理に聞くことはないと思った。
「心配かけてすまぬの。」
「ああ、いいさ。」
「お主には世話になってるわけじゃから、そのうち絶対に話してやるからの。」
「ああ。」
少し回ったが、駅の方の商店街に着いた。
「さっきの商店街の方が店が多かったな。」
「そうじゃな。霧狐山の方が客が多いからの。」
「そうか?普通駅前の方が...」
「まぁいいじゃないか!!ほれ、向こうの店行こうかや!」
「はいはい.....」
店を5件くらい回って、そのうち4件が飲食店でユキエが暴食した。
15:45
「おいおい、ユキエ....お年玉があるからって、有限なんだからな...俺だって買いたいコレクションあるんだからさぁ....」
「ええじゃないか、裸ならわしがいつでも見せてやるんじゃからのう。」
「どうせ狐の姿なんだろ。」
「なぬ、お主も〈心読術〉が使えるようになったのか!?」
「そんな茶番いらないよ。」
「はっはっは...にしてもここのモンブラン美味しいの!」
商店街の少し外れた道で見つけた『ウィークトン』といういかにも喫茶店らしい名前の喫茶店で休憩していた。
「ここの主よ、このモンブラン美味しいぞ!」
カウンター席の向こうに立っていたバンダナをした男はどや顔をして返した。
「どうよ!俺様が客を増やすために新しく作ったんだぜ!」
そんな、店の人とは思えない態度とは対象に、頼んだコーヒーを持ってきた可愛らしいウェイトレスは反論をした。
「何を言うの。あんたが喫茶店なのに、食事がオムライスとプリンしか作らないから私が提案したんじゃないの。
まぁそれでも中々客は増えないですけどね....
ではごゆっくり。」
(にしてもこの大きな胸を上手く強調するようなウェイトレス服....)
「てんちょ!いい趣味してるな!」
「だろ!!」
見事に意気投合した。
滑稽で少し古臭い喫茶店だが、この店長とはいい仲になれそうだと思った。
「おっと、百合。ここは任せた。」
「わかったわ。」
店長は何処か行ってしまったようだ。
自分たち以外に客がいないせいか店内は静かになってしまった。
そんな中にいると、ついつい新しい家族のことを思い出してしまい、ため息をこぼしてしまった。
「お主は悩みを抱えすぎじゃろう。」
「まぁな...こんな時期でもあるからな...」
(黄華とまともに会話できるようになっていないし....まだ、ゆめにもこのこと連絡できていないしな...
忙しくなりそうだな....)
「あまり多く手を出しすぎない方がいいぞ。」
「うん、まずお前が注文したモンブラン、オムライス、オムライス、プリン、オムライス、プリン、モンブラン、プリンプリンプリン.....
がぁああ!お前どんだけ食うんだよ!多く手を出すなとか言うなよ!!俺の財布心配しろよ!!胸揉ませろよ!!」
「プリンなら揉ませてやろう、お主の財布からお金が減るだけじゃがの。」
「まったく....」
隣の窓の外を眺めると、知ってる人物が目の前を通ったのをみた。
今朝静かに家を出て行った時に見た、見たことのない制服を着た女の子。
俺よりも先に学校が始まり、下校中の黄華がトボトボと歩いていた。
(けど様子が変だ....なんで水浸しなんだ?確か朝体育着を持っていたのに、なんで着替えていない?)
急いで店を出て呼び止めた。
「黄華!」
けど振り向こうとはしないので、追いかけて肩を捕まえた。
すると、振り払われ、黄華は「放っておいて!」叫んで行ってしまった。
「....」
「あの子がお主には新しい家族なのかや?」
「ああ...なぁユキエ...」
「あれは学校で虐められてるようじゃな、それもここに引っ越してきてからずっと。」
「越してきた?そんなの初めて聞いたけど....」
「だいたい3年くらい前じゃろうな。」
「3年前....ユキエありがと。」
「いいんじゃ、読んでしまったわけじゃし、これでお主の目的も達成しやすくなったじゃろう。」
「ああ、本当に忙しくなりそうだ。」
1月15日8:40
あれから新しい父親にそのことを話したが、虐められてることは誰にも話さず、彼女自身で抱えていることがわかった。
そこで、その父親に頼んで黄華と同じ学校に編入するようにしてもらった。
卒業まで残り3ヶ月もなく、親友と晴れて卒業したかったが、新しくなる家族の方を優先し、ゆめには悪いが黙って転校した。
医者だからかわからないが、新しい父親の権力がすごいのか、あっさり編入手続きが完了していま、その新しい学校の校門の前にいる。
黄華に黙っておきたかったので、彼女が家を出るタイミングを見計らってから、準備を始め、な私立の慣れない制服を着るのに手こずり、いろんな準備に時間がかかって、見事に遅刻。
閉じられた校門の前で突っ立っていると、冬の寒い風が昇を直撃した。
「ひぃいい!寒!!!」
丸出しの足から伝わる冷たさに体を震えさせた。
「あぁ...なんでだよ....頭は重いし、肩は凝るし....」
慣れない長い髪は風に揺られ、肩に負担のかかる胸....
昇は完全な女装でこう叫んだ。
「なんで女子校なんだよおおおおおおお!!!」
なんだ、このギャルゲ展開。
次回今月中にできれば




