#5 閑静
20:00
やっと到着して飛行機から降りた。
もちろん外はすでに暗かったが、変だった。
「雪?」
空を見たが雲ひとつなかった。
すでに空港内も外の様子がおかしいことに気づき始め、騒がしくなった。
(どういうこと?雪じゃない....カイト....カイトなら何か知ってるかも。)
急いで荷物引き取り場に向かった。
外の様子を見ようと逆流する人の中をかき分けて、なんとかそこに着いた。
既にそこには人っ子一人いなくて、荷物を乗せたベルトコンベアのみが寂しく回っていた。
「え...と私のバックは....あ、あったあった。」
キャリーバックをベルトコンベアから降ろし、動物の引き渡しするところに向かった。
「あーあ。体の節々がいてぇ〜。」
動物引き渡し部屋から聞いたことのある声が聞こえた。
「カイト?」
「あれ?香恵ちゃん?」
ドアノブを回して扉を開けた。
「ねぇ、いま外が....」
扉を開けた向こうには全裸の男性が腰に手を当て、体を後ろに反らしていた。
その男性は口を開いて聞いてきた。
「え、外がなんだったて?」
「きゃ......きゃあああああああ」
自分の悲鳴が響き渡った.....
「な、何でカイトが?....私が人間じゃないから付き合えないとか言ったせい!?」
扉越しに叫んで尋ねた。
「あ?俺も知らねえよ!!気づいたらこんなことに」
「と、とりあえずそこに着るものとかないの?」
「ちょっと待てよ。」
扉の向こうで色々な音が聞こえてきて静かになった思ったら、私が寄りかかっていた扉が突然開き驚いた。
「わっ!ちょっと〜いきなり開かないでよ。」
「そんなとこに寄りかかっていたなんて知らねーべ。」
「でさ、何が起きてるかわからないんだけど!!それに何よそのとってつけたような獣の耳は!!」
「俺にも全くわからねえよ!!この耳だって、何で人間の姿になったのかも。」
「それでも賢狼なの!?」
「そんなのカンケーねーよ!!」
何が起きているのか全く分からない。
(もうどうなってるのよ....)
「まぁ、人がいない今のうちに出て行こうぜ。」
「う、うん。
って、ええ?ちょっと何!?」
カイトに足を持ち上げられ、背中を支えられて....
(え!?お姫様抱っこ!?)
「おお、軽い軽い!!何か狼の時よりすごい力が入る!!」
「だから、何でお姫様抱っこなの!!」
「早く逃げるために決まってるだろ!!」
「いや、けどただの人間なんだから普通に走った方が早いから、降ろして!」
「よし、じゃあ行くぞー」
「え、だから待って、下ろし」
私が言い切る前にカイトは足を思いっきり蹴って前に進んだ。
(あれ、は、早い?)
周りの景色があっという間に通り過ぎていき、体に風が強く当たるのに気づいた。
「すげー!!人間ってこんなに早く走れるのか!!」
「いや、それはおかしいよ。」
(本当に一体何が起きているのか全くわかんない....)
「ってか、早く下ろして〜!!」
過ぎ去っていってしまった人混みなどの景色が、一気にピタッと止まった。
「よーし着いたー!」
体を起こしてもらい、クラクラした視界の中で立った。
「うえ"」
「何で酔ってるんだよ?」
「あんたがいきなり止まるからでしょ!!」
「下ろして〜って言ってたじゃねーか。」
「屁理屈言わないの!!」
「....なぁ、ここからどうやって帰るんだ?」
「この様子じゃあ電車も当分動かないね....」
外は空を見上げる人ばかりで、落ち着いている人がいれば、騒いでいる人もいる。
この現象がどんな影響を及ぼすか分からない以上、交通機関も安易に稼動しないだろう。
「じゃあ、またお姫様抱っこで。」
「嫌だ。
それなら歩いて帰った方がいい。」
「...どんくらいかかるんだよ。」
「5時間くらい?」
「よし、しっかりつかまってろー!」
「嫌嫌!!、下ろして〜!!」
「はぁ....歩くか...」
「うん。」
外灯が照らす、静かな暗い道路を歩き出した。




