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猫と能力と夢映し  作者: れぇいぐ
『昇と黄華とハク』
65/75

#4 黄華とハク3 ☆

19:20


興奮も冷め、屋根のしたの方に座り、屋根の下に足を下ろした。


「ねぇ、ハク。」

「....」


さっきとは違う性格と思うハクは、返事さえしてくれず、表情もずっと無愛想....


(けど、それがまたイイッ!!)


またその表情をパシャリと写真に収める。

真面目な話をしようとしているのに私は一体何をしているのだろう....


「それでね、ハク。長井先生の言ってること....」

「....」


返事はしてくれないが、それで良い。昔からいろいろ悩んだ時は言葉を喋れない犬のハクに話している。

だから、返事の返してくれなくてもちゃんと聞いてくれている気がする。

それがいつものハクだから、落ち着いて相談することができる。


けど、返事はないからただ一方的に話しかけているのと変わらないが。


ラーメン屋で一緒にいたハクなら知っている前提で話を進めた。


「やっぱり長井先生が嘘をついているようには思えないの。

だって、お母さんなら本当にそういうこと言いそうだから....

たぶんお父さんもあの電話の時本当は助けに行きたかったのかもしれない。

でも目の前の患者を救うのが医者の仕事だから、それを放って助けに行くわけにはいかない...それくらいずっと前から知っていたけど、どうしても許せなかった。」

「....」



ハクは何も言わない。

けど、私の顔をじっと見つめていてはちゃんと私の話を聞いてくれていた。


挿絵(By みてみん)



「本当、私って自分勝手だよね....

あの頃いじめをしていたのも、お母さんが死んだのをお父さんのせいにしていたのも、誰かにすがりたかっただけなのかもね....」

「....」


吐き出しきったのか、話すことがなく、ただ静かに時間は過ぎて行った。

ただ、話しただけだが気持ちが軽くなった気がした。


隣に座っているハクの頭を優しく撫ででお礼を言った。


「聞いてくれてありがとう。ちゃんとお父さんと真っ向に向き合って話してみるよ。

いつまでも、逃げていちゃだめだよね....」



その時、ふと小学校のころに聞いたあの言葉を思い出した。


たまたま戻った教室にいつもいじっている男の子が最近転校してきた男の子に言われていたあの言葉。


「逃げるな、立ち向かえ...だっけ....

よし。....え?」



決意を固め、立ち上がろうとしたとき足元を滑らせ、体が宙に浮いたような感覚がした。

屋根自体そこまで高くはないから、普通に落ちても軽い打撲で済むだろうが、不幸にも頭の方が下に向いて落ちているようだ。


(頭だけでも....)


しかし、間に合いそうにない。


(やばい!!)


「....ん?」


衝撃どころかどこも打った感じがせず、誰かに支えられているような浮遊感がした。


「おい、黄華(おうか)!」


そんな野太い声を聞いてきつく閉じていた瞼をゆっくり開けた。


「お父さん!?」


仕事で夜遅くまで帰ってくるはずのない父親が私を支えているのに目を見張った。


「な、なんで....?」

「それより降ろしていいか?」


特に体を鍛えていない父親はきつそうな顔をして言った。


「うん。」


降ろしてもらい、少し間合いをとってから話し始めた。


「全く、私に心配かけさせて...」

「なんでお父さんが....」

「お前なんでって、たった一人の私の娘だからに決まってるだろ!」

「だって...私のことなんてどうでもよかったんじゃないの?

お母さんの時だってそう....自分の仕事ばっかりで助けに来てくれなかった!

そうお母さんに頼まれたのだって嘘でしょ!

なんでお母さんより仕事の患者さんなんかを」


言い切る前に自分の頬に強烈な平手打ちをくらった。

思わず「えっ?」と言いながらヒリヒリする頬をおさえた。


「お前、自分が何を言ってるか分かってるのか!」

「....」

「患者なんかなんて言うな!

軽い病気の患者がいるかもしれないが、お母さんよりもっと重い病気を抱えてる人だっているんだ。それでも必死に生きて私のような医者を頼って来るんだ。

だからそういうふうに言うな。」

「....ごめんなさい」


お母さんが亡くなってからお父さんとこうやって真っ向に話すのは数年ぶりだろう、それにこうやって怒られたことなんて一度も無かった。


少し静かになったところで、お父さんは優しく語り始めた。


「私もすぐさまお母さんのところに行きたかったさ。

しかし、ある患者の手術前で向かうことができなかった。

それは仕方がないんだ、お母さんはそのことを知っていて私にお願いしたんだ。


『私に何が起きてもあなたはいまあなたを必要としている人を助けてあげて。

私は人を助けるあなたを好きになったの、だから私の理想な人でいて欲しいの。

それが私のお願い....』


って。」

「ほんとう?」

「本当だ。

だから私はお母さんの理想であり続ける事にした、それがお母さんの幸せであるなら....」



お母さんがそう言ったのは嘘では無かった....

私は本当に最低だ...



「けどな、お母さんはこう言ってたぞ。


『でも、私の一番のお願いはあなたや黄華が幸せでいること。

それが私の一番の幸せよ。』」

「けど私はお母さんがいなくなったら幸せじゃなくなるよ....」

「そうだよな、結局お母さんもいなくちゃ意味ないよな....」


あのお父さんが物静かに泣いているのがどこか新鮮で悲しくて、暖かかった。


「お父さん...ごめんなさい....」

「それだが...私もお前に謝らなくちゃいけない....お前がお母さんのことをそこまで思っていたことを知らずに、母親がいないせいだと思い込んでいて勝手に再婚なんてしようとしていた。」

「知ってた。」

「え?」


そのこともあの時長井先生に聞いたのだ、お父さんを信用しようとしなかったのも、再婚すること聞いて結局お父さんはお母さんや私のことを大事に思っていなかったと思っていた。


けど、違った。



「長井から聞いたのか....ごめんな、私もお前にちゃんと向き合っていなかったのかもしれないな。」

「うん....」


冬場に上着をきていないから、体中冷え切っているはずなのに、全然寒さは感じなかった。

胸から温かさが手足の先までに伝わって体中温かく、気持ちいい気持ちになっていた。


そんな気持ちよさとは別に目から頬を伝って涙が流れていた。


「けどこうして約束を果たすとはな...」

「約束?」


一瞬なんのことかと思ったが、すぐに思い出した。


「お母さんとの約束。

家族みんなで遊園地(ここ)に来るって....お母さんはいないが私に黄華(おうか)、そしてハク。

ここが閉鎖してしまって、諦めてたんだがな。」

「そっか、覚えてたんだね...」


お母さんと最後に交わした、家族みんなで遊園地へ行くこと。

結局それは叶わないままでいた。


「ねぇ、お母さんのこといまでも好きだよね?」

「もちろんだ。」

「それじゃあ、今度は新しい家族みんなで違う遊園地に行こうね。」

「けど再婚させたくないんじゃないのか?」

「初めはそうだった。

お父さんはお母さんのこと好きじゃないのかと思っていて、それが嫌だった。

けど、お父さんはお母さんのこと嫌いにならないし、忘れない。

それにその新しいお母さんのことも好きなんでしょ?」


お父さんは私のことを気にして少しためらった様子を見せたが、嘘なしではっきりとそうだと答えてくれた。


「そう....お母さんを選んだお父さんだから、新しいお母さんもきっといい人よね?」

「ああ。」

「良かった....

お父さんの幸せはお母さんの幸せ、

お母さんの幸せは私の幸せ、私の幸せはお母さんの幸せ。

家族ってそういうものだと思ったの....だから私は構わないよ。」

「しかし、お前本当に...」

「いいの、私は散々お父さんに迷惑かけたし。

そうだ。

これからちゃんと学校にも行く、だから私のことは心配しないで。」

「いや...でも...」


意外なお父さんの一面を見るのは初めてだった。

そんな、お父さんのことも知ることができた。


「そんな姿じゃ寒いだろう、早く帰って夕食にしようか。」

「うん。」

「よし、ハク早く降りてこい。帰るぞ。」


(そうだ!ハク!!)



すっかり忘れていたがハクが男の子の姿になってることを思い出した。


「って、え?お父さんハクが分かるの!?」

「え、ハクだよな?」

「そうだけど....人間の姿だよ?」

「そんなのどうでもいいじゃないか。さぁ、帰るぞ。」


(うそ、あのお父さんがこんなおかしな出来事をどうでもいいで済ますなんて...)


おかしい、そう言おうとしたが急にどうでもよくなった。


(ハクが可愛い男の子のままならそれでいいや♪

それに、今日はそんなことよりお父さんと和解できたことが一番だし....)


その後三人で手を繋いで自宅へ帰った。



しばらくそんな幸せが続くかと思っていたが、そうはいかなかった。



1月12日


「あれー?黄華ちゃんひっさしぶりー!

急にどうしちゃったの?まぁいいや!

また私たちと遊んでくれるんだよね。」


ここへ越してきてからずっと同じクラスの腐れ縁の女の子。

私へのいじめの主犯でありその取り巻きの女子もまた同じ子ばかり。

その取り巻きも私がいない間にまた一人増えていた。


「あっはは、黄華ちゃん上履きどうしちゃったの〜?」


(あなたがどっかやったんでしょ...)


「あれー?なんでビショビショなの?今日雨だっけ?

ちょっと〜近づかないでよ〜。濡れるでしょ?うわ、きも。」


(どうせあんたが水落としたんでしょ。)


新学期そうそう、様々な嫌がらせを受けた。さらに何人かが受験勉強のストレスの影響かその嫌がらせは以前よりエスカレートしていた。


「なに?所詮あんたはお父さんコネで高校入れるんでしょ?

ほとんど学校来てないのにずるくなーい?」


(学校に行きたくなかった理由はあんたのせいでもあるんだけど....)


私は彼女らが私にしてくることは全部無視してやり過ごしていた。


分かってる....彼女らが私にしているってこと....


けど、私ははむかったりしない...仕方がない....



残り3ヶ月、こんなのが続くのかと思うと学校へ行くのも辛い...

さらには、家には再婚相手のうるさい同い年の弟がいる。


なかなか幸せな日々続かない。

次回は来月上旬までに出来れば....

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