#2 リボン
6月7日
2回目の能力対決が行われた。
12:35
「...欲しい。」
弁当を食べている隣でカンナが物欲しそうな顔をしてこちらを見つめた。
「そんなに俺のカノレピスが欲しいのか?」
俺はゲスい顔で聞き返す。
「....うん。飲みたい。」
「なら、「夢渡のカノレピスが欲しい」ってちゃんと言いなさい。」
「....ゆ...夢渡のカノレピ」
バシン
「イテッ!」
「帰ってくればこんな卑猥な真似して!!」
教室移動の帰りか、青野は教科書で俺の頭を叩いた。
カンナは俺が買って飲んでいた<カノレピス>という白い甘い乳製飲料が飲みたいらしく、俺はちょっとカンナを遊んでた。
「そ、それにそのカノレピス飲みかけてるし....か...間接キ....
何言わせるの!!」
青野も平手が昇の頬を直撃した。
「イテッ!!何で俺が!?」
「だって、バカ昇見てたんなら止めなさいよ!!」
「俺はそういうプレイもいいと思うぜ!」
親指を立てている昇にもう一撃頬に平手が飛んだ。
「ったく....そうだ。
購買でまた何かやってたみたいよ。」
「へぇー。」
(ちょっと気になるし見に行こうかな....)
「じゃあ、行こうかな。カンナのカノレピス買うついでに。」
「私は先にご飯を食べるわ。」
「そうか。昇も来るか?」
「え?行く行く!俺もカノレピスでユキエを遊びたいし。」
(いや無理だろ。ユキエさんにはバレバレなんだから....)
「えーっと....黄華は....」
ハクに抱きついて周りが見えていない。
「...行ってらっしゃい。」
「お前もくるんだよ!!」
(カンナの分を買いに行くんだし、それに分からない事があったら聞きたいしな。)
というわけで、飲み物を買うついでに野次馬になりに購買に3人で向かった。
今回もまた購買の前で限定の<マンゴーメロンパン>目当てでバカな男子が3人取り合っていた。
(能力対決をこういうことに利用するだけならまだ平和だな。
ってか、購買のおばちゃん困ってるじゃねえか。)
「.....<発火能力><火炎従者><空気変換>の三つね....」
カンナがあっさりそれぞれの能力名を当ててしまっていた。
「お前、前より<能力辞典>に慣れてないか?」
「...そう?」
(まぁいいか。)
「なぁ、それより....」
隣で一緒に見ている昇が尋ねてきた。
「あの近くで立ってるメガネかけたちっこい奴誰だ?」
「あー。D組の笹暮って言ってっけな。確か<規制保持>っていう能力を持ってるから、審判になってるらしい。」
「ヘェ〜。あんなちっこいのがなぁ。
ハクより小さいんじゃね?」
「いや、ハクの方がちっちゃいだろ〜。」
「そうだよな〜」
能力対決は<発火能力>が火を手から出しては、<火炎従者>に作った火を操られ....
そして<空気変換>で酸素を消され、火が消える....そんな繰り返しだ。
最終的に男同士の殴り合いといった感じになっていた。
「んでさ、笹暮だっけ?そいつの能力どうりにしなかったらどうなるんだ?」
「そういえば、俺も気になる。」
「.....爆発するわ。」
「え」
「え?」
想像以上な答えに呆気を取られた。
「マジかよカンナちゃん。」
「....嘘。」
「嘘かよ!!」
「....内臓が破裂する。」
「.....」
「どっちみち悲惨なことになるじゃん!!」
「.....うん。」
(絶対関わりたくない能力だな....)
そして、殴り合いの結果<火炎従者>が勝ち残ったようだ。
(あれ、まただ....)
カンナは何もいない方向をずっと見つめていた。
「カンナどうした?」
「....誰かにつけられているみたい。」
さっき言ったとおりカンナの見ている方向には誰もいないし、何もない。
「勘違いだろ。」
「....うん。」
隣では昇がつまらなさそうに呟いた。
「何だよ...結局能力で勝負になってないじゃん。」
「まぁ、見について半年しない能力を使った戦い方を知るわけないだろ。」
「まぁ、それもそうだよな。
俺も初めは知らなかったし。」
「お前も?」
「ああ、ってか<限界突破>みたいな支援系でどうやって戦えばいいんだが...」
「そりゃあそうだよな。」
昇も能力を持っていることはつい先日知ったことで、驚いたのはそれが自分と同じ五大能力の一つであることだった。
「....ゆめともコピー出来なきゃ何も出来ない....」
「っぐ、そんぐらい分かってるさ!」
自分の欠点を見事に見破られてしまった。
自分の周りにはカンナや昇みたいに希少な能力をもった奴が沢山いるけど、コピーする能力に条件があるらしい。
・[五大能力でないこと]
・[カンナやユキエさんみたいな二重能力者でないこと。]
・[能力に関わる部分を触れなくてはならない。]
といった条件がいろいろ試した結果分かった。
そしていまの自分の人脈では姉ちゃんの<記憶昇華>ぐらいしか好きな時にコピーができない。
「ってか何だよ...<限界突破>なんて中二病臭い名前は。」
「じゃあ何だよ!他の能力みたいに英語に直してもっと中二病臭くするか?<限界突破>!?」
「そうだよな...今思えばどれも中二病臭いな。」
「....私は中二病じゃない。」
(もしも能力なんてものが一般的にならなかったら、こいつは一人で変なことを言う中二病だな。)
「ってか何で五大能力にはもともと名前が無いんだよ!!」
「そうだよな。わざわざ名前を考えないといけないし面倒だよな。」
(そうだよな...名前なんて思いつかないよな....)
今だに自分の能力に名前を付けられていない。
「それに何でユキエは揉ませてくれない!!」
「知るか!!」
「もう何日と毎日会って油揚げ献上してるのに!!」
「だから知るか!!ってか、霧狐山に毎日行ってるのかよ!」
(引っ越した昇の家からじゃ遠くないのか?最近付き合いが悪いのもユキエさんに会いに行ってるからか。)
「....そんなに叫んで大丈夫?」
「あ、そうか。」
五大能力であることは秘密にしなくちゃいけないのだから、誰にも聞かれてはいけない。
「まぁいいや、さっさと用事済まして戻ろうぜ。」
「ああ。」
購買の横に置かれた自動販売機で<カノレピス>のペットボトルを買い教室へ戻ろうとした。
「なぁ、最近D組の生徒が消えるっていう事件が起こってるらしいぞ。」
「え?マジかよ。」
「けどよ、それが誰か消えたか知らねえんだよ。元から居たのかも分からないんだってよ。」
「それってただの勘違いじゃねえの?」
「いやいや、本当だよ。」
3人で歩いている中そんな噂話を聞いた。
「そういえば俺も聞いたぜ。」
昇は自慢そうに言った。
「おっかないな。」
「そうだよな〜それもこの学校と関わり深いSSTっていう機関が関係あるとかないとか。」
(SST...確かミヤビッチの彼...英くんだっけ?そいつらもSSTだっけ...それに萩野のおっさんが気をつけろって言ったところだな....
そろそろ動き始めたってことか?)
「ああああ!危な〜い!!」
「え?」
考え事をしていた自分の目の前には黒いパンツが
「ぐあ!!」
「いった〜い。どいてって言ったのに。」
(く、苦しい。)
気づけばか顔が女子の尻に敷かれていた。
「な、ゆめ!!お前ずるいぞ!!」
そんなバカなことを言う昇。
「...ゆめと....」
何故か威圧を放ちながら俺の名前を呼ぶカンナ。
「べぶびぶび!!」
「っひ!くすぐったい!!」
上に乗っていた尻がどいてくれた。
自分の上に乗っかっていたのは水屯高校の制服を着たあのバカな女だった。
「ミヤビッチ?」
「あ、夢渡くんじゃん。それにカンナちゃんに....変態?」
「ただの変態じゃないぞ、変態は変態でも」
「ごめん!今日こそ<マンゴーメロンパン>を食べるんだ〜!!」
俺たちとは反対の方へ生徒達をピョンピョンと避けながら行ってしまった。
「なんでミヤビッチが?ってかお前ら知ってるのかよ!!」
「ミヤビッチって何だよ。
まぁ、知ってたけどな〜。あれでも人気者だからな。」
「え?じゃあ、能力科にいるってことか?」
「いや、ミヤビちゃんは俺たちの一個上だから普通科だな。」
「へぇ〜。」
(ってか、何で昇がミヤビッチのことを知ってるんだ?それにむこうも昇を知ってた。昇が変態ってことも....)
「ってかカンナも知ってたなら教えてくれてもいいだろ!!」
「....」
カンナは無視した。
「おい、何で怒ってるんだよ。」
「...顔を赤くして...」
「な!」
(顔にあんなものを押し付けられて普通にいれるはずがないだろ!!)
「ゆめ、カンナの機嫌を治したいならさ、同じことしてもらえば?」
「はぁ?何バカなこと言ってるんだよ!!それに事故だし!!
カンナだってそんなことしたくないだろ!!」
「.....」
「黙らないでよ!!!!せめて拒んで!!!」
結局学校が終わってもカンナは俺と口を聞いてくれなかった。
☆
17:12
「ねぇ、カンナちゃんどうしたの?」
昼休み後からカンナと俺の様子を見ていた青野は心配そうに聞いてきた。
けど、本当にわからないのではっきり「分からない」と答えた。
「そう....あ、じゃあここで。」
「ああ。じゃ、また来週。」
「....さようなら。」
駅から数分歩いたいつものT字路で青野と分かれ、カンナと2人きりになった。
「なぁ、カンナ〜なんでそんなに怒ってるんだよ〜」
「....知らない」
「じゃあ、<バーゲンダッツ>買ってくか?」
「....」
やっぱり機嫌を直してくれそうにはない。
「うお!?」
「....」
突然強い向かい風が吹いた。
「....あ。」
「どうしたカンナ?」
「....リボン」
「あ、」
カンナの頭にいつも付いている青いリボンの反対側にもう一つ付いていた白と模様のついたリボンがほどけ、宙を舞って飛んで行っていた。
「あ!カンナ!!」
カンナはそれを追いかけるように走っていった。
自分もその後ろを追いかけた。
流石にカンナの足の速さじゃ追いつかないので、カンナは<擬獣化>を使って猫の姿になって追いかけた。
「あ、おい!!カンナ!!制服....」
猫の姿になったカンナの制服は地面に置いて行かれたようだ。
俺はそれを拾って見失ったカンナを探し始めた。
(別に能力制御のリボンが飛んで行ったわけじゃ無いんだから、そこまでして追いかけなくてもいいだろ....)
それは入学式の前日にカンナと注文していた制服をお店へ取りに行った時についでに俺がカンナに買ってあげたリボンだ。
(あんなもんまた買えばいいのに!!)
沢山の荷物を抱えながらも適当に走り続け少し先にあるものが落ちているのに気付いた。
自分があげた白いリボンでなく、能力制御のための青いリボンが落ちていた。
「.....」
少しずつ不安が高まっていき、声を出してカンナを探し始めた。
「カンナ!!カンナ!!」
☆
22:40
重い足取りで自宅に帰ってきた。
「....」
「おかえり夢渡。遅い帰りね。
あれ?カンナちゃんは?」
「いなくなった....」
「はぁ?携帯は?」
怖そうに聞いてくる姉ちゃんに片手に持っている制服を差し出した。
「警察には?」
(今は猫の姿だから警察に言ったところで....)
「相手してもらえなかった....むしろ女子の制服持ってるから職務質問されそうになった....」
「あんたね.....」
6月8日
5:20
朝になるまで帰ってくるのを待ったが、玄関のドアを開ける音は聞こえなかった。




