#4 香ンナ月1
もしも、自分が自分じゃなかったら。
普段の私が私じゃない。
本当の私は<能力辞典>だけを持っているのが私であって、<擬獣化>を兼ねた同時所持者であるのは私ではない。
あの事件から私は私でなくなった。
その頃はその状況を楽しんでいた。
私じゃない私が猫になって逃げ回ったり、少年に拾われ裸を見られたり....
その少年に「カンナ」という名前をつけられたり。
けど、その名前は私にではなく、表の私につけたものだ。
何の記憶もない、まるで産まれたての赤ちゃんのような彼女につけた名前だけれど....
そして、その少年は私を助けようとしてくれた。
...結果的に助けてくれたのかな?
白地夢渡
バカで時々意地悪だけど優しい少年。
私と夢渡が初めて直接話せるようになったのは、同時所持者になって徐々に精神が安定してきた1週間後。
夢渡の実家で初詣に行ったときだ。
私が初めて表に出たのは、お父さんに会った時だが、その時は長く表にいることはできなかった。
そして初めて夢渡と話した時、夢渡は香月である本当の私ではなく、もう一人の、もう一つの人格であるカンナを求めていることを知り、悲しくなった。
それから、3ヶ月。
私は呼ばれることも無ければ、出る気力も原因もなかった。
ずっと影でカンナの感情、行動をずっと鑑賞しながらもなるべく自分が干渉しないようにしていた。
私は自分が本当の自分であるのかもよく分からなくなってきた。
そんな時、カンナにもどうしようも出来ない事が起きた。
夢渡が年明けから悩んでいること。
親友である昇という少年との連絡が突然取れないことだ。
それも3ヶ月経っている。
何の記憶の無いカンナに夢渡の気持ちが分かるわけもなく、その事を夢渡に指摘されたカンナの感情も揺らいでいた。
だから私は決めた。
カンナを私を助けてくれた夢渡を今度は私が助けてあげると。
私は少ない精神力で無理やり表に出て夢渡に私の過去お父さんにから聞いた、お父さんの本心。
それを彼に伝えた。
自分には分からなくとも、身近に...心配させた人がいるということを...
彼は分かってくれた。
少しでも彼の気持ちを楽にしてあげることができた。
それから私は彼にいじられた。
多分彼とここまで接触するのは初めてだった。
「ちょっと!!もうやめて!くすぐったいって!!!」
「分かったよ」
夢渡は私の脇から手を離してくれた。
「ねぇ。夢渡は私の話を聞いて、今の私は本当の私だとおもう?」
「え?なに言ってるかよく分からないんだけど。」
「カンナと私、香月はどっちが本物だと思う?」
「ん〜。
どっちも香月であって、カンナでもあるんじゃないか?
というより、カンナも香月じゃないのか?」
「.....」
「ほら、あの事件からお前は<擬獣化>ていう能力にも目覚めたんだろ?それと同時にカンナが出てきた。
カンナも擬獣化といっしょに目覚めたいうわけだろ?
たとえ何の記憶を持っていなくても、カンナは香月であるお前何じゃないか?」
「...そう。」
私は少し安心した、私は私であり、本当、オリジナルの私である事を知って....
疲れきった私は眠そうに夢渡にもう一つの質問をした。
「ねぇ、夢渡はカンナのこと好き...?」
「え?いきなり何!?
そんなこといきなり聞かれても...」
「....」
「っておい....寝てるじゃねえか....」
もう精神力がもたず、私はゆっくりと暗闇の中に戻っていった。
そんな私を見て、夢渡一言だけ言ってくれた。
「....おやすみ...」
私も心なかでそれに答えた。
おやすみなさい...夢渡....
私はカンナでもあり、カンナの感情は私の感情でもあるのかな...
そう思うようになり、私は夢渡のことを意識してしまうようになっていった。
そして私はその日を機に楽しんでいた傍観の立場が嫌になり始め、
表に戻りたい....
元の私になりたい...
理不尽....
どうすれば....?
ずるい....
私はそう思うようになっていた。




