#7 〈能力創造〉
「は...はは....僕は悪くない...僕はただ、この女を....
僕は........」
王坂は震えた手から血のついたナイフを落とし、地を流して倒れている香月を見つめた。
「僕は....人を....」
自分のしでかしたこと、人を殺したのだ。
ナイフで軽く切るなら多少の罪悪感で済む、けど殺したんだ。
映画の中で見るのと、実際にそれを自分がやらかすのとは訳が違う。
この手で、ナイフで、殺した。
「僕は、人を殺したんだ。」
返り血のついた自分の手を見てはショックで倒れた。
☆
背後で何が起きたか分からなかった月夜はゆっくり振りむき、眼をギョッとさせた。
「か....かづ....き?」
目の前で彼女が私をかばい、ナイフに刺されて倒れていた。
完全に致命傷な部分を刺され.....
「ありがとう...」
なんで、お礼を言うの。
違う、私は。
「夢渡と出合わせてくれて....ありがとう...」
あの香月を守ろうと必死だったあの男の子のこと?
私も知っている。あの子があなたを一番に守ろうとしてくれていたこと。
私は何もしていない。むしろわたしは...
だからお礼なんて言わないで。
「何で...何であなたを一度捨て、利用した私なんかをかばって....」
「産んでくれなかったら....私はこんな幸せになれなかった....
私を産んでくれて...ありが....と...う....」
「いや!違う!!お礼なんて言わないで!だから死なないで!!」
「ありがとう...私の....お母さん。そしてごめんね...カンナ....」
この子は苦しい顔もせず、ゆっくりと目を閉じ、安らかの眠った。
(違う....)
「違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!!!
私は、誰よりも平和な世界で....あなたと一緒に過ごしたかっただけなのよ!!」
夫を亡くし、香月を手放した。
これ以上私の失うものはない。
後は、この世界を作り変えてもう一度香月と暮らすだけだと思っていた。
けど違った....
装置も失い、香月も失ってしまう。
「私に希望なんて...なかったのね....」
血を流して死んでいる実の娘を目の前に、私は絶望した。
何も残されていない...ただ、私の人生は不幸なものだったってだけ....。
月夜は膝を落とし、何も映らない瞳は真っ白な天井を見つめていた。。
☆
「か、香月!!」
俺はしっかりその瞬間をこの目で見た。
いつの間にか一緒に暮らし、一緒に過ごしてきた人が金属で刺され、目先でほぼ死にかけている。
(早く....早く行ってあげないと....
そうだ。)
夢渡はまだ身動きの取れないミヤビの肩を触り、〈夢映し〉を使って〈軽業〉をコピーし、走って階段を駆け上がるよりも早く上の3人のところまでたどり着いた。
「か....づき....。カンナ...」
涙でぼやけた視界は倒れた彼女しか見えなかった。
「嫌だよ....
勝手に死ぬなよ....
バーゲンダッシュ何個でも買ってやるから....」
彼女の冷たい頬に手をふれ、したになぞった。
「それに俺はまだお前に言えてないこともあるんだよ。
なぁ、カンナ.....
俺はお前が好きだ。
出会って3日もしないうちにお前は自分勝手なことをして、俺を心配させるわ....
年末では発情期に入るわ...
勝手に俺の布団の中に入るわ.....
は....はは。
きりがないや....
けど、俺はそんなお前の事が好きなんだよ.....だから。。。
死ぬなよ...」
「ゆめ!!」
昇が俺を呼んでいる。
(そうだ、昇。
立ち向かえ?逃げるのか?だっけ?)
「いや、まだ....なら...能力で...」
そうか、この世界がこんなにも理不尽で都合の良い物だと始めて思えた。
「だからゆめ!」
再び響いた昇の声は夢渡の注意を引いた。
(なんだ?)
「ここは危ないから早く脱出するぞ!」
「あ。」
地面は大きく揺れ、天井からは小さな破片がパラパラと落ちていた。
きっと、さっき俺が投げたボールのせいだろう。
この地下が崩れ始めた。
「あいつ、派手にやりやがって。
おい、撤退するぞ。」
「ここからなら俺たちが入ってきたところからのほうが早いよな。」
「じゃな、ならわしが黄華殿を運ぶから昇殿たちはみんなを誘導しるのじゃ。」
「ああ。」
昇の後ろを大勢の人が着いて行った。
「おいミヤビ!」
「らじゃー!」
ミヤビは〈軽業〉で先の夢渡のように階段をぴょいぴょい飛び、夢渡たちのところまでたどり着いた。
「よいしょ。」
彼女は王坂と月夜を両肩に背負い、死んだカンナを一瞬見ては泣きそうな顔をして先に去ってしまった。
(カンナ...香月....絶対に助けてやるからな....)
夢渡も倒れている香月を抱っこし、ミヤビたちの後を追った。
☆
「おいおい...嘘だろ...」
「完全に塞がれてしまっているのう...」
先導していた昇とミヤビはもと来た地下への入り口の前に辿り着いたが、そこはコンクリートの残骸で塞がれてしまっていた。
「どうすれば....」
「もう一つ出口があるそうじゃが、今からじゃ....」
塞がれた出口を目の前に絶望しかけていたところに四葉と翔子が現れた。
「しょうがないですね、生徒を救うのは教師の役割ですね。」
「せやな!
ここはうちらに任せな!」
「『英雄』の帰還のためにも私たちも全力を尽くしましょう。」
「でも、うちは何度も能力を使えるほど精神力は残っとらんよ。」
「あ、なら俺が。」
昇は自分の能力を翔子かけてあげた。
「なんや!これが五大能力の力かいな?」
「そうだよ。」
「ほな、破壊系、念力系能力者はうちの手を握ってや。
うちらは外側からこの瓦礫をどかしてくやで。」
「私もお願いします。」
「任せたよ、四葉先生、しょうたん!」
「落合君、先生に生意気ではないでしょうか?」
「落合君は学校戻ったら生徒指導やな。」
「げ。」
翔子は四葉と他のSSTメンバーだった人を数人連れてテレポートした。
「ワシらもどうにかしてこの瓦礫を排除するぞや。」
「ああ。」
そこへミヤビと黒塚が追いついた。
「おい変態。これはどういうことだ。」
(相変わらず偉そうだな...)
「瓦礫に塞がれてて今それをどうにかしてるところだ。」
「翔子と琴音もか?」
(こいつ四葉先生まで呼び捨てかよ...)
「ああ。」
「ならいい。」
そこへさらに夢渡も追いついた。
「おい昇これは。」
「いや、もう見て察してくれ!」
流石に同じ質問をされうんざりしてしまったようだ。
「俺は早く....治科ちゃん。」
「ふぇ?」
「〈治癒能力〉でカンナをお願い。」
「え、でも。」
「いいから。」
「わ、わかった...」
夢渡は抱えていた香月を治科のそばへ起き、黒塚のいる方へ向かった。
「なぁ、英くん。」
「だからその呼び方をやめろ。」
「ちょっと話がある。」
「....わかった。」
「う...うん。」
黒塚と夢渡は二人で何かを話し始めた。
「ねぇバカ、美時ちゃんはどうしたの?」
青野は昇に尋ねてみる。
「そういえば、見かけないな。」
「それって。」
「まさかまだ....ちょっと俺が行ってくる!」
するとユキエが昇の腕を掴んで、呼び止めた。
「危ないぞ!」
昇の降りようとした階段の先に天井が崩れ落ち、戻れなくなってしまった。
完全に瓦礫で挟まれてしまっている状況になった。
「なら瓦礫をどかしてでも!!
って、おい!
離せよユキエ!」
「だめじゃ。」
「見捨てるって言うのかよ!
そんなこと俺には....!」
「....ダメじゃ.....もしお主がいなくなったらワシは....
もう嫌じゃよ、これ以上ワシの大切なものを失ってしまうのは嫌じゃ!!!」
「ユキエ....」
(けど、あの子はどうすれば...
確か〈瞬間移動〉が使えるんだっけ?
なら、自分で脱出できてることを祈るしか無いのか。)
☆
ルイ兄....
私に取ってお兄ちゃんのような存在だった。
私のお願いを聞いてくれて、いつも私のことを思っていてくれていた。
けど違った。
ルイ兄は....自分の欲望のために私をずっと....?
嫌、私の憧れのお兄ちゃん。
「ルイ兄のバカ!!」
美時ひたすらまっすぐに進む道を走り続けた。
知らない場所をひたすら走っていた。
しばらく走り、少し落ち着いたら立ち止まり、ゆっくり歩き始めた。
(ここは...どこ?)
「きゃっ!」
目の前に上から白く固いようなものが落ち、びっくりした。
「これって...?」
すると地面が大きく揺れ始め、後ろから大きな音がした。
「やだ....戻れない...」
美時は恐怖心から無意識に能力を発動させた。
美時の周りはまるで一時停止でもされたかのように全てが止まり、何も音のしない世界に入った。
揺れていた地面は止まり、天井のペンキが剥がれ落ち、パラパラと降っていた塊は宙に浮き、崩れ落ちそうになっていた瓦礫もまた宙に浮いていた。
「怖い....怖いよ....」
塞がれていない道を、取り敢えずうつむきながら歩いていた。
周りには誰もいない、天井も壁も床も全て真っ白で何もなさすぎて怖いくらいだ。
歩いても何かしらの部屋があるくらいで、誰も見当たらない、出口への階段も見つからない。
(怖いよ....怖い....)
幼女は静かに涙を流すが、止まった何もない世界で幼女を助けるものは何もない。
「助けて....ルイ兄。」
初めに自分の大切だったはずの人の名前をを呼んで助けを求めた。
けど、助けは来ない。
(やだ....力が....)
能力を連続で使用し続け、美時の精神力も尽きそうになりはじめた。
「助けて...ゆめと。」
今までですぐに仲良くなることのできた彼の名前を呼ぶが助けは来ない。
「助けて....」
最後にある男性の名前を呼ぼうとしが声にでなかった。
(そうだ....私はあのおじさんの名前を知らない....けど確か...)
そこで限界が来たのか、身体中の力が抜け、視界に何も見えなくなり始めた。
動き出した世界で幼女は1人、さまよった果てに倒れた。
「たすけ....尾....」
.....
「おい!!」
するとそこへ1人の男の呼び声が聞こえた。
(やった...来てくれた...助けに...)
私の目に彼がルイ兄のあの時のように....私を助けに来てくれた王子様のように見えた。
「尾山...さん...」
「おい!大丈夫か!?」
☆
11:58
「それは不可能だ。」
「なんでだよ!!」
黒塚の冷静な声と、夢渡の必死な声が閉じ込められた空間に響いた。
「そんなことできるはずがない。」
「いや!できる!!やってみせる!!だからお前の能力で...」
「無理だ。」
「なんでだよ!!このままじゃ香月は本当に。」
「〈治癒能力〉で治しても無理なら絶対に不可能だ、それにもうに出遅れになる。」
「でも!!」
「それに俺には出来ない。」
「嘘だ!お前は何でも作り出すことができるんだろ!?能力だって自分で...」
「ああ、能力を作り出せる。けど、俺はこの世に存在しない能力は作れないんだ。」
「それじゃあ....」
「人を生き返らせる能力なんて存在しない。」
その言葉を聞き、最後の希望を失った。
〈治癒能力〉は傷の回復だけで、生命を生き返らせることは出来ないことを知っていた。
能力科のある水屯高校ならではの授業〈能力基礎〉というもので教えてもらったのだ。
(それじゃあ....もう....カンナは....)
「やった!」とそんな声とともに瓦礫がどき、外が見えた。
外と内側からの瓦礫の排除がやっと終わり、外への道が開けた。
「早くみんな!!」
ぞろぞろとたくさんの人が外へ出ていった。
「おいゆめ!黒塚!早くしろ!」
昇の叫び声は夢渡たちにも余裕で届いたが、夢渡は聞き取っていなかった。
「....なぁ!教えてくれ!!
俺はどうなったっていい!
だから!!どうすればカンナを!!
教えてくれよ.....」
夢渡は黒塚の胸元を掴み、枯れた声で怒鳴り散らした。
黒塚はそれを冷静に突き放しこう言った。
「...ッ!?」
「分かった、なら教えてやる。」
「....え....」
「月夜だ。」
「つく...よ?」
「お前の彼女が身代わりになって助けたSSTの女だ。」
その月夜はミヤビの肩から降ろされ、自分の足でゆっくり開いた出口への階段を上がっていた。
「あいつは〈能力創造〉を使える。
それは、他の人に自分で作り出した能力を与えられる能力だ。」
「それじゃあ、香月も?」
「ああ、けど実際にやるのはお前自身だ。」
「そんなの構わない。それじゃあ今すぐ!!」
そう言って夢渡は黒塚をおいて、出口から出ていった月夜を追って階段を急いで上がった。
「英くん。人を生き返らせるってことは.....
まさかあの子のこと....」
「ああ、俺はあいつがどうなっても知らないし、それに自分を犠牲にする覚悟はあるらしいしな。」
「....何もなければいいけど。」
「それは無理だ。必ず何か代償があるはずだ。」
「英くんの〈無限想像〉と同じように?」
「ああ、この世にあってはならない物を作り出したり、使えばな....」
(絶対...絶対に生き返らせてやる...)
「カンナッ!!」
無慈悲に降る冷たい雨、脱出した人たちや、警察などで混み合っている中を避けながら探し回った。
そして、青野や昇たちの姿を見つけ近づけば、そこのは倒れたカンナと一緒に月夜もいた。
「月夜さん!力を...力を貸してくれ!!」
次回は一章の修正と一緒に月末に予定してます....




