#3 後日談3
5月9日
あれから1週間経とうとして私は退院した。
退院してすぐに向かったのが昇から聞いた霧狐山という山だ。
何度も私を助けてくれたカイトを迎えに行くために。
(ここで合ってるよね....)
日の差し込む森の中を1人緩やかな坂を登っていく。
ここを登り始めて数十分たった。
(霧狐山って言われてもどこに行けばいいかわからないよ....)
「?」
こんなに明るいのに一瞬辺りが霧で包まれた。
ふと横を見たら細い小道が出来ていた。
(あれ?ついさっきまでこんなのなかったよね。)
私はあえて開かれたその道を歩いた。
少しして野原に出てきた。
「ここって....」
真ん中にはロシアでカイトの住処の様な太く大きな木が立っていた。
私はその木に向かい、根と根が絡む隙間から中を覗いた。
中は木の葉で出来たベットの様なものに、着物が1着ハンガーにかけられていた。
「着物?
なんでここに?」
疑問に思いながらも中に入って確認した。
しかし、どこを見渡してもだれもいなかった。
(勝手に中にはいるのも申し訳ないし、さっさと出よう。)
私は入った隙間から、外へ出た。
(けど、どこを探せば...ここで待っていればいいかな?)
私はしばらくここで待つことにした。
しばらくして森の中から一つの影が見えた。
その影は徐々に大きくなり、姿を表した。
それは巨体でずしずしとゆっくり歩いてきた。
(熊!?
けど、まさかあの動物が?)
熊は眠そうにダラダラこちらに近づいてきて、そのまま大きな木を避けるようにそのまま真っ直ぐ森の中へ向かおうとしていた。
「あ、あの!」
私は思い切って声をかけた。
しかしその動物は何も喋らずただこちらを一回振り向いて、行ってしまった。
「....」
それからすぐに熊が来た方向から人影が見えた。
その方向から人のような声が聞こえた。
「早く俺を離せ!」
「うるさい。心をまともに読み取れないお主を野に放つ訳にわいかないのじゃよ!」
「ちげー!!俺はただ可愛らしい胸を追いかけたいだけなんだよー!!」
「それもそれでいかんのじゃがな。」
知らない女性の声と、もう一人はカイトの声だった。
「あ。」
その知らない声の女性はこちらに気づいた様で、早歩きでこちらに向かってきた。
「いて!ちょ!!そんな早く引きづんなよ!!おい!!」
その後ろから、ロープで縛られているのか、カイトが引きづられてやってきた。
カイトは途中、大きな石に頭をぶつけて気絶したようだ。
「香恵殿ではないか。話すのは初めてじゃな。」
その女性は私のことをすでに知っていた。
「あなたがユキエさん?」
「そうじゃよ。」
(胸大きいな.....)
「それにしても、カイトと同じ動物の耳と尻尾がありますね。」
「これも能力らしいの。この変態狼もワシと同じ同時所持者といって、二つの能力を兼ねているせいか能力が中途半端での。
能力の安定はこの鈴が制御してくれとるが、少しは意識しなければならぬからの。
ワシらにとって精神を使わず、楽に過ごせるのがこの中途半端な姿じゃ。」
「そうですか。
じゃあ、カイトのもう一つの能力は、相手の五感や肉体を強化する能力ってこと....」
「よく分かっておるではないか。
わしはてっきりお主自身の能力かと思ったのじゃよ。」
「....
ちなみにあなたのもう一つの能力って?」
「心読術じゃよ。」
「....」
(まさか、私が胸を気にしていることが知られてるってこと!?)
「そうじゃよ。」
「....」
「で、お主がここに来た理由はカイトを連れ出したいとのことかの?」
「言わなくても分かってるんでしょ。」
「突然態度が変わったのう。」
「あなたがそんな能力を使えるからよ...」
ユキエと香恵が睨み合ってる中、目を覚ましたカイトは声をあげた。
「は!香恵じゃねえか!!早く助けてくれよ!!
こんなの巨乳女に調教されてもう懲り懲りだぁー!!
早く平べったい胸をおらに。」
そう叫び散らすカイトに二人は怒鳴った。
「「うるさい!」」
カイトは縮こまって答えた。
「はい....」
「巨乳だから何よ。どーせ、体で男からモテようとか思ってるんでしょ。」
「な、胸があるないを気にしておるようじゃ、お主はまだまだじゃよ。」
「うるさいわね。胸があればそんなこと気にしなくてもいいっておもってるんでしょーね?」
「これでも肩が凝るのじゃぞ!!!
まぁ、無い者には分からぬじゃろうけどの!!」
「ぬぬぬ...」
そんな口喧嘩をしている中、もう一度カイトは尋ねた。
「あの...助けてくれるんじゃよな?」
「うるさい!!」
「ワシの真似するでない!!」
「...はい....」
それから数十分、お互いを攻め合う二人は疲れを見せた。
ユキエは香恵を自分の住処へ誘った。
「少し着替えるからこの変態狼をどうにかしてくれぬか?」
「分かった。」
「俺はあんな巨乳の裸なんか見たくねーよ!!
それよりもこの数日見れなかった香恵の胸を。」
「ねぇカイト。」
「なんだ?」
「ちょっと手を借りるね?」
「ああ。」
カイト手を握ったあと。そのままカイトのクビをへし折った。
「うむ。やはりこの姿の方が落ち着くの。」
ユキエは露出の高かった服から着物に着替えた。
(わぁ...綺麗な着物...それに凄く似合ってる....)
「ありがとの」
(また心を....)
「昇殿が着物を洗ってくれたのじゃがその間に着る服ががなくての。
昇がこんな露出の多い服しか渡してくれんのじゃよ。」
「あの変態の考えることね....」
「まぁ、座ればよい。」
木の根がちょうど椅子のように座れる形をしていたので、そこへ腰掛けた。
「で、お主はもう大丈夫なのかや?」
「私?」
「そうじゃ、気に悩むことが沢山あって溜まっておろう。」
「うん....けど、もう大丈夫。
またこの前のようにはならないから。」
「そうかそうか。
しかし今回はこの変態狼が引き起こしたようなものじゃから、お主がそこまで気に悩むことはないぞよ。」
「いや、そうはいかないの。
元々は私が積極的じゃないから先を越されちゃうし、こんなことになったのは、私が弱いから。
だから、カイトは悪くないの!!」
「しかしの、ワシにこの変態狼の心を読めぬ以上、何をしでかすか。」
「大丈夫。
カイトは悪いやつじゃない。
私を何度も助けてくれたし、今回も私を助けてくれようとしたの。」
「お主がそう思うならしょうがないの。
ところで、香恵殿は自身の能力を理解しておるか?」
「入れ替える能力...でしょ?」
「それも、ただ入れ替えるだけじゃなく、条件を操れる希少な能力。
五大能力者と呼ばれるものの1人じゃ。」
「うん。」
(悪い奴らに狙われるかもしれなってことか...)
「分かっておるならそれでよい。
もう大丈夫じゃ。カイトはお主のもとに返してやろう。」
「ありがとう。」
「うむ。あと、一つだけいいことを教えてやろうかの。」
「なに?」
「夢渡殿はまだカンナ殿を好きなのではなく、妹のようにしか思っておらぬぞ。」
「....なんでそんなことを?」
「お主にもまだチャンスはあるのじゃよ。」
「そう。」
(や...やった。)
「じゃあの。」
カイトを引きずって霧狐山を下りた。
それからカイトはまたいつもの公園で野宿をして、私は時々会いに行った。




