#2 自由と限界
「おい!どういうことだよ!」
「手伝えないんだよ。」
「だから!!どういうことだって!!」
自分をいつも助けてくれた彼に助けを求めた、しかし彼は突然それを出来ないと言う。
だから必死に理由を聞いた。
けど、それが自分の予想もしていない答えだった。
「俺も....俺もSSTだから。」
(そんな.....嘘だろ....お前もカンナを...いや...なら!)
「...というかなおさら手伝ってくれよ!!」
(SSTに所属しているなら、カンナの居場所とか..敵の情報でもいい。だから!!)
「すまん...それは出来ない。それに俺は何もSSTの事は知らないし、情報を提供することも出来ないんだよ。」
「それでも!」
「無理だ!俺にも約束があるんだ....」
「親友のお願いでもか!!」
「親友でもだ....」
「もういい!!」
☆
(昇は大の親友である俺よりも、カンナよりもSSTをとったってことかよ....)
そしてそんな彼が今、SSTのメンバーとして、この能力対決で青野と戦おうとしているのだ。
「変態昇...あんた....」
「....」
青野の威圧感に怖がる様子もなかった。
しばらくして昇は口を開き青野に話しかけた。
「青野は何でマッドグループ...夢渡の手助けしてるんだ?
好きだからか?」
「な、違う!!!
.....それもあるけど....
私はカンナちゃんを助けたいの!!」
「お前の好きな人と四六時中そばにいる女子だぞ?」
「そうね、前はその理由で彼女を傷つけて好きな夢渡くんを怒らせ、悲しませてしまった。
本当はそんなつもりじゃなかったの...私は間違えてたの。
だから、ちゃんと償わないといけない。償いたいの。
だからって、私のしたことは許されない、けどそれでも何もしないよりは!!」
「はは...なら安心したよ。」
「何であんたが?」
青野の質問を無視し、昇は提案した。
「...俺に勝てたらカンナの居場所を教えてあげる。」
(2人でなに話してるんだ?)
「お主には関係のないことじゃろう。」
「なんで俺?まぁいいや、もう今のうちにカンナを...」
「その必要はないよ。」
徐々に親しくなれたのか、美時が気軽に話しかけてくれた。
「どうしてだい?」
「SSTに勝てれば夢渡の彼女も助けられるじゃん。」
「彼女じゃないって!!
けどそれもそうか....」
(SST襲撃作戦ではなくなったんだっけ、そっか普通に勝てばいい話なんだよな。)
「....相変わらず頭が働かぬようじゃの。」
「なんか言った?」
ユキエが何を言ったか聞こえなかったが、バカにされていることだけは分かった。
『SSTは1年F組の落合昇。
それでは二回戦を始めます!!』
「かかってこい。」
昇のセリフと同時に青野は背負っていた大きな黒い楽器ケースの握りを掴み、地面を蹴り上げた。
(昇は私と五大能力だけど、戦闘向きの能力では無いはず...
なら、カイトの<人体強化>の効果の私なら。)
青野は握った楽器ケースを昇の頭にめがけて大きく振り下ろした。
「ちょ!!」
何とか横へ避けた昇も流石に驚いた様だ。
とても強固な楽器ケースはコンクリートの地面を砕きへこませた。
「だから言ったじゃろう、単純じゃと。」
何処から出したのか、扇子を開いて仰ぐユキエは自慢そうに言った。
(いやいや、物は大事に使えよ!)
てっきり、<自由転換>を使うのかとユキエ以外はそう考えていたそうだ。
青野の予想外な行動に昇はビビっていた。
「青野さん?流石にそれは危険じゃありませんか?」
「大丈夫よ、怪我しても治科ちゃんがいるからすぐに治るわ。」
そう言って青野は水平に楽器ケースを振り切り、それをしゃがんで避ける昇。
<治癒能力>を持つメガネの子の名前が治科と言うらしい。
「いや、けど普通の武器での物理攻撃は...」
昇が言い切る前に楽器ケースを再び振り下ろす青野。
「大丈夫よ、あんたが死んでも誰も気にしない。」
「それ酷くね!?」
「怖いなら降参して。」
楽器ケースを引きずりながら昇に近寄る。
それは未来から来た液体金属の戦闘ロボが両手に武器を構えて近寄って来るぐらい恐ろしい光景だった。
しかし初めは焦った昇だが、それに恐れる様子はなかった。
「じゃあ、俺もそろそろ....」
「何を言っているの?戦闘向きの能力じゃないでしょ?」
「そうだぜ、けど使い様によっちゃあな。」
青野は引きずっていた楽器ケースを昇にめがけて振り上げると同時に、昇は後ろにステップして避けようとしながら<限界突破>と自分の能力を叫んだ。
「!?」
振り上げ切った途端力が入り過ぎたせいか、楽器ケースの遠心力と一緒に体が後ろに転倒した。
それから楽器ケースを何度も昇に振り回す青野だが、動きがどこかぎこちなく、昇はそれをひょいひょいと避けていく。
「青野のやつどうしたんだ?」
「昇殿の<限界突破>で不意に能力の強化をされたからじゃろう。」
「それだったら、なおさら体が思う様に動くんじゃないか?」
「お主はカンナ殿と体が入れ替わった時、カンナ殿の体を思い通りに動かせたかや?」
「ああ....初めは動かせなかったな。」
「それと同じじゃよ」
「なるほど。けど、あいついつから相手に触れなくても能力をかけられるようになったんだ。」
「生き物は成長するのじゃよ。」
「そっか。」
(それと比べて、俺は成長してないな....)
「あ。」
青野は振り下ろした楽器ケースが粉砕してしまったのをみて、つい口から声が漏れてしまった。
「流石の楽器ケースもここまで壊れたら振り回せないだろ。」
「そうね。」
「強化された能力を使い続けて疲れたんじゃないのか?
もう降参しろよ。」
「うるさい。
何度も夢渡くんのことを裏切っておいて、何言ってるの!?
私は精神を使い果たしてでもあんたを倒して、土下座させる。」
青野は目をつぶって昇に向けて両手を見せるようにのばした。
「俺は別に裏切って........」
すると昇はしゃがみこんで、両手を地面につけ、まるでおすわりをしている犬のような格好になりだし、舌を出してヘッヘヘッヘと呼吸し出した。
「あ、あいつ何してるんだ!?」
「犬にされた様じゃ。」
「は!?」
「香恵殿が昇殿と何処かの犬との魂を入れ替えた様じゃな。」
「そんなのありかよ!!
ってか最初にそうすればいいじゃん!」
「香恵殿は直接昇殿をボコボコにしたかった様じゃな。」
(そうだよな....)
青野の気持ちも分からなくはなかった。
「ワン!」
中身は犬となった昇はバカみたいに吠えた。
それをみた青野は一度気持ち悪さに引いてしまったが、気を取り直して壊れた楽器ケースの破片を拾った。
「ほーらほーら」
そう言ってしっかりお座りを決めている昇の顔の前で気を引かせる様にちらつかせた。
昇がその楽器ケースの破片を追う様に顔を左右に揺らしたところで青野は破片を昇の上を越え、場外に出る様に放物線に投げた。
「とってきなさい!」
昇は自分の上を飛ぶ破片を追う様に4足で走った。
「!?」
しかし青野の思惑通りにはいかず、破片が場外に出る前に昇が空中で捕まえてしまったのだ。
昇は破片を口に加えたまま青野の足元へ戻り、破片を置きキラキラした目で青野を見上げた。
「なら....捕まえて戦闘不能にするまでボコボコにするしかないわね....」
殺気を感じ、咄嗟に距離をとった昇を捕まえようとするが渋とく避けられてしまう。
(なんでこんなに回避が上手いのよ!!)
「待ちなさい!」
そんな命令も聞かず、中身が犬となった少年は逃げ回る。
「ふふふ....もう逃げられないわ....」
場外の隅へ追い込んだポニーテールの少女は疲れた声でそう呟いた。
そして、隅で縮こまる犬に襲いかかった。
昇は直上に飛んで避け、青野の頭を蹴り倒して避けた。
そのまま青野は場外に出され失格になってしまった。
「茶番じゃったの。」
「全くだよ....」
☆
「くそ、拉致があかねえ。」
寺門の遠距離の攻撃を、炎の壁で防御し続ける松本は苦戦していた。
「鉄平!君は僕には勝てない!」
「ッチ」
(あいつの精神力はどうなってんだ。)
同じくらい能力を使い続けているはずだが、今にも精神力を使い切りそうな松本に対して寺門はまだまだ余裕そうだ。
(くそ、このままじゃ。)
次の瞬間、松本の作った炎の壁は寺門の攻撃に破られ、次の攻撃が松本に向かって飛んでくるが、その攻撃は当たる前に一瞬にして水蒸気へ変わった。
「なに!?」
「来たわよダーリン!」
「ハニー!!」
普段の仕事着である黒いスーツとスカートを着た、松本の彼女である睡蓮は廊下の水道の蛇口を抑えて現れた。
「援護に着たわ。
ここなら水も半永久的に出るから私たちの勝ちよ。」
睡蓮の能力<水操作>は<発水能力>の様に自ら水を生成できる能力では無いが、その分水を操れる量や、応用の効く能力だ。
ましてや、そばに蛇口があり、そこから水が出続ける限り、余程の大きさの火で無ければ負けることは無い。
松本は睡蓮のそばに寄って合図をかけた。
「よし...いくぞハニー。」
「ええ。」
松本は指先から沢山火の玉を作り出して、数発寺門に向けて飛ばした。
寺門もそれを防ごうと松本の数倍の大きさの炎の壁を作るが、睡蓮が大量の水を操作して壁を水蒸気へと変え、松本の攻撃はうまく直撃した。
「寺門、お前の言葉をそっくりそのまま返してやる。」
「う...うおおおおおお!!」
寺門は全身に力を込めて、自分を覆う炎を作り出した。
「き、貴様はいつもいつも僕より努力をしていないくせに、僕に負けないくらいの成績をとるし、彼女がいて....
貴様にまた負けるくらいなら....」
☆
(なんて呆気ない終わり方だったんだ...)
散々追い回した結果、場外へ落っこちるという馬鹿らしい負け方で終わった二回戦だった。
戻ってきた青野はまずみんなに謝った。
「うん..いい勝負してたよ。」
可哀想なので青野のことをフォローしてあげた。
「心にも無いことは言う物では無いぞ。」
「ちょ、ユキエさん!?」
ユキエは夢渡の優しさをことごとく破壊した。
しょぼくれる青野に夢渡は話をそらすように、声をかけた。
「ルイのやつとトイレ長く無いか?」
「ルイ兄のトイレいつも長い。」
王坂のプライベートをあっさり吐いてしまう美時も何処と無くSっ気があった。
「このままじゃ3回戦も始まっちゃうじゃん。
ちょっと様子を見てくるよ。」
夢渡はこの気まずい雰囲気から抜け出したいがためそう言って、王坂が消えて行った出入り口の方へ向かった。
「逃げおったの。」
「逃げた。」
「逃げたね。」
「逃げた。」
「逃げた。」
そばにいた女子五人は容赦なく夢渡を刺した。
次回は来月半ばかな。




