#1 穏やかな日和
12月31日8:20
あれから4日経った。
いつの間にかカンナが一緒にいるのが当たり前のようになってきた。
あれ以来一緒に出かけることはなく家でおとなしくしている....らしい。
自分は冬期講習で毎日10時間以上も勉強しているため、家にいるのは食事と寝るときくらいしかないから、カンナといる時間はなかなかなかった。
けど、この4日間夜遅くまでテレビを見て待っていてくれている。
あれ?それってただテレビが見たいだけなんじゃ...
まぁいい。これから年末年始休みで4日間も塾に行かなくて済むのだから。
「よっしゃ!遊びまくるぞ!!」
「そんなんだと受験落ちるわよ。」
目の前にいた姉に現実に戻らされた。
「そんなこと言うなよ~」
「甘く見てると本当に落ちるからよ。」
「大丈夫大丈夫、いくらバカな俺でも受かる!な、カンナ?」
「・・・」
朝食が並んだ食卓に、向かい側に姉、隣にカンナが座っている状態で食欲がなさそうな隣のカンナに話を振ってみた。
けど、返事さえしてくれない…
「カンナ、最近俺に対して冷たいけどどうしたんだよ…?」
顔を会わせるたび逃げてしまう。
俺の前でバカな事(脱いだり)したりすることがなくなって、安心はしているが寂しい気持ちもある。
「...だって最近、夢が相手にしてくれないもの」
「そりゃ、お前が逃げるからだろ?」
(っていつのまに昇と同じ呼び方されてるんだ?)
「...そんなことない」
「へー、じゃあ俺がお前の相手をしないほど受験勉強頑張ってるって事でいいのか?」
「...どうせ落ちるもの」
「うわ!ひでぇ、おまえまでそんなこと言うのかよ!?
けど俺は落ちないから!!…多分」
実は先日昇に呼び出された時にも似たようなことが言われて、自信を喪失しつつある。
「...」
「...」
「黙るの止めてくれない!?余計傷つくじゃねえか!」
「あっそうだ!カンナちゃん。今日からみんな休みだしみんなでどっか出かける?」
姉が俺の話を打ち消すように話題を変えた。
「...うん」
(お、なんか元気でたな。)
「じゃあどこに行こっか?」
「...どこでもいい」
「せっかくの元旦だし、実家に帰るのは?」
「そうね、じゃあおばあちゃんに電話してくる。」
姉は食事を終えた食器を洗い場に持っていき、電話をかけに行った。
「なぁカンナ。この4日間何してた?」
ずっと疑問に思ってたことだ。
俺も姉もほとんど家にいなかった4日間、一人で何をして過ごしていたのか。
俺が家に帰ってきたときは、部屋を明るくするのを忘れてテレビに夢中になってた。
ちなみに、番組はバラエティ、お笑いやドラマ、とくにおかしな物は見ていなかった。
「...別に」
「本当か~?」
「...うん」
「俺の部屋に入っ」
「..てない」
「即答かよ!?」
「...即答よ。」
「もう1つ。ゴミ箱にあったバーゲンダッツはお前が食ったのか?」
そう、3日ほど前からゴミ箱にちょっと高いアイスクリームのバーゲンダッツ(バニラ)の容器が捨ててあるのだ。
姉に聞いたら「知らない」って言うのでカンナだろうと思っていたが、本当だったとは…
「....そうよ」
「やっぱりか…けど、誰が買ってきたんだ?」
ほぼニートのこいつにお金はないはず....
「...さぁ」
「本当に?」
「...知らない」
「はぁ…
じゃあ言わないと、その耳を引っ張るぞ?」
「...子供みたいな真似はしないで」
「じゃあ子供みたいに隠すな!」
「...大人も隠すわ」
「そうだな。」
突然現実的なことを言ってきたので怯んでしまった。
だが、実行には移す。
頭に生えている黒い耳を掴んで引っ張った。
「...痛いわ」
「痛そうに聞こえないんだが!?」
「あんた何してるの!?」
の声と同時に頭に強い衝撃が...
「痛いわ...」
「カンナちゃんの真似しても許さないわよ!?」
「ッチ。」
「ゆめと...もっとかわいくやらないと意味無いわ...」
「お前はもう黙ってろ…」
「嫌だわ...」
「変な所でひねくれないでくれる!?」
「...」
「結局黙るのかよ!?
もういいや…、で姉ちゃん。
どうだった?」
「全く可愛くなかった。」
「カンナの真似のことじゃなくて!!」
「あ…はいはい。「是非いらっしゃい。それともこのまま此方に引っ越しちゃうのはどう?」って」
「いや、引っ越さないから…」
両親がいないことを心配してよく自分たちに引っ越し勧めてくれるけど、ここには昇とかいろいろいるから離れたくはないんだな~
それに、受験も控えてるし。
「じゃあ、準備して10時前には行くわよ。」
「ほい」
「...うん」
朝食を食べ終えたみんなは席を立って
そろぞれ部屋向かった。
「これとこれだけでも持っていけばいいかな…」
(とりあえず夜のスウェットと明日の服でも持っていけばいいかな。)
服をリュックにきれいに詰めた。
「...」
「あとは...」
そう言って振り向いたら一人の少女が...
「うわぁあ!」
驚いて後ろに下がろうとしたが、ベットがありつまずいてしまい、置いてあるリュックを下敷きにベットに倒れこんだ。
「なんだ、カンナかよ…」
「する事ないわ...」
「服でも準備しろよ。」
「分からないわ...」
「姉ちゃん所にいけよ…」
「忙しいって...」
「女の服なんて知らねえよ俺は。」
「じゃあ、ゆめとのでいいわ。」
「そうだな、寝巻きぐらいは俺のでも大丈夫だよな。」
タンスにもう一式スウェットをとりにいった。
「あ、けど穴は開けたくないから尻尾が窮屈になるけど大丈夫か?
ってあれ?
お前尻尾が...」
(お尻の不自然な膨らみもないし…)
「ゆめと...それはセクハラだわ...」
「あ、ああ!」
気づいたらカンナのお尻辺りを触っていた。
「わ、わりぃ!け、けどおまえ、尻尾は!?って耳もないぞ!!」
「...さぁ」
「何でドヤ顔してるんだよ!?
本当は知ってるんだろ!?」
「教えて欲しかったら私を満足させなさい...」
「何をしたら?」
「...バーゲンダッツ」
「やっぱいいや、どうでもいいや。」
「...これは集中力で引っ込めることができるらしいわ。」
「知ってたのかよ!!」
「...この前茶色い尻尾の子が教えてくれたわ。」
「そうか...」
(きっと物知りの猫でもいたのだろう。
てか、耳と尻尾のしまいかたを知ってる猫なんているか? まぁいいや、今はそんなこと気にする必要ないしな。)
「けどさ、集中しなかったらでちゃう訳?」
「そうなるわ...キャ!く、くすぐったい..わ....キャハハハ」
「本当だ、気が抜けると出ちゃう訳か。」
彼女の脇をくすぐっているのだ。
暴れてしまうのでベットに倒して上からくすぐっている。
「も....もういい...でしょ...キャア!」
「よし、じゃあ。何でも言うことを聞くと誓うか?」
「...う...うん....わかったから....は..はやく...キャハハ」
「よし。」
「はぁ....はぁ....」
「じゃあ、俺の肩を揉んでくれ。」
「...嫌だわ!キャ!」
ズボンの中から出てきている尻尾を思いっきり掴んだ。
「...ウウ...」
「わ、わるいわるい!だから、泣くな…泣くなよ!」
「...バーゲンダッツ」
「わかった、買ってやるから。おとなしく下で待ってなさい。」
「...うん」
大人しく下に行ってくれた。
(ちょっといじめすぎたな…けど単純だな。)
「まぁアイス奢るぐらいならいいか。ってあと何を入れようとしたんだっけ…」
最後に入れようとしていた物を忘れてしまった....
(まぁ大丈夫かな。)
「準備できたー?」
下から姉の声が聞こえたので返事をした。
「ああ!終わったからすぐ行くー」
☆
10:25
今は大きな駅のコンビニで、電車の中で食べる昼飯選びをしていた。
「何買うか決めたか?」
「...これ」
手にはバーゲンダッツの6個入りのバリューパックをもってきた。
ちなみに、バニラ×2チョコレート×2ストロベリー×2の通常のセット内容だ。
「じゃあ、カンナは昼飯なしでいいな?」
「...これさえあれば充分」
「それも買わないぞ。」
「...それは育児放棄でいいのかしら」
「昼飯にアイスしか食わせないのは虐待じゃね?それに俺に子供はいないし!!」
「...分かったわ...ちゃんと選ぶ...」
「最初からそうしてればいいんだよ…
あ、あと飲み物も選んどけ~」
数分して無難にオニギリ3つと牛乳(500ml)を持ってきた。
俺はそれを受け取りすぐ近くのレジに、自分と姉の分の弁当とお茶を二本、あとカンナの物を置き購入した。
☆
12:20
(さすがにする事が無さすぎでつまらない…)
新幹線にのってそろそろ二時間。
実家まで結構距離があるのだ...
女子二人は乗ってすぐにご飯を食べて、カンナは姉の肩に頭を乗せその上に姉は頭を乗せてぐっすり寝ている。
(カンナも姉ちゃんも普通の子だったら可愛い女の子なのにな…)
「ムニャ…ムニャ…」
(暇だ…)
そんなことばかり考えてボーッと
していたら、着いてしまった。
そして、寝ぼけた二人を起こすのに何度ツッコミを入れたことか…
☆
16:20
新幹線を降り、電車で12分そして徒歩で20分歩いてやっと着いた。
すでに空は赤く染まり、少し闇がかかりはじめ、徐々に寒さがましてきた。
古い木造建築の引き戸の前に立ってインターホンを押した。
ピンポーン
「はーい。」
結構古い家なので床は結構軋むし、音も外まで響く。
けれど、家の周りのは畑ばかりなので家と家までの距離が結構広く、近所迷惑になることはない。
「いらっしゃい。待ってたわよ。園花ちゃんと夢渡くん。」
「こんにちわコヨミおばちゃん」
「こんにちわ。」
久しぶりなので恥ずかしくてあまり声がでない…
「あら、大きくなっちゃったわね~」
「もう3年も会ってないものね。」
そう言えば最後に会ったの小6の頃だったな....
その時は皆一緒で結構楽しかったな....
「おう、ゆめと!」
玄関入ってすぐの襖の隙間から白髪短髪でちょっと日焼けした顔の叔父さんがひょっこりでてき。
「久し振りおじいちゃん。」
「随分と大きくなったなー!まあまだまだだがな!!」
凄くフレンドリーで昇みたいで絡みやすい。
「で、美咲は?」
美咲は自分の母さんで今だどこにいるか見当がつかない...
「ほら、言ったでしょおじいちゃん。あの子今海外にいるって。」
「あの不良娘。もう3年もたつのに顔を見せずに....」
(やっぱり親なんだな~)
「ところでゆめと!そのとなりのべっぴんな小学生はだれだ?」
「え?」
(そういえばこいつの言い訳考えてなかったわ!!)
「.....ゆめの子供...」
「はぁああああ!?」
「あら!」
「お、誰とやったんだ?」
「ちょっと待てい!」
「...最近育児放棄ぎみ...」
「さっきのこと引きずるな!!」
「あら、そうなの。」
「育児放棄はよくないぞ。」
「って真に受けないでよ!って何でそんなに落ち着いてるんだよ!?」
「だってねえ。」
「生きてるうちにひい孫の顔を見れることなんて珍しいじゃねえか。」
「そうだな!」
「でね、本当は知ってるのよ。」
「え?」
「だって、電話で園花ちゃんが事情を言ったのよ。」
「あの不良娘の隠し子だとよ。」
「え?」
(なるほど....お母さんには悪いけど....ナイス姉ちゃん!!)
テレパシーかどうか分からないが伝わったらしく、こっちを向いてグットサインをしていた。
「まぁ、孫がたくさんいるってのはいいこった。」
「そうね~」
(この夫婦、娘が浮気して隠し子まで作ってたこと気にしないのかよ...)
「こんな所で立ってねえで入ってこい。」
(会話を長くしといてよくいうぜ。)
「じゃ、おじゃましま~す。」
「...おじゃまします。」
「おじゃまします。」
「「いらっしゃい。」」
仲良い夫婦だな....
次回は4月15日くらいかな




