#3 黄華とハク2 ☆
「あ、ごめんね、嫌なこと思い出させた?」
「いえ。大丈夫です。
その節はわざわざ病院抜け出してまで来てくれてありがとうございました。」
「いやいや、まぁ本当は勝手に抜け出したりしたらいけないんだけどね〜。
けど、結局私には何もすることはできなくてごめんね....」
「いえ、しょうがないですよ。それで、私に話しておきたいことってってなんですか。」
ここにいる本当の目的はその長井先生の話を聞くことだ。
「実はね、この間君のお父さんと飲みにいったときにね.....」
☆
12月23日
13:40
食事を奢ってもらった私は長井先生と別れたあと、そのまま帰らず河川敷の土手に座って綺麗な川の表目にに反射した光をぼーっと見つめていた。
「長井先生の言っていたこと....本当だったら...私はなんて酷いことを....」
お父さんは酒で酔っているときは、いつも私のことを話しているらしい。
それも、私のことをとても心配しているのだと。
(けどそれはあり得ない。だって私のことは興味無いみたいだもの。
それよりも....)
お母さんがお父さんにあるお願いをしていることとお父さんが本当は私のことを心配していることを長井先生は教えてくれた。
お母さんがお父さんにお願いしたというのは、「もし私が危なくなっても、貴方は私ではなくて自分の患者を優先して欲しい。」という内容だった。
それに、私が学校に行かないことにいじめられてるのかと心配しているらしい。
(確かにいじめられてるけど。
嘘よ....お父さんが私のこと心配してるなんてことない....いつも仕事ばかり....
きっとお母さんのことも嘘に決まってる....)
私は素直にそれを受け入れられなかった。
もし、それが本当だったら私の今まではなんの意味もなさない、むしろ本当に迷惑をかけている悪い奴になる。
そうなるのが嫌だったのかもしれない。
「はぁ....」
土手に仰向けに横たわり、暖かい光を全身に浴びた。
(私は何やってるんだろう....)
空に浮かぶ白い雲のゆっくりとした流れに目を追った。
昼過ぎの暖かさだろうか、徐々に眠気に誘われてうとうとしはじめ、やがてそのまま寝てしまった。
☆
18:00
全身を奮い立たせるほどの寒さとともに目が覚めた。
「....私ずっと寝てたの?」
太陽は住宅街によって見えなくなるほど落ち、徐々に道端の街灯が付き始めた頃だった。
ポケットにしまっていた携帯で時間を確認して、ぎょっとした。
「うそ....もうこんな時間....
なんで起こしてくれなかったの?ハク....
ハク?!」
自分の左手に巻いていたリードはなく、ハクの姿も全く見当たらなかった。
「え....」
川沿を下って探し始めた。
ハクが見つからない焦りは時間が経つにつれ高まり、徐々に歩く速さも速くなり、やがて走り始めた。
「ハク!ハク!!」
普段から大人しい性格だから勝手にどっかへ行ったりすることは無いはずなんだが....
誘拐された?川に流されちゃった?いろいろ理由を考えながらも足を動かした。
落ちた体力のある限りハクを探し続けたが見つからなかった。
「もしかしたら家に帰ってたり...」
ハク結構賢いしいつもの散歩道だから、一人で帰れてるかもしれない。
私は家に帰る途中にあることに気がついた。
ハクを探し回って違う道を帰るとあの遊園地の前を通ることになる。
この遊園地は去年に廃園となっていて、乗り物が動いていなければなに一つ電気がつけられていないため、まるで別世界みたいに中は真っ暗なはずなのだが....
「な....なんで?」
閉鎖された入り口の向こうは明るさで満ちていた。
真っ暗とは逆にまた違う世界のように。
何でだろう...ここにハクがいそうな気がしたのか、柵の横の空いていた職員用の扉から中へ入って行った。
見た限り、アトラクションは動いていないものの、色とりどりな明かりの中にいるだけでワクワクしてきて、なんだか幸せな気持ちだった。
もし、お母さんとお父さんとハク、みんなでここに来れてたらもっと幸せだったろうな。
そう、叶わなかったお母さんとの約束をふと思い出し奥から涙が込み上げてくるが、それをこらえた。
「....今はハクを探さないと。」
悲愴感漂う雰囲気で遊園地の奥へ進んで行った。
はじめは眩しく感じていた光も慣れてきて、あらゆるところを身探った。
さらに進むと、聞こえてこなかったはずの遊園地で聴く楽しそうな音楽が聞こえてきた。
聞こえてくる方向の先にはメリゴーランドが回っていた。
「なんでここだけ...」
今更ながらなんでこんな時間に潰れた遊園地がこんなに電気を照らしてメリーゴーランドだけを動かしているのかを考え始めたら、不気味に感じてきた。
「早くハクを見つけないと。」
そう思って振り向いた先の売店のような建物の上に二つの人影があるのに気がついた。
(なんであんなところに.....)
売店の向こうの大きなアトラクションの逆光でこっちからでは誰か分からなかった。
静かに売店の裏へ回って、土台になるものを登り、屋根の上に顔を出した。
どちらの影の正体にはそれぞれ可笑しいなところがあった。
一つ目の影の正体はスーツをまとった170後半くらいの男性、なぜか肩に猿が乗っているのが可笑しかった。
もう一つは120センチくらいの男の子なのだが....なぜか全裸で真っ白な髪の中から生え出た動物の耳と腰の少ししたあたりから生えた真っ白な巻尻尾。
その姿は可笑しいとはまた別に、個人的黄華の趣味で興奮していた。
(ケモミミ...ショタ.....き、きたぁあああああ!)
引きこもり中に目覚めたショタコン魂がいま最高潮に達した。
(って、違う!!なんだろう....あのケモミミショタ....なんか心当たりが....)
そう、小柄で真っ白な毛....柴犬特有の巻尻尾.....
ハクと言いかけたところで、突然妙な光に包まれて、視界は真っ白になり、乗り出していた土台からバランスを崩して落ちてしまった。
「イタっ!」
「誰だ!!」
謎の事故のおかげで、気付かれてしまったようだ。
「大丈夫、僕の知り合いだよ。」
「ッチ、何で一般人が。」
「彼女に手を出したら、すぐにゲーム始めちゃうからね。」
「くそ。」
(なんなの....?ハクが喋ってる?)
向こうから聞こえる子供っぽい声をあの小さな男の子と関連づけて、ハクが喋っているのだと思っていた。
すると、また向こうから違う声がした。
「英くん....英くん!!!しゃ、喋れるよ!英くん!!」
(女の子!?さっきはいなかったはず。)
自分への危機はないと思い今度は屋根の上へよじ登った。
また一人、しかも今度は170ちょっとくらいの女性で、これまた全裸...
そして今度は猿の耳と尻尾が生えていた。
(え、さっきあの男の肩に乗っていた猿?
うそ...一体どういうこと?)
「これはどういうつもりだ。」
「クリスマスより一足先にプレゼントだよ〜、どうせ明日にはみんなそうなんだから。」
私には目の前の状況に追いつけていないので、もちろん彼らが一体何を話しているのか理解できなかった。
男の横の女性は嬉しそうに腕を組んではしゃいでいた。
「英くん英くん!!」
「うるさいぞ。」
「えー、だって喋れるんだよ!!しかも英くんと同じ人間の姿♪」
すると男は一瞬私を見て、困った顔した。
「とりあえず、ミヤビは服を着ろ!」
そう男が言うと、彼の手からまるで手品のように真っ白なワンピースが現れた。
(え、ええ!?)
「な、なに!?さっきからハクや猿が人間になってたり、魔法みたいに洋服を出すし、一体なにがどうなってるの!?」
「っ!?」
突然の私の叫びは場の空気を止めた。
私はのろりのろりと彼らに近づき....
「けど....その前に.......
きゃーーーー!!!ハク!!!」
男の子の方に抱きついた。
「なんでこんなくゎわいい姿に!?
なんでなんで!?
やばい!!超嬉しい!!!
え!?この耳ってやっぱり本物!?
きゃー!尻尾柔らかい!!!やばい!!ハク、これからの一生この姿でいて!!」
完全に自分の世界に入り込んでしまった。
「......おい、ここにはまともな女はいないのか?」
「ご、ごめんね〜。まさかこうなるとは思ってなかったよ〜」
「邪魔も入ったし終わりだ。」
「あっはは、それじゃあせいぜい頑張ってね〜。」
「ッチ。
いくぞミヤビ。」
「ええ、ちょっと待って〜これどうやって着るの??あ、まって!あれもう一回乗りたい!!」
「時間がないからさっさと行くぞ。」
「はーい」
マイワールドにいるうちに男と猿の女性はどっか行ってしまったようだ。
「あれ、さっきの人たちは?ハク?」
するとさっきまで喋っていたハクは物静かになった。
というよりも、雰囲気が変わってまるで別人のようになってしまっていた。
「ハク?」
「.....」
全く口を開いてくれない。
動いていたメリーゴーランドは止まり音楽も流れなくなり、あの二人がいなくなったことでさらに遊園地は物静かになってしまった。
というよりも寂しくなってしまったのだろう。
さっきまでの興奮状態は完全に冷めてしまった。
(流石にこのままはまずいよね...あ、さっきの男の人にハクの服も頼めばよかったな...)
後悔しつつも自分のジャージを脱いで着せようとした。
「あ、その前に。」
携帯を取るだし、パシャリとハクのケモショタありのままの姿を写真に収めた。
完全に変態行為で普通は嫌がられるが、ハクは無反応だった。
(待受にしちゃおう....)
こんな変態画像を待受にする人は誰一人といないだろう.....
次回は来月中旬




