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猫と能力と夢映し  作者: れぇいぐ
#5 能力対決とマッドグループとSST(下)
53/75

#1 〈音色ノ合奏会〉 ☆

「それでは一回戦を始めます!」


笹暮の合図でギャラリー席にいるみんなは闘技場の舞台に注目した。


「マッドグループは王坂ルイ。

対するSSTは.....」


向かいに立つSSTの選手は顔から下まで隠していたフードマント脱ぎ去って、自身の姿を明かした。

フードマントの中の人は何故かヴァイオリンを構え、今にも演奏しかねないような美しい立ち振る舞いをしている気品な大人らしい女性だ。


四葉(ゆつば)琴音(ことね)先生です。」

「琴音先生!?」


普段はそんな可愛らしい声を出さない青野がこのメンバーの中で驚いていた。


「あれ、青野の知り合いなのか?」

「知り合いもなにもE組の担任の先生よ!ほら、音楽の!!」

「いや...俺音楽とってないから....

でも確かに見たことある...気がする。」

「隣のクラスでしょ!!」


何故か興奮気味の青野だった。


(さっきはF組の寺門先生...次はE組の四葉先生....もし能力科の担任が全員SSTのメンバーとなるとD組の担任であり<能力>の授業を受け持ってるあの人も....

それは厄介だな....)


「夢渡殿、それより今の方が大事なのではないか?」


ユキエの一言で考え込んでいた夢渡の集中を舞台に向けさせた。



「D組の王坂くんね。噂は聞きましたわ。

学校での能力対決をさせる引き金になってくれたそうじゃない。」


四葉はヴァイオリンの構えから少したりとも体を動かずに、まるで彫刻かのように美しく立ちながらそう言った。


「そう。けど君たちのためにやったわけではないからね。

マンゴーメロンパンがどうしても欲しかっただけさ。」


(そこまでして。欲しかったのかよ!!)


気づけば隣に座っていた美時も一言口に出した。


「おいしかった。」

「美時ちゃんが食ったのかよ!!」

「私が頼んだの!」

「え、そうなんだ。」


(優しいやつだな...)


「そんなことよりお主はどちらが勝つと思うのじゃ?」


ユキエの唐突な質問に少し悩むが、はっきりと回答した。


「ルイじゃないのか?<絶対王政(ソロキングダム)>もあるわけだし、前に見た時みたいに降参って言わさせれば勝てるじゃないのか?」

「さて、どうじゃがの...」



「さあ、王坂くん。

きっとこれが教師の私と生徒のあなたとの『運命』なのでしょう。

それでは『死の舞踏』を交わしましょう。」


(僕たちは死の

恐怖より苦しい思いをしてきたんだ。

恐れるものはないんだ...

例えそれが四葉ちゃんの言う死の舞踏だろうが....)

王坂は心の中で相手に対してそう叫んだ。


「 幻想交響曲第1楽章『夢想と情熱』より。」


四葉は呟くと目を瞑り、ヴァイオリンの弓をヴァイオリンの弦を振動させるように上下に引き始めた。


穏やかに入り始めた音達はは闘技場全体を和ますように響き渡った。



(なんでだろう...ヴァイオリンしかないはずなのに、他の楽器の音まで聞こえてくる感じ....)


不思議な気持ちになる夢渡にユキエは答えた。


「そうじゃのう。ワシにも聞こえるぞ、洋楽は初めて聴くがこんなにも不思議な気持ちになったのは初めてじゃな。」


四葉の奏でる曲心を穏やかにされていた夢渡達だが、王坂に何が起こっているのか気がついていなかった。


「っえ?ルイ!?」

「ルイ兄!!」


夢渡に続いて名前を叫ぶ美時。



王坂は身体中殴られたのか、身体中痛そうに抑えながら、前屈みで両腕をぶら下げ、今でも倒れるのではないかと思うくらい足で踏ん張って立っていた。


(一体何が起きたんだ!?)

「あれが彼女の能力の様じゃ。」

「え?音楽を奏でてただけじゃないのか?」

「音楽を奏でることで彼女の能力は攻撃となるのじゃな。」

「そんな能力が....けど、ルイの<絶対王政(ソロキングダム)>を使えば....」

「それができぬ様じゃの。」

「え、何で!?」

「ワシにも分からぬが、何かしらの条件があるようじゃ。」

「それじゃあ、どうすれば...」


(このままじゃ負けちゃうぞ....

そうだ、いつもそばにいる美時ちゃんなら...)


「美時ちゃんは知らない?」


美時は話かけられてもなお、舞台から目を離すことなく、しばらくして答えた。


「ルイ兄の能力は....」



穏やかで何処か切ない音に身体中を殴られている王坂はまるで曲に合わせて踊っているかのように見えてきた。

3分ほど経って曲の序章が終わり、少しばかりの休止符に入った。


四葉のここまで攻撃を耐え抜いた王坂だが、これ以上は耐えられないだろう。


(何で王坂くんは何もしないのでしょう....

まぁいいわ。)


「曲まだまだ始まったばかりですが、これで終わりにさせてあげましょう。

これがフィナーレよ。」


そして四葉はヴァイオリンを構え直し、勢い良く弓を上下に引いた。


穏やかな曲から一気に高く激しい音が場内に響かせると同時に、王坂へ強く素早い衝撃を何度も与えた。


四葉はヴァイオリンを弾く手を止めることなく、王坂に向けて叫んだ。


「これが、月夜さんが私に授けてくれた<特別能力(スペシャル)>。

<音色ノ合奏会(トーンオーケストラ)>!!

そして、これが最後(フィナーレ)です!!!」


最後に弓を強く引いて止めた。

最後の衝撃が王坂を後ろへ吹き飛ばすが、彼女の目には王坂の顔には不気味な笑みを浮かべているように見えた。


(な....なに?笑っている?)


四葉はヴァイオリンを下ろし、倒れた王坂の顔を確認した。


(気のせいよね....)


四葉はそのまま王坂を後にして帰ろうとした。


「.....イン<音色ノ合奏会(トーンオーケストラ)>....オーダー....ダウン....ドント....モーション....」


王坂は一単語づつ呟いた瞬間、四葉に絶対的な何かを与えた。


「ッ!?」


(動けない....だめ...なら早くトドメを刺さないと)


四葉は身体中の力を振り絞って、ヴァイオリンを構えようとするが、すでに遅かった。


「....ヘビー...グラヴィティ....」

「ッ!!」


まるで重いものが体を押しつぶすような、重力が数十倍になったかのように体が地面に押し付けられた。


「身体中ボロボロだよ...まったく...」

「な....なんで今になって....」

「四葉ちゃんなかなか教えてくれないからさ。」


王坂は体を立ち上がらせて、お尻を叩いて言い続けた。


「僕の能力<絶対王政(ソロキングダム)>の条件.....それは」



「ルイ兄の能力は対象の能力名を言わないといけないの。」

「ルイは四葉先生の能力名を知らなかった、だから<絶対王政(ソロキングダム)>は使えなかったのか。」



「さて...僕は彼女以外を傷つけるつもりはない....だから.....

アドミット...ザ...ディフィート。」

「..む....む....」


(ダメ....体が勝手に....)


四葉は自分の口からある言葉を言ってしまいそうになるのを堪えるが、彼の<絶対王政(ソロキングダム)>にはかなわなかった。


口が勝手に開き、肺が自分の意思とは関係なしに喉を通して口から空気を出す。


「わ....私の.....ま....負け....です。」


彼女のその一言で一回戦は終了した。



「リリース。」


王坂はそう言って左手で指をパチンとならし、<絶対王政(ソロキングダム)>を解除して舞台から降りた。

そこへ治癒能力を持ったメガネの女子生徒が近寄る。


「え...えっと、私の能力で治せばいいのね。」


自ら怪我を直してあげようとする彼女を王坂は片手を上げて拒んだ。


「ありがとう。けどすぐ行かなくちゃいけないから、他の人のためにとっておいてくれるかい。」

「え、でもすごい怪我してるよ?」

「サンクス、大丈夫だから。」


なぜか闘技場ので入り口に向かおうとする王坂に、今度は美時が近寄ってハンカチを差し出す。


「ルイ兄、顔を拭いて。」


それを受け取り、口元についた血を拭き美時に返しそのまま行ってしまった。


「どこ行くんだよルイ!」

「ちょっとお花を摘みに。」

「え。」


(緊張感がないのかあるのか....)


「それでは二回戦目の準備に移るので、次の選手を選出してください。」


(一回戦も勝ったことだし、ルイには悪いけどさっさと降参でもしてカンナを探しに行こう。)


夢渡は席から立ち上がって舞台に向かおうとしたが、青野に先を越されたようだ。


「次は私が行くよ。」

「おい、何勝手に...それにそのでかい物なんだよ!!」


いつの間にか黒くでかいケースを背負って舞台に立ち上がっていた。


「え、楽器ケースよ。」

「いや、だからなんでそんなもの。」


それに、大きさからしてチェロでも入ってるんじゃないかというくらいの大きさのケースだ。


「四葉先生のを参考にしようと思って、さっき教室へ取りにいったのよ。」


(まさか《音色ノ合奏会(トーンオーケストラ)》を使うわけじゃないよな....

そんな能力青野が使えるわけ、けど青野は<自由転換(フリーチェンジ)>があるから勝手に四葉先生の能力を.....)


「夢渡殿、それは考えすぎじゃよ。

もっと単純な考えの様じゃぞ。」

「そうなんだ....」


(じゃああまり期待しない方がいいのか。)


「マッドグループは青野香恵さん、

対するSSTは.....」

「おい、まさかお前が.....」


フードマントを取った相手選手は何度も見たことのある顔だった。




「月夜様、準備が整いました。」

「そう、それでは起動させなさい。」

「了解しました。」


挿絵(By みてみん)

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