#3 〈座標探知〉
6月7日 ??:⁇
「....私をどうするつもり?」
カンナは灯りもない真っ暗なコンクリートで固められた4方形の部屋に手足の自由を鎖で封じられていた。
そしてカンナは自身の向かいにあるただ一つの鉄の扉の窓から見える人影のようなものに問いかけた。
自分が耳と尻尾を丸出しにして、全裸である事も気にせずに....
「...何が目的?」
彼女自身自分の能力、<能力辞典>が目当てなのだとは思っていた。
その人影の女性は口を開いてくれたが質問の答えにはなっていなかった。
「ふふふ、見れば見るほど本当に面白い子ね。」
その透き通った女性のような声は狭い部屋によく響き通った。
「猫の<擬獣化>にこの世で唯一の<能力辞典>の二つを持つ<同時所持者>ねぇ。
本当に可愛らしいわぁ。」
「....」
「私のペットにしてあげるわぁ。」
「?」
正直カンナは彼女の言っていることが理解できていないようだった。
「....目的は?」
「まだ教えられないわぁ。まぁ、楽しみにしているといいわよ。
そのために貴方には協力してもらうのだから、訓練を受けてもらうわよぉ。」
「?」
「そのためあなたの前にはいろんな人が来るけど驚かないでねぇ。」
そう言って女性と思わしき人影は鉄の扉の向こうには見えなくなり、コツコツと足音は次第に小さくなりやがて聞こえなくなった。
☆
6月8日
8:20
ドンドン
「ったく、誰だよ朝っぱらから!!」
(....朝から騒がしいな。)
朝の出勤直後に部屋のドアを遠慮なく叩く音に荻野は部下の松本の騒がしい反応にイラついていた。
「おっさん!!」
無闇にドアを叩いていたのは自分の娘、香月の事を任せた<五大能力者>のコピーの能力を持った少年だった。
「な!ボウズ!!」
「あら、ボウヤじゃない。」
アレルギーで声が変わっていたときと違って冷静な水蓮に対し、短気な松本はうっとおしいぐらいのカップルだ。
萩野自身何でこのカップルを部下においたのか正直思い出したくないものだった。
「どうした少年。」
焦る少年に対し冷静に尋ねる萩野。
「おっさん、カンナが!!」
「落ち着け。」
「.....カンナが誘拐された。」
「どうして誘拐って?」
少年はポケットから青い細長い布を取り出した。
何度か自分の娘に会っている萩野はそれを見て理解した。
「少年、その布をどこで?」
「道端に落ちていて...多分カンナが...」
「そうじゃない、どこで....いや誰から貰った?」
「え、カンナは貰ったって....能力の制御をしてくれるとか....」
(能力の制御?そんなもんあるのか?)
「長年研究しているがそのようなものが存在を聞いたことがない.....
いや、まさか....」
「何だよおっさん、教えてくれよ!」
「ああ!うるさいぞボウズ!!」
焦る少年に怒鳴りつける松本。
ただでさえ朝の松本は低血圧でうるさいのに、さらに今の少年だ。
萩野はイラつきを通り越して呆れてしまいそうだった。
しかし今はそんな状況下ではない事は分かっている。
「少年、それは誰がくれたか覚えてるか?」
「確か元日にミヤビッ...ミヤビっていう女と<光の矢>っていう能力を使う英くんっていうやつがくれたとか....」
「はっきりしろボウズ!!」
「落ち着きなさいよダーリン。」
うるさい松本を抑えようとする水蓮。
(英くん?聞いたことがあるぞ...)
「そいつらはSSTとか言ってなかったか?」
「あ!言ってた!」
「やっぱりな....黒塚英作...SST取締り課課長....」
「知っているのか!?」
「まぁ、以前あったことがあって、後は同僚の噂を聞いただけだ。
そいつは多分お前と同い年だ。」
(そう、あの子は香月と同じ奴だ....)
「取り敢えずその布に追跡系の能力がかけられているかもしれないから、貸してくれないか?」
「あ、ああ。なら。」
少年は素直にそれを私の渡してくれた。
「私の同僚も追跡系の持ち主だから尋ねてみるさ。」
「それで....カンナはどうすれば!?」
「すまないが数日待ってくれ、そうすれば同僚に逆探知してもらえるかもしれない。」
「....」
少年はどうもじっとしていられないようだ。
「分かり次第俺たちも動くからそれまでは我慢してくれ。」
「....ああ。」
(妙に素直だ....前にここに乗り込んだ時とは違って....)
「ちょっと待て。」
部屋から出て行こうとする少年を引き止めた。
「何か隠してないか?」
「....」
(やはり隠してるな。)
「私たちも協力するのだから、何か情報があるなら言え。」
「....SST....
さっき話していて思い出した。
SSTの噂をね。」
「噂とは?」
「最近学校の生徒がよくいなくなっているらしい。
それも能力科で能力のレベルや価値が高い生徒ばかり。」
「それでカンナもSSTに連れて行かれたと?」
「うん....」
「まだ確信が持てないなら、我慢しろ。逆探知が済むまでな。」
「....わかった。」
今度こそ少年は静かに部屋を出て行った。
「うるさかったり、静かになったりとめんどくせえボウズだ。」
「お前も似たようなもんだろ。」
萩野は流し気味に松本にツッコミながらも、自分の携帯電話を開き電話帳から[尾山根追]と表示された欄から、そこに表示された電話番号にかけた。
ボサボサの髪を掻きながら電話が応答するのを待った。
『あ、もしもし!』
「萩野だ。なんだ、向こうは騒がしそうだがどうした?」
『いま<マッドチーム>の奴らが騒動を引き起こしてな、俺たち取締り課が今取り抑えてるところだ。』
「ご苦労なこったな。」
『俺も研究の方に進みたかったけどさ、お前ほど成績は良くなかったからな。
まぁこうして超能力...能力に関われる仕事に就けただけ良かったよ。』
「そうか。」
正直萩野にはどうでもいい話だ。
『あ、こら引っ張るな!』
「...」
『ああ、すまんすまん。それより朝から電話してくるんだから何か緊急な用事でもあるのか?』
「ああそうだ。うちの娘が誘拐されてな。」
『ああ、えーっと...香月ちゃんだっけ?』
「そうだ。一度会っているだろう。」
『もう2、3年も前のことだろ!』
「そうか、それでちょっと確かめて欲しいものがあってな。」
『ああ、それでなんだ?』
「能力を制御する道具って存在するか?」
『能力を制御する?....ああ、俺の仕事場で開発しているのは聞いたことあるがまだ完成していないはず。』
(開発はしているのか....元旦に渡されたと言っていたからまだ存在していないはず....やっぱり追跡系の能力を....)
「では、追跡系の....」
そう言いかけたところで尾山は何かを思い出したように無理やり話をねじ込んできた。
『あ。けど黒塚くんの能力ならそういうものも作れるんじゃないか....』
「そうか。」
『それにしても本当に皮肉なもんだ。
上司が高校生で、先天的能力者で五大能力者なんだからさ.....』
「そうか。」
(能力を一番憎んでいる彼が何でSSTに....)
『ああ、それで俺に何をして欲しいんだ?』
「一つ確認してもらいたいものがあってな、それに追跡系の能力がかけられているかを確かめて欲しい。
あとそこから逆探知も出来るなら。」
『ああ、構わない。
取り敢えずこいつらを....
あ、だから引っ張るなって!!』
「何だ?さっきから子供をあやしているみたいな感じじゃないか。」
『すまん、なんて言った?』
「何でもない。」
『取り敢えずこの仕事方が着いたらそっちに向かう。』
「よろしく頼む。」
『それじゃあ....あ!!こら携帯返せ!!』
ピッ
☆
11:⁇
「う.....」
数時間前に知らない男がきてから頭の中が混乱しているカンナ。
「...<記憶操作>....」
1人で呟いたが、それは誰かに届くようなものじゃなかった。
今だに服を着てない状態だが、<擬獣化>の効果が薄くなっているカンナには寒さに震えていた。
そしてまたそこの鉄の扉が開いた。
それは男の人陰だ。
(....また私に能力を.....)
ここに入ってくる人は私を助けに来てくれるような人ではない、そんなことは当然なことだ。
さっき来た男性も私に能力をかけて、利用しようとしていたはず。
初めに会った女性の手下....
「ほら。」
男性は私に布のようなものを投げてきた。
その布を確認したところ、白くて薄い服...病院の患者が着ていそうなものとそれとセットになっているズボンだった。
「....え?」
「いいから着ろ。」
私はその男性の言うとおり服を着た。
そしてその男性は部屋の灯りを付けてこう言った。
「出てこい香月。いつまでも隠れていてもSSTにはバレてる。」
(....香月を知っている?)
そこでカンナの意識は途切れた。
☆
同時刻
トントン
「入るぞー」
「早かったな尾山。」
「まぁ、直接来たからな。」
「そして何だ隣の少女は。」
部屋のドアから入ってくるのは尾山だけでなく、彼の手首と手錠を繋がれた小学生くらいの少女がいた。
それを見た萩野は尾山へ対する接し方を変えようかと思った。
「こいつもマッドチームの仲間なんだが....」
「こんな小さな子が?」
「ああ、こうでもしていないと逃げられるからな。」
「むー....」
少女はふてくされた顔をしてうなだれたいた。
「それで確かめて欲しいものってどれだ?」
「これだ。」
「リボンにでもしてたのか?」
「そうみたいだな。」
「分かった、ちょっとだけ待ってくれ。」
尾山はソファに座り布を握って目を瞑った。
その間水蓮は尾山が集中して座っているとなりに座っている少女に声をかけた。
「お嬢ちゃんいくつ?」
「ふん。」
少女は水蓮の質問を無視した。
「そんな子供なんて放っておけ。」
子供に対する扱いのひどい松本はソファに足を組んで座って、煙草を吸い始めた。
カチッ
鍵の開いたような音がした。
萩野には鍵が開く様な音がする思い当たるものはない。
(気のせいか?)
「じゃあねおじさーん!!」
さっきまで静かだった少女は元気にそう言って一瞬で姿を消した。
「え?」
驚いたのは萩野だけじゃなく、近くにいたバカップルも不意を突かれた。
唯一驚かずに浸すら集中しているには尾山だった。
「おい、尾山。逃げられたぞ。」
「ああ、分かってる。」
「いいのか?」
「大丈夫だ、俺の<座標探知>があればまたすぐ見つけられる。」
「そうか。」
「.....よし。分かったぞ。」
尾山は目を開いて話続けた。
「この布には追尾系の能力なんてかけられていない。」
「な、なに?」
「追尾系どころか、何かの能力をかけられている様には感じない。」
「....」
「すまないな。お前は娘を取り戻したいんだよな。」
「まぁな....」
「何か心当たりはないのか?」
「SSTが怪しいらしいが...」
「やっぱりSSTか。」
「何だ?お前もそんな気がしていたのか?」
「ああ、俺は所詮下っ端だから噂ぐらいでしか聞かないが....
分かった、俺も中から調査してみる。」
「助かる。俺たちにも何か出来ることがあれば言ってくれ。
あの二人が暇そうにしてるからな。」
「私たちはいつも暇よ。」
「ああ、やることないからな。」
「必要になったら連絡するさ。
それじゃあ、あの子をまた捕まえないといけないから。」
「よろしく頼んだぞ。」
萩野と尾山は握手を交して別れた。
今回は他で2視点です。




