#0 冷たい日々
2月23日
5:30
ドタン!
「起きろ!」
ベットから叩き落とされ、起こされた。
いつも通りの朝....
「おはよう....。」
「今日はあんたの受験でしょ!?」
「そうだね。」
「あんたじゃ受かるか分からないけどね~」
「そうだね。」
全く感情のこもっていない返事をして、姉を自分の部屋に残し一階に降りた。
姉は寂しそうに呟いた。
「.....つまらないの...」
一階の降りてリビングに出ると食卓にカンナが座って高級アイスのバーゲンダッツ、クッキーアンドクリーム味をゆっくり食べていた。
普段なら突っ込むべきだろうけど....
「....おはよう、ゆめと。」
「おはよう....。」
「...食べる?」
「いらない。」
「....そう。」
いつも表情を変えないカンナが何故か悲しそうに見えた。
軽くパンを食べて、顔を洗い、自分のエナメルに適当に本と筆記用具と受験票などの入ったファイルを入れて家を出た。
いったん塾に顔を出しそこから30分程自転車で移動し、受験会場。
自分の行きたい?高校に向かった。
年が明けてから昇とは一切会うこともできず、携帯電話に電話しても
[この番号は現在使われておりません]
という言葉しか返されない。
自分にとっては大きな存在だ。
自分を助けてくれた恩人、そしていつも楽しく一緒にいられる大事な親友。
しかしなにも言わず突然姿を消して...裏切られた様な気分だ。
(....もうどうでもいいや。)
☆
15:20
5科目すべての試験をやりきり帰宅途中の電車のなか。
分かってはいるが、もう一度昇の携帯電話に電話した。
....
やはり繋がらなかった。
その後塾にて自己採点をした。
☆
18:30
採点した点数を先生に伝え、すぐに家に帰った。
姉はバイトに行ってるようで、カンナは静かにテレビを見ていた。
突然カンナが尋ねてきた。
「...最近おかしい....どうしたの?」
「何でもない。」
「...本当に?」
「だから何でもないって。」
急いで自分の部屋に戻り、ベットに寝そべった。
(なんなんだよ....バカ昇....)
☆
1月7日
冬休み明け、学校が始まって教室に入ってすぐ昇を探した。
しかし、その姿は見つからず一日目が過ぎた。
その翌日、やはりいなかった。
そろそろ先生に尋ねたが、「引っ越した」という一言しか無く、先生も詳しく知らないらしい。
残り3か月しかない時間のなかで引っ越をするのは、普通ならおかしな話し、いや馬鹿らしい話だ。
☆
(本当に昇はバカだよ...本当に....)
☆
2月24日
学校に行き、まず自分に話しかけて来たのは青野だった。
実は年が明けてから毎日話しかけて来るがすぐに話を流してスルーしていた。
しかし、今日はいつもと様子がおかしかった。
「受験どうだった?」
「別にどうでもいいだろ。」
「何よその態度。」
「別に関係ないだろってだけだろ。」
「...やっぱりあの変態のこと?」
「....」
「いつまでそんなの引きずってるの!?あんたがそんなに弱いやつだと思わなかったわ!いつまでもあんな変態頼って、何も変わってない....」
「ああ、そうだよ!あいつがいないとダメなんだよ!」
そう言って青野に背を向け教室を出た。
(知ったような口しやがって....
ああ 、俺は弱いやつだよ!あいつがいなきゃ意味ないんだよ...学校に来る意味も....)
小学校のあの時の事を思い出した。
弱い自分に勇気をくれた、こんな自分の背中を押してくれた。
もしあいつが引っ越して来なきゃ....学校に行くのも嫌になっていたはずだ。
それから一週間、一回も学校に顔を出さずに家で過ごした。
☆
3月1日
8;55
実はこの日が最後の希望だった。
頑張って勉強して、あいつと同じ第一志望の高校を受けた。
試験当日では会うことはなかったが、合格発表の日なら会うことができるかもしれない。
もしここで会うことがなければ、もっと遠いところへ引っ越してしまったのかもしれない....
もう会うことのできない。そんな不安の気持ちでいっぱいだった。
校門が開いた途端急いで自分の番号を探した。
「2037..2037....」
小声で呟きながら指を指して探した。
「あった。」
見事に見つけた。
受かったのだ。
以外と頭のいいアイツの第一志望の高校。
偏差値は65はあり、倍率も結構高い高校に。
(喜んでる場合じゃない....)
受験には受かったはずだが、表情はまだ固いままだった。
大量の人混みのなかを走り抜け、一番に受け付けに向かい手続きを済ませた。
そしてそのまま帰らず受付のそばで立って辺りをキョロキョロ見渡した。
結構目立つようで、周りからの視線が凄かった。
けど、そんなことを気にしている余裕はなく人探しをした。
(あいつならここに来るはずだ....)
11:30
すでに他の受験生の姿は無くなり、受付の人達が片付けを始めたなか、声をかけられた。
「あの...すみません。もう...」
受付にいた女性のようだ。
「...大丈夫です。。。」
(ああ見えて偏差値70超えでIQが150以上あるやつだからな。
落ちはずがない....
やっぱ遠くに行っちゃった....?)
自分は合格通知などの書類を片手で哀しみがこもった様に強く握り、うつむきながらゆっくり一歩ずつ歩いて帰った。
帰る途中ポケットに入っていた携帯が振動とともに鳴った。
画面には[自宅]と表示されていた。
カンナも自分の携帯電話の番号を知ってはいるが、自分に用事がないため電話をしてくるわけがないので、きっと姉からだと思う。
少し迷って通話ボタンを押した。
「もしもし」
[....もしもし.....私よ....]
いつもならつっこみを...以下略。
「カンナか。」
[...そうよ。....でゆめとは落ちたの?...やっぱ落ちちゃった?]
いつもなら...以下略。
「何でカンナが聞いてくるの?」
[....そのかが東の方向に手を組んでお祈りしてるから電話に出られないって。....だから代わりに電話してって....]
(お祈り中断しろよ....)
「へ~。じゃあ、合格したって伝えといて」
[...つまらないの。]
(合格しちゃったからか、ボケにつっこまないからかどっちがつまらなかったのかは気にしないでおく。)
「.....じゃあ、今から帰るから。」
[...うん]
ガチャ....ぴー...ぴー
向こうから通話を切る形で終わった。
家につき玄関を開けたらカンナが迎えてくれた。
カンナが出迎えてくれたのは何ヵ月ぶりだろうか。
「....お帰り。」
「ただいま。」
「....」
「何もないならそこをどいて?」
「....」
「だから何だよ、なんか言いたいことでもあるのか?」
「....ばか」
「それだけか、じゃ。」
カンナを押し退けて廊下に入ろうとしたが、なかなか通してはくれない。
「だから何なんだよ。」
(お願いだ...誰にも当たりたくない....)
「....いつまでクヨクヨしてるの?」
「カンナは関係ないよ。」
「...関係ある。....そんなゆめとの顔は見たくない。」
うつむいてちょっと怒鳴り気味でしゃべった。
「じゃあ見なければいいだろ。」
(そこを通してくれ....一人にさせてくれ....)
「...どうしたの。」
「何も記憶のないカンナに俺の気持ちがわかるわけないだろ!!」
「....ゆめ、と?」
(もうよせ、これ以上は...)
「お前なんかに大切な人が突然いなくなった人の気持ちがわかるわけ....な....い.....」
しゃべるのを途中でやめ、うつむいていた顔をあげたら、いつも無表情のカンナが少し涙目で今でも泣きそうな顔をしていた。
思わず家から逃げてしまった。
☆
階段の上から園花が降りてきて聞いてきた。
「どうしちゃったの?カンナちゃん?」
(カンナには無理だから私がやるしかないね。)
私は振り向いて無理にでも笑顔を作って言った。
「何でもないわ。」
「カンナ...ちゃん?」
(え?バレちゃった!?)
「耳と尻尾出てるよ。」
「あ。」
☆
19:30
近くの小さな公園のベンチで座って過ごした。
(誰も傷つけたくなかったのに....どうすればいいんだ.....教えてくれよ...昇)
さすがに寒くなってきたので家に戻ることにした。
次は誰も立ちはだかる事はなく、難なく家の中に入れた。
自分の部屋に上がる前にリビングを覗いたが、ソファーの上で体育座りをしているカンナがバーゲンダッツを食べている姿しかなかった。
(ごめん...カンナ....
ん?耳....?)
階段を上り自分の部屋のベットに横たわった。
青野やカンナの言葉が頭のなかで飛び回っているなか、今日の疲れか徐々に意識が薄く、薄くなっていった。
「はいドーン!!」
が、寝始めたところで体に凄い重さと衝撃が来た。
「重ッ!!」
今回は受験を中心に....
自分の高校受験を一生懸命思い出してかきました 。
テスト期間入ったので次回は来月の上旬辺りです。




