#5 噂
「五大能力?」
「...うん。そう言ってた。」
「五大能力ってたしか、作る、上げる、下げる、入れ替える、そして俺の真似する。」
「...そう。」
「けど、体を入れ替えるような....
まさか。」
「...そのまさか。」
(能力もだけじゃなく、体をを入れ替えることも....)
「けど、何で五大能力ってわかるんだ?今いろんな種類の能力が存在するんだから、体を入れ替えるだけの能力ってのもあるんじゃないか?」
「...ちょっとややこしいけど、きく?」
「お...おう。」
(できればわかりやすい方がいい、ミヤビッチにバカ認定されてるからな...)
「....確かにゆめとの言っていた通り、体を入れ替える能力は存在するわ。
...けど、あくまで体をだけ....
...だから心...魂の方がいいのかな?
....魂と能力を切り離すことは出来ないわ。」
「へ?魂と能力を切り離す?」
「...そもそも魂と能力は切っても切り離せないもの。
...だから普通なら能力を入れ替えようとすれば、体もいれ変わっちゃうってことなの。」
「.....?」
カンナは立って、電話機のそばまで行き、メモ帳とペンをもってきて何かを書いていた。
一通り書き終えてこちらに見せてきた。
メモ帳には大きい円が一つ、中にもう一つ、さらにもう一つの円が書かれていた。
「....じゃあハッピーセットで例える。
...この一番大きい丸が[ハッピーセット]、体とするわ。
...そしてその中の中位の丸を[おまけの入っている袋]、魂とする。
....そして、一番小さな丸[おまけのおもちゃ]を能力とする。
」
「俺のためにわかりやすく説明しようとしてくれるのはありがたいが、なぜハッピーセットで例えるんだよ。
そして、なんで主役のハンバーガーをいれないんだよ。」
「....え?ハッピーセットっておもちゃが主役じゃないの?」
「お前...子供じゃないんだから。」
「...まぁいいわ。
じゃあ、普通能力 (ノーマル)の入れ替えと、五大能力の違いだと。
...普通能力の方だと、おまけの入った袋しか、入れ替えられないけど五大能力の方だと、おまけの袋を開けその中のおまけ...いわゆる能力だけを入れ替えることができる。
....逆に言えば、袋からおまけを出すことができるのだから、おまけだけを抜いた、袋のみを入れ替えることができる。」
「うん....例えがアレだが、何と無くわかったよ。
で、犯行が五大能力の一人であることがわかったが、誰だか分からないんだがどうすれば?」
「....知らない。」
「うん。だろうと思った。」
「....けど、一つ気になることがあるの。
何でゆめとと私だけ入れ替わってるの?」
「え、俺たちだけなの?」
「....だって外が騒がしくないもの。」
(そういやそうだな。日本レベルじゃなくても、ここら一帯の人たちが入れ替わっていれば、ニュースになるはずだ。
それに噂のSSTも動くはずだし。)
「ってことは、俺かカンナのことを知っている人ってことか。」
「...そうなるわ。」
「けど、カンナの知り合いは凄い限られてるから....俺の知り合い、そして恨まれてる人....?」
「...」
「いやけど、それだとあり得ない....」
「....この前の子は?」
「この前?」
前日のことを一通り思い出した。
「あ....俺のこと避けてる人なら....
いや、まさか。けど.....」
「....あの子も同じ学校。」
カンナはそう言って、慣れない体でさっき使った髪を捨て、ペンを元の場所に戻していた。
「....まさか...」
五大能力者という可能性より、能力を持っていることに驚いた。
(中学卒業まで、青野が能力を使っている様子はなかったはずだぞ....)
「...使ってないからこそよ。」
「そうだな。どんな能力を使うかわからなくちゃ。」
(まずはあいつの家だな。けどその前に試練だ....)
まずは着替えだ。
このカンナの体は既に何度も見たことはあるが、自分の体であると思うとなぜか恥ずかしいので、白地夢渡の体のカンナに手伝ってもらって、その今のカンナの体の着替えも手伝った。
後は、頑張って尻尾まで生やさないようにはできたが、耳が出てしまったままで、恥ずかしいので帽子で隠すことに。
次はその体で長く歩くことだった。
カンナの方はすぐに慣れたようだが、自分は中々慣れることができず、カンナの腕に掴んでやっと1キロ歩けたくらいだ。
数十分して、一度きたことのある青野の家についた。
カンナにしがみついたままインターホンを押し、待った。
「はーい。あら、お久しぶりじゃないえ....っと....」
青野の母で、流暢に日本語を使っているが、一応ロシア人であるらしい。
娘と似て、髪は同じ水色っぽい青で、顔も結構似ている。
けど、胸はお母さんの方が断然.....
「お久しぶりです。白地夢渡です。」
一度、中1のころ青野香恵のお見舞いに来たことがあるので顔は覚えていてくれてたようだ。
「....え?」
青野のお母さんが首を傾げた。
(あ、やべ。今自分はカンナの身体なんだっけ。)
「の従姉妹のカンナです。」
「あら、お人形みたいで可愛いわね。」
(....そうか?)
「ちょっと夢渡くんの友達の青....香恵ちゃんに会いたくて、来ました。」
青野のお母さんは少し心配した様子で答えた。
「残念ね。今家にいないのよ。
それどころか、受験が終わってから全く家にいる時間が減ったのよ....」
(確かあいつも昇と同じ、塾に行かない勢だからあんまり出かけないはずなんだが。....やっぱり何かあるな。)
「わ、分かりました。ありがとうございます。」
後ろ向いた途端呼ばれた。
「白地くん。」
「はい?」
「.....」
(またやっちゃった。)
カンナの背中を叩いて合図した。
「....はい。」
「香恵に何かあったらよろしくね。」
「.....」
(黙るなよ!!!!)
カンナは静かに顔をコックリと下に下ろした。
☆
10:25
カンナにしがみつきながら、フラフラ歩いて考えていた。
(どうしようか....昇なら何か知ってるかな....って、今昇も話が出来る状況じゃないんだっけ。)
「どうすればいい?」
試しにカンナに聞いてみた。
「....黄華は?」
「そうか、取り敢えず同じ学校のことだから何か知ってるかな。」
昇の義理の兄妹?姉弟?まぁ、種類上双子の方がいいか。
誕生日も一緒らしいし。
同じクラスになってしまったので、ある程度話す事もあり、携帯番号も交換した中だ。
(よし、今度はちゃんとカンナになりきって....)
ピピピ...ッピ
(早!!)
『もしもし?』
「もしもし。」
『あれ?カンナちゃんじゃん。
ゆめじゃないんだ....』
昇の影響なのか、あだ名?の[ゆめ]で呼ばれている。
『どうしたの?昇ならいないよ』
「いや、昇じゃなくて、聞きたいことがあるの。」
『昇昨日から帰ってきてないわよ。』
「いや、だから。違うこと。」
『昇ならカンナちゃんを幸せにできるよ。』
(だから何でそんなに昇を押し付けるんだよ!!それになんだよ、昇なら幸せに出来るって。
....まさか....取り敢えず今は....)
「だから違うってば!!
青野香恵って知ってる?」
『え?青野さん?ああ、何か時々噂を聞くよ。』
「え、本当に?どんな噂?」
『あれ、カンナちゃんも一緒に聞いたはずだよ。』
「え....えっと、忘れた。」
『まぁいいや。確か、学校のすぐ隣の公園のべんちに座って、いつも1人で何かと喋っているって。』
「へぇ....そうなんだありがとう。」
『あ、まって。昇はカンナちゃんのとこにいないの?』
「え、いないよ。」
『なんだ....まぁいいや。』
「じゃあね。」
『あ、あと。あんた本当にカンナちゃん?』
ッピ。
すぐに通話を終了させた。
(やべー。ばれそうだった....)
☆
12:35
徐々にこの体にも慣れてきて、水屯高校のそばまでこれるようになった。
「....学校に忘れ物あるからとってくる。」
「え?」
(重要なところで抜けるなよ....まぁいいや、1人で何とかするしかないか....こんな体で)
少し歩いてちょっと大きめの公園が見えた。
(学校のそばの公園か....)
ちょうど昼間で公園には人は全くいなかった。
一番奥のベンチで誰かが座っているのを見つけた。
青野だった。口が動いていたので誰かと話していた様子だ。
「青野。」
驚いた様にこっちを向いた。
それと同時に、ベンチの後ろの茂みから何か動いたように、ガサガサって音がした。
「.....」
青野がベンチから立った。
自分は徐々に近づこうと一歩ずつ前に歩いた。
15mぐらいして青野がやっと口を動かした。
「あんたね....夢渡くんを.....」




