#1 お見舞い
短編です
2011年9月2日
私の物語はここから始まったようなものだった.....
8:20
(はぁ....緊張する。ここでの始めての友達出来るかな....)
この扉の向こうからざわざわした声と、それに対抗して大きな声が聞こえる。
「はーい。みなさんいつまでも夏休み気分のやつは早く目を覚ませー
それで、今日からクラスに新しい仲間ができる」
たくさんの声が沢山聞こえた。
「はい。入ってきていいぞ。」
その言葉を聞いて、職員室で言われたように扉を開けて教壇に登り先生の横に立った。
そして黒板に向かい、慣れないチョークで自分の名前、
「青野 香恵」
と書いて、再び振り返った。
「青野は母がロシア人で家の事情でこっちに転校してきた。来て間もないから分からないことがあったら教えてやったり、仲良くしてやれ。」
先に先生が紹介をしてくれた。
その後に続いて自分で紹介した。
「私は青野香恵です。向こうでは日本の学校に通っていたので、気軽に話しかけてきてください。
これからよろしくお願いします。」
一礼して拍手の音が聞こえた。
「さて、青野の席はこの前転校してしまった子の席....あそこだ。」
先生が軽く指差した方向は、クラスのほぼど真ん中に値するところの席だった。
(....いきなり真ん中かぁ....)
その席に向かい座った。
そして朝のホームルームが終わると早速何人かの女子が声をかけてくれた。
「青野さんの母親って本当にロシア人なの?」
「どのくらいロシアにいたの?」
そんな質問ばかりされるが、私は丁寧に答えていった。
けど、私は嬉しくはなかった。
別に私と仲良くするっていうわけじゃなく、興味本意で質問しているのではないかと思っていたから。
☆
9月20日
あれから結構経つがなかなかクラスの中に馴染めていなかった。
静かに1人でお弁当を食べていた昼のことだ。
「なぁ!この写真どうおもう!?」
「おお、これはすげーな。」
隣に座っている男子2人が一つの写真について語っていたようだ。
(.....騒がしい)
呆れていたら突然声をかけられた。
1人の男子がこっちにさっきの写真を見せながら聞かれた。
「なぁ?お前はこれどうおもう!?」
「え!?」
突然声をかけられ驚いてしまった
(これって言われても....)
見せられた写真には体のいいグラビアアイドルが水着を着てポーズを決めているのが写っていた。
「この体のバランスの良さ!
この時代ではあまり見ることの出来ない胸のちょうどいい大きさ!!」
「....」
「やっぱ、女子は胸がなくちゃ可愛さなんてないよな!というよりそんなの女子じゃない.....」
「ゆめ、お前何か勘違いしてるぞ。」
「え?何が?」
もう一人がこっちに指を指して、私に話しかけてきた男がこちらを見て驚く。
というより、私の胸を見て驚いていた。
「....え、あ?女?.....え?嘘?この歳でこの胸?ごめ....え?」
その男の子首元を掴んで外に引きずり出した。
「ぎゃああああああああああああああ」
穏やかな昼下がり....
校庭に男の子の悲鳴が響き渡った。
☆
それを見た人たちから私の怖い噂が流れて私は避けられるようになっていってしまった
しかし、バカなのか私が痛めつけた男の子は懲りていないようで、時々私をからかうことがあった。
2012年2月半ば。
「辛い....」
「熱を出すなんて珍しいわね」
私のお母さんがベットの隣で座って心配してくれていた。
「うん....ロシアと比べてこっちの方が暖かいのに....」
「まぁ、日本はロシアと違って四季があって気温の変化が激しいからかしらね。」
「うん....」
「まぁそこが日本のいいところなのよね〜」
お母さんは日本のことだと楽しそうに話すが...
「うん....」
頭が痛いせいか、お母さんの言葉があまり頭に入ってこなかった。
「ゴホッ、ゴホッ」
「あら...ゆっくり寝なさい。」
「うん....」
部屋からお母さんが出て行き、ゆっくり目を閉じた。
数時間か過ぎてまた目を覚ましてしまった。
その時家のインターホンの音が聞こえた。
玄関のドアが開く音が聞こえ、私の部屋まで会話が聞こえた。
「あら、香恵ちゃんのお友達?」
「は、はい!!え?香恵さんのお母さんですね。」
(え?友達?それに男の子?)
「うん、そうよ。」
「へぇー....じゃなくて。これ、学校のお手紙です。」
「あら、ありがとうね〜。
そうだ、香恵ちゃんのお友達が来るなんて始めてだから会っていく?」
(ちょっとお母さん!?)
「あ、いや....香恵さんのお母さんに会えただけで....じゃ、.....会います。」
「はい、じゃあ上がって上がって。」
「お邪魔します。」
階段を上る音がして、部屋の前で足音が止まった。
「はい、ここが香恵ちゃんの部屋よ。」
「ありがとうございます。」
「それではごゆっくり〜。」
トントン
「はい。」
ガチャ
「入るよ。」
(開けてから聞かないでよ...)
「うん....」
渋々返事をした。
「はぁ....」
入ってきてまずため息をつかれた。
(....おい。)
隣の椅子に腰掛けて話しかけてきた。
「大丈夫?」
「うん。」
それから何もはなすことなく時間が過ぎて行った。
「昇のやつも誘ったんだが、寒いからやだとか言ってひでえやつだよ。」
「そうなんだ....」
また沈黙がつづいた。
「それにしても青野と青野のお母さん、似てるようで似てないな。」
「それって胸がってこと?」
「ギク!」
「わざわざ声にだして図星だと表現しなくていいのに....」
「あはは。本当に似てないよな〜。」
「....」
「これ以上は迷惑だからじゃあ、そろそろ帰るね。」
「うん。」
「お大事に....」
「白地くん...ありがとうね....」
彼はこっちを向いて頷いた。
それから2日が経っての熱は治った。
あんな事をした私に対して、お見舞いに来てくれた。
私にとって日本にきて一番嬉しかった出来ことだった。
それから私はその男の子に惹かれて行った。
時々ではあったが、自分から声をかけることも出来る様になった。
☆
三年に上がり、このままではいけないと思い積極的にクラスの委員長になり、クラスにも去年よりは馴染めた。
それと同時に気になっていた彼の性格も少し変わり、少し穏やかになったのではないかと思う。
そして彼は私をからかうことが減り、優しくしてくれることが多くなり、私はさらに彼への気持ちが高ぶっていった。
こちらに引っ越してきて1年が経ち、12月のこと。
お母さんの実家のロシアに単身赴任している父の所へ行くことになった。
「青野ロシアに行くって本当?」
そのことに関して一番に話しかけてきたのが多少大人しくなった夢渡に対し、さらに変態を増した昇だった。
それに続いて近くにいた夢渡くんが反応した。
「え、マジで?帰国しちゃうの?」
「お父さんに会いに行くぐらいだから、2週間くらいで帰ってくるんだけどね。」
「へぇー」
「お土産期待してるぜ!!....主にその胸が大きくな.....」
なぜか夢渡はとっさに昇の口を抑えつけた。
「昇!!やめとけ!!」
「え?何か言った?」
「ふぅ....俺の分もお土産お願い。」
「え?...うん。分かった。」
そんなやりとりを交わし、次の日ロシア行きの飛行機に乗り込んだ。




