#8 〈希望の光〉 ☆
12:05
私は目の前で死に倒れている娘の頬をそっと指でなぞった。
「香月....」
私には昔夫がいた。
夫との出会いは能力がまだ超能力と呼ばれていたいた時の研究だった。
私が大学で超能力者に関する研究をし、先天的能力者であった夫はその研究材料として呼ばれていた。
そこで私は夫に一目惚れをして、両思いであること確認し互いに付き合い始めた。
数年が経ち、念願の子供が生まれた。
夫の名前と私の名前を一文字ずつとり、『香月』と名付けた。
しかし幸せな生活は長くは続かなかった。
超能力者である夫との交際はもちろん生温い物ではなかった。
夫が本物の超能力者であることが世間に知れ渡った途端、周りの人は夫を化け物を見るように蔑み、拒絶し差別を始めた。
それは妻である私へも来ていた。
けど私はそんな物を気にしてはいなかった、大好きな夫のそばにいられる、一緒に家庭を築けていければそれでいい....
それでも夫は私やまだ小さい香月には辛い思いはさせたくないと1人気負い、自ら命を絶った。
「....殺した....この世界は...私の夫を....」
私は夫を殺したただの人間や拒んだこの世界への復讐心、そして2度とこのようなことが起きないようにするためにも超能力調査機関という命名で組織を立ち上げ、超能力の開発や調査を始めた。
いつか、この世界を変えるために。
その頃だった、香月が喋れるようになったのは。
しかし香月が口にしたのは初めて言葉を喋る子が言うような言葉ではなかった。
外へ連れて行けば人を指差してわけのわからない英語などの単語を口にするのだ。
少し不気味に思いながらもいつものように仕事場であるSSTへ連れて行った。
するとカンナはそこでも人を見つけたは指差して変な単語を口にした。
そこで私は試しに本物の超能力者を香月のそばに近づけた、香月はその超能力者の名称を言い当ててしまったのだ。
私にも初めは訳が分からなかった。
調べるために色々な書物などを漁るがなかなか見つからなかった。
そんな時だった。秘書である秘山がここ宛に一つの本が届いているのを報告して来た。
それはだいぶ古びた本で、タイトルにはこう書かれていた。
『Skill Book』
始めバカバカしいタイトルに鼻で笑ってしまったが中身を開くとまるで辞書のように一つの熟語に細々と説明が書いてあった。
「これは....」
半信半疑でその本を飛ばし飛ばし読んでみると、所々香月が口にした謎の言葉が幾つか書かれていた。
試しに一つの熟語の説明を読んでみるとそれがこの世では起こすことの出来ないことが書かれており、それはまるで超能力者について書かれているのだとわかった。
その時点で私は香月が一人の超能力者であると確信をし、その超能力者はこの本当同じ題名、〈能力辞典〉と名付けた。
それは、超能力に関する情報を持っているのか貴重な超能力であると言うことも。
それと同時に私は香月を私から引き離すことにした。
このような超能力は他の研究者が喉から手が出るほど欲しがるものだ。
そうなると、この子は危険な目に合うかもしれない。
そして、さらにSSTの総括者の娘となるとさらに危険が生じる可能性を感じていた。
この子が小学生に上がる前に施設へ預けることにした。
ごめんなさい...しばらく一人で辛い思いをさせてしまうかもしれないけど、頑張って....待っていて頂戴....私がこの...この世界を変えるまで。
私はこのスキルブックという本を徹底的に調べながら、超能力者の開発を続けた。
この世がただの一般人よりも超能力者が増えればいいのではないかという考えだった。
一年が過ぎ香月を預けた施設へ顔を出すと、香月が一人で寂しそうに泣いているのを見た。
私は悩みに悩んだ末、昔一緒に研究をしていた同僚へ無名で一つの手紙を出した。
その内容は香月の持つ超能力者についてと、その価値、そして「よろしくお願いします」と一言だ。
大学の教授でちょっと無愛想な人だが根は良い人だ。
私は彼を信じ、香月を託すことにした。
そして一年、親に捨てられたルイともう一人の少女をSSTで引き取り、超能力の開発部門に回した。
そしてまた一年、美時がやって来たが去年と同様に開発部門に回した。
私はこの世界への復讐のことばかり考えていたせいか、自分の主任している追求部門にしか首が回らなかった。
私はあの子達を開発部門に回した時点で既に過ちを犯していたのかもしれない。
私は超能力のと言うものについてとこの本と一緒に研究をさらに積み重ねた。
何かこの世界を変える、理想の世界にする方法はないかと。
それから数年が経ち、色々なことを知った。
今まで私たちの求めていたものはもとから人間それぞれ一人一人持っているものであったと。
それはもう超能力なんて呼べるものではなく、一つの能力であると。
そして、その能力の種類にも希少性があり、その中で一つずつしか存在しない〈五大能力〉と言うものをしった。
能力についてだいぶ詳しくなった私の前に一人の少年が猿を連れてやって来た。
そう、彼が先天的能力者である黒塚英作くんだった。
彼は先天的能力者であることで周りから私の夫と同じ仕打ちをうけ、親にも見捨てられてしまっていた。
私はそんな彼を一番に引き取った。
絶対にあの人のようにはしないから....
そして、私はその子と一緒にいることで私は気づいたのだ。
彼の能力は何でも作り出すことのできる能力〈無限想像〉の持ち主であると。
私はこの子が〈五大能力者〉の一人だと確信した。
なぜなら彼はこの世に存在しないものまで作り出すことができたのだ。
能力の力を封印する物質など想像もしていなかったものまで作り出せたのだから。
彼に一つの能力を持ったガラス玉を作ってもらった。
そのガラス玉は透明に透けていて、中には赤い炎が渦巻いていた。
どう使えばいいか分からなかったが、それが〈発火能力〉であることは明確だった。
ならばこの子にこの世界を作り直すことのできる能力を作り出してもらえばいい、そう思い頼み再びガラス玉を作ってもらった。
しかし、そのガラス玉には何の力も入ってないように感じた。
やはりそんな甘くはないと感じた。
しかし、そのガラス玉は何処か綺麗に光っており、私は大事にしまうことにした。
そして、ついでに分かったことは彼はこの世に存在しない能力と一部の希少な能力だけは作れないと知った。
そしてさらに1年が経ちある日、秘山がまた私に届き物が来たと持って来てくれた。
私はこれが数年前にスキルブックを私にくれた人が送った物だと分かった。
やはり送り主の情報はどこにも書かれておらず、私は不信と疑問を抱いた。
その手紙に書かれていたのは、これから起こる〈覚醒現象〉の予言、それに伴い私に与えられる能力、そして....私の願いを叶えるための手段だった。
おかしいわ。絶対あり得ない...だって第一の〈五大能力〉はここにいるはず....
その手紙に書かれていた私の推測との矛盾は、私がその手紙へ信憑性を疑うものだった。
そして、その手紙の最初に書かれていた〈覚醒現象〉の予言の日が来た。
突然降り出した雪のような光の粒。
さらに私に降りかかった天からの光の柱。
多分これがその現象なのだろう、そして予言通り人々は能力を使えるようになった。
そして私に与えられた能力は、確かに手紙に書かれていた通りだった。
この現象の原因について、私には到底見つけ出すことは出来ず。徐々に能力が世間で一般化され始め、のうのうと生きている人々は私の復讐心をさらに煽られ、私はこの手紙を自分の道標とした。
「なら...この手紙の通りにすれば...」
私はこの手紙を信用し、そこに書かれていた計画に必要な装置をSSTの機密事項で制作し始めた。
それと同時に、この装置にできる限りの能力に関する記憶となる能力情報が必要になり、私の持っているスキルブックでは足りないと分かった。
そして、私は香月のもつ〈能力辞典〉と残り四人の五大能力者の調査を英作くん自らが引き受けてくれることとなった。
「ところで英作くん、あなたの隣にいる女性は誰かしら〜?」
「ミヤビです。」
「へぇ〜、ミヤビちゃん。猿の名前と一緒じゃない。」
「はい。」
「英作くんの彼女ね〜。」
「違います。それでは調査に行って来ますので、完成したあれをください。」
五大能力者は英作くんの作り出した〈座標探知〉や〈情報拾集〉などの能力玉を使い、残りは私自身で作り出した作羅針盤を渡した。
「ちゃんとここには一つの五大能力の情報が埋め込まれているから簡単に見つかるはずよ。」
「はい。」
「行こ〜英く〜ん。」
「彼女も待ちくたびれてる様よ。」
「放っておいても大丈夫です。」
「そうだわ、英作くん。あなた近頃私の知らないところで行動してることが多いわね。
何か隠してごとでもあるの?」
「......」
やっぱり何か隠している様だ。この計画の邪魔になる様だったら....
「いえ、実は覚醒現象から数日間ですでに2名ほど五大能力と思わしき人物を見つけ出しました。
しかし、まだ報告するほどの確信があるわけでは無いのでこれを使って再び捜査して見ます。」
「あら、どんな小さなことでも報告しなさい。」
「すみません。そして、先日岡類斗大学に伺ったときの報告書です。」
「ご苦労様。」
「それでは失礼します。」
英作くんが部屋から出た後、渡された報告書に目を通した。
私はそれを見て目を細めた。
「失踪!?
あの...クソ....あの人を信じるんじゃ無かった...」
私はすぐに捜索を始めた。
そして、しばらくして残り四人の五大能力者の居場所を突き止めた。
幸いにも彼らは全員同学年の高校受験生、そしてほぼ全員が互いに関わりを持っていた。
私はそれを利用し、昔からSSTが提供していた水屯高等学校に能力科を設立させ、何かしら何かしらの手段で彼らをこの高校に入れる様にした。
そして、それと同時に私の娘を預けていた彼のところから入学願書が届いていることに気がつき、そこに書かれていたカンナという少女について調べるように命じた。
そして分かったことが、カンナという少女が香月であるが香月では無いと言うことだ。
香月の他にカンナと言われる人格が生まれていたそうだ。
もしかすると、親を失った彼女のストレスが作り出したものなのか...だとしたら私は何てこと...
だからと言って諦めるわけにはいかない。
そして無事に計画の材料が私の手の中に入った。
そして2ヶ月、やっと装置が完成し、情報をインプットさせるのみとなった。
そして私は香月を連れ去り、暗示系能力者を数人使い私の言う通りにした。
しかし、〈能力辞典〉を使わせるには香月の人格が必要だとわかり、私はもう一つの人格にかかる暗示系能力を作り出し能力をかけさせた。
見事に成功し、彼女は私のスキルブックには載っていない残りの能力について、自ら〈能力辞典〉を駆使して教えてくれた。
そして、その情報を打ち込む作業をしているときだった。
彼女は私の命令とは別にあることを尋ねて来た。
「月夜さん。」
「なぁに。」
月夜さん...ね...やはり私のことは知らない....
「なぜ私の能力を必要としたのでしょうか?」
操られているせいか、心が無いのか棒読みの様だった。
しかしなぜ操られているのにこの様なことを聞いてくるのだろう。
暗示系は意識や命令を操れる様になるだけで、彼女の好奇心や感情は別になるのかしら....
私は計画の完成を目前にして機嫌が良かったのか、それとも今まで秘山と英作くんだけにしか話していなかったせいで溜まっていたのか、私がこの計画に至るまで全てを話してしまった。
どうせ、彼女には操られている記憶しか無いから、話したところで何もわからないわよね..
「....だから私はこの世界を作り直したい、そう思ったの....って....あはは、今のあなたにこんなことを話してもどうでもいい話しよね...あれ?」
情報の打ち込みを終えて画面から目を離し、彼女の方を向くと、彼女の目からなぜか涙が流れていた。
「あなた...何で泣くの?」
「分かりません。」
「そう....じゃあ、香月ちゃん。あなたはもういいわよ。カンナちゃんに変わって休みなさい。」
「分かりました、ぉ.....月夜さん。」
そして残りはこのガラス玉に4つの五大能力の能力情報を読み取らせるだけだった。
それにはこのガラス玉から半径2キロ以内で能力を発動させる必要があった。
しかし、出来る英作くんはしっかりと準備していたそうだ。
それは因縁のSSTとマッドグループの最終決戦という舞台だ。
計画通り4人とも能力を発動させた。
しかし、英作くんとその部下に裏切られ、2年前に開発部門から脱走したルイくんに装置を横取りされ、しまいには香月の彼氏さんに装置を破壊されてしまったのだ。
私へ...SSTへの恨みを持つルイくんに私は殺されところだ。
そう、仕方が無い。
私は愚かだったのかもしれない、自分の復讐のために実の娘を利用し、自分の設立したSSTとも向き合わず、たくさんの犠牲を出して来たのだから当然の報いだ。
そんな懺悔を心の中で行っていたが、現実はそんなものでは済まさせてくれなかった。
さらに私へ絶望を与えたのだった。
私をかばい香月が殺されたのだ。
実の娘を一度手放し、復讐のために利用した私を...
母親失格な私を....
香月は胸を刺されてもなお微笑んでいた。
なんで!!なんで....
そして私に向かって呟いた。
「何で...何であなたを一度捨て、利用した私なんかをかばうの....」
そうよ、なんでよ...
「産んでくれなかったら....私はこんな幸せになれなかった....
私を産んでくれて...ありが....と...う....」
やめて...私はあなたにお礼を言われることはまだなにも....
「いや!違う!!お礼なんて言わないで!だから死なないで!!」
やだ!これ以上私から希望を奪わないで...お願い....
「ありがとう...私の....お母さん。....」
「香月ぃぃぃ!!」
最後にこんな私をお母さんと呼んでくれた。
こんな最低な私を今もなおお母さんと分かり呼んでくれた....
私が殺されていれば良かったのに...
なんで...なんでこの世界は私に絶望しか与えてくれないの?
気づけば雨の中、倒れた香月やその友達やたくさんの人々が周りにいた。
しかし、私はそれでも香月から目を離さなかった。
ごめんなさい......わたしは....あなたを....
「月夜さん!力を...力を貸してくれ!!」
そこへそんな叫び声とともに香月の彼氏がやって来た。
「...なんで...なんで...私なんかを?」
「香月を...カンナを助けるためにあなたのその力が!!!」
「無理よ...」
「どうしてだよ!!」
「香月は...もう死んでしまったの...」
そう、私なんかをかばって....
「だからなんだよっ!!それでも助けるって言ってるんだよ!!」
「...あなた...生き返らせるつもりなの?」
少年は静かに頷いた。
この子は何を...
「だから無理よ...この世は暴力や精神で...能力で人を殺すことが出来ても、人間を生き返らせることは出来ないのよ....」
そう...私だって....この子を生き返らせられるならそうしたいわよ...
「それに....それにこの世に生命を生き返らせるような能力なんて存在しないのよ!」
「だからあなたの力が必要なんだよ!!月夜さん!!」
「...そうね...
私のこの〈能力創造〉なら可能かもしれないわ。
けどこの能力は私自身にわ使えないし、能力を受け取ることのできる人間が必要よ....
それに....」
「俺がその能力を使う!!」
この子....本当にこの子を生き返らせるつもりなのね...けど...
「それに、生命を蘇らせる能力はこの世の理に背くことになるわ...だからその使用者やその周りに何が起きるか....」
「それでもやるって言ってるだろ!!」
彼は嘘偽りも、恐怖心さえも見せないまっすぐな瞳で何も迷いが無いように見えた。
この少年、これまでに私の娘のことを...
「逃げるな。立ち向かえ。
俺は昔からこの言葉に助けられてきた...」
逃げるな...立ち向かえね....
そうね...私が今まで研究してきた能力に恐れてどうするのよ...
「そして今の俺には〈夢映し〉がある、この能力に込めた願いは夢を...希望を映すためにあるそう思ってる。
だから、俺にその夢を叶えさせてくれ!!」
「夢と言う名の希望ね...いいわね....分かったわ。英作くん....空の能力玉を作って。」
ミヤビと一緒に歩いてきた英作くんは、右手から一瞬で透明に透き通った1センチ大のガラス玉を作り出し、私に渡してくれた。
私はそのガラス玉を強く握り、どのような能力を作り出すかを、イマジネーションを働かせ考えた。
〈生命を蘇らせる〉と念じた途端頭に激痛が走った。
ッ!?
きっとこれがこの世の理に背く能力を作り出すということなのだろう。
けど、私はそれでも諦めない....
この少年が必死に香月を助けるように。
この子の言う、希望と言う夢に託して....能力の理なんかぶち壊して....私の今までの絶望を希望で塗り潰してあげる!!
絶対に...絶対に香月を!!!
「....出来たわ....これが〈希望の光〉...」
かろうじて残った意識で黄色い光がうずめくガラス玉をこの少年に託し、一言伝えた。
「..香月を...娘を助けて!」
☆
月夜さんから託されたガラス玉を夢渡は飲み込んだ。
今まで感じたことの無いような感覚と一緒に、疲れた体に力が入り始めた。
「カンナ....今...生き返らせてやるからな。」
「ちょっとまてよ。ゆめ」
ここで昇は夢渡を呼び止めた。
そして、夢渡の左手を強く握った。
「昇?」
すると、さらに力がみなぎってくるのを感じた。
「これで少しでも成功率が上がるだろ。」
「ああ、十分成功率MAXだ。
ありがとな。」
「ああ!」
ここで完全に昇とも仲直り出来たのだと実感することができた。
あとは、カンナを...香月を生き返らせるだけだ!
カンナの胸に右手をあて、精神を集中させた。
「うぉおおおお!!!」
身体中から光がほとばしり、その光は暗い雨雲を突き抜け、夢渡たちの上に青空を照らし出した。
やっとこの章も次回で終わり!!のはず。
来月中旬辺りにで。
他色々は下に活動報告へのリンクタグなどを作ったので見て行ってください。




