#7 ありがとう
「クレープ....美味しかったぞ....」
「なんで今そんなこと....」
(なんで今?....)
「お腹空いてきたから、さっさと倒しちゃっていい〜?」
「あ。」
(クレープ....!?)
バナナのみ残ったクレープの紙をいつのまにか左手に握っていた。
ユキエが始めに攻めに行ったときに渡されていたようだ。
(そうだ、あいつはこのために!)
しかし、すべての猿が本当にバナナが好きとは限らないんじゃ…なんてことは今考えてる場合ではない、一か八かだ。
「おい!猿!」
「え?私のこと?」
「大好物のバナナだぞー」
「え?どこ!?」
「ほーら!こっちだ!」
手に持っていたバナナづくしの容器をちらつかせた。
グゥ〜
彼女がバナナに気づいた途端、お腹の虫の声が聞こえた。
「って、お前が腹空かせてどうするんだよ!?」
ユキエのお腹の虫だった....
「ははは....」
枯れてしまった喉から苦笑いのような声が聞こえた。
「バナナ!?」
(猿が反応してくれたからいいか。)
「餌につれられるな!?」
ツンツン頭は命令した。
(っち、邪魔するなよ〜)
「だって〜バナナだもん!!」
(よし、いいぞ。このまま....)
キラキラした彼女の目には俺の持っているバナナがちょっとはみ出た容器しか見えていないのだろう。
しまいには、口元からヨダレが垂れてる。
しかし、まだユキエの首を絞めてる手は離れない。
「ほら〜 、美味しいぞ〜。」
誘惑するかのように、容器のバナナ一切れを自分の口に運び、3回ほど噛んで飲み込んだ。
「ああ〜」
物欲しそうな顔をしながらこちらを見る。
「ミヤビ!バナナなら後でいくらでもやる!」
「ほんとに!?」
(ック!邪魔しやがって!なら....)
「う〜ん!!このバナナはクレープで使われたチョコソースとホイップクリームが絡み付いてて、バナナの美味しさが引きったってて美味しい〜」
「ジュルル」
「ミヤビ!」
男は叫び、猿女はそれに反応した。
「っは!?」
(早くしないとユキエが死ぬ....一かばちか....)
「あーあ!もう飽きちゃったし捨てちゃお〜」
「ああ〜」
犬に木の枝を投げるときとかのように、彼女にバナナの入った容器に興味を持たせるように、ちらつかせて....
「ポイ!」
そんな効果音を口で発し、思いっきり投げた。
投げた容器はバナナが一個落ちずに綺麗に男の上を越えた。
余りコントロールはないが、男のいた方に投げられたのでよし。
「もったいなよ!!」
彼女はやっとユキエの首から手を離し
、バナナの容器に飛び付いた。そして男と衝突しないように空中で前転を決め、着地。
(軽業すげー、
あ!スカートの中が見える、見えるぞおぉぉ!!
....ほんとにノーパンじゃん....)
何故だがガッカリした.....やっぱりパンツの方が興奮するのかなと自分の趣味を疑ってしまった...。
「おいっミヤビ!!」
男は自分の方に飛んできた彼女に驚いていた。
(よし、今だ!!)
体制を崩した男性に飛びついた。
「て、てめえ。」
つき倒された男の手からナイフが離れ、地面に転がり落ちた。
「お、おいし〜!」
その先には空中でで取ったバナナの入った容器を猿が頬張っていた。
「何をする!?」
「漁らせてもらうよ」
男のポケットに手を突っ込み、髪飾りを探した....
(よし、これか?)
丸い形をした物の感触がした。
(これが鈴の部分か....)
「グフッ!!」
突然腹に強い衝撃を受け突き飛ばされた....
そして地面に数回叩きつけられながら、転がった....
男は立ち上がり、ズボンをはたいて言った。
「くそ、油断した。」
「ウウッ....」
(なんだよこいつら....どこにそんな力があるんだよ。)
「...まぁいいか....」
「なんだ?」
「取り返したからな!!」
握っていた手を開いて、見てみた....
握られていたのは鈴ではなく、ユキエの心読を妨害していたという黒いビー玉のような玉だ。
「あ....ああああああ!」
この叫び声は男のものでなければ、俺のものでもなかった。
ユキエの叫び声だ 。
「ユキエ!?」
「あ、頭があ!頭が痛い!!」
痛みで目をさましたユキエは頭を抱えながらこちらに向かって言った 。
「それを....壊すのじゃ!!」
「え、これ?」
「ウウッ!頭が.....」
(この黒いたまが..)
黒い玉を地面に叩きつけた。
あっさり砕けてくれた。
「これで、いいのか?」
「うむ....」
再度砕けた玉を見たが、砕けた玉は黒くなく、透明に透き通っていた。
「クソ.....まぁいい。」
「そうだ!髪飾りはこっちが持ってるもん。」
「....」
「どうする?ユキエ。」
「....」
目を瞑って返事をくれない。
「どうする?」
「分かった、お主らに協力しよう。」
「おい、いいのか? 」
「もう良い....」
「ッチ、心を読みやがったか....まぁいい、殺す道を選んだらそのとなりにいる変態も殺さなくてはならなかったからな....」
「なんで俺?それに、なんでこんな狐に協力を求めてるんだ?」
「こんなとはなんじゃ....」
「英くんの望みを叶えるためなんだよ〜」
「その望みって?」
「教える必要は無い。」
「こいつもユキエの体目当てか!?」
「英くん本当!?」
「こんなバカに耳を貸すな。」
「そうだよね〜、だって英くんは私の物だもんね〜。」
「うるさい。」
「あとひとつ、なんで俺も殺されなくちゃならないんだ?」
「殺人現場の目撃者になるからなんじゃないの〜?」
「なるほど。じゃあ、もう関わんない方がいいな 。」
「いや、無理だ。お前は避けることのできない物を持っちゃってる。だから、お前も協力しなくてはならなくなった。」
「え、どういうことだよ...」
「詳しいことはずっと前から気がついている隣の狐にでも聞け。」
「ユキエ?」
「俺らは報告に行かなくてはいけないからさっさと終わらせる。
ほら、髪飾りだ。」
男はポケットから髪飾りをだし、ユキエの軽く投げ、それをユキエが片手でキャッチし、その髪飾りを確認する。
「別に普通の色でもいいだろ?」
「うむ。」
(なんの話しだ?)
「じゃ。」
「じゃあねー。」
「え、協力ってのは?」
「時が来たらまた会いに来るそうじゃ。」
「そうか...」
二人は暗闇の中には消えていった。
☆
その後、狐の姿に戻ったユキエを連れて一度家に戻り、自転車にのり霧狐山に連れ戻した。
☆
21:20
ベットに横たわり、ユキエが言った言葉が頭の中で駆け巡っていた。
(俺が能力を強化する能力を持っているのか....)
「能力抑制の阻止?....」
今一理解できないず、今日あったことが夢だと思いそのまま眠りについた。
☆
12月27日
6:20
ピンポーン
朝早くに家のベルにより、目が覚めてしまった。
「は〜い」
ぼやけた視界のなか、いつ帰ってきたか分からない母の声が聞こえた。
「あら、かわいい子ね。どちらさん?」
「朝早くにすまぬ。昇に用があっての。」
聞き覚えのある声が聞こえた。
「あら、昇の彼女さんかしら〜?」
「違う、知り合いと言ったところじゃ。」
それにその年寄り染みたしゃべり方....
「まぁ、上がっちゃって〜。昇は二階の」
「大丈夫じゃ。知っておる。」
(やっぱり...ユキエか!)
意識がはっきりして、ベットから降りた。
「え?始めてなのになんで?」
「実は昨日....あの男に無理矢理...」
急いで階段を降りた。
「無理矢理?」
「連れ込まれ」
「だあああああああ!」
叫びながら、ユキエの手を握り玄関から出ようとした。
「昇?」
「あ、おはよう母さん。ちょっと話があるから出掛ける。」
そう言って、家をでた。
「青春ね〜、けどパジャマのままでいいのかしら?」
☆
6:25
近くの砂場しかない小さな公園につれていった。
まだ朝早いので、犬と散歩しているおじさんしか見かけなかった。
「朝早くにからなんだよ。なんだ、俺の事が恋しくなっちゃった?母さんがいない時ならいつでも抱いてあげるよ。いや、抱かせてくれ。」
「話が反れとるぞ。」
「すまんすまん。」
「お主に話すことがあっての。」
「で、内容は?」
「お主との約束じゃ。」
「あ、そういえば髪飾りを取り戻したら俺の童貞を奪ってくれるんだっけ?」
「帰ってよいか?」
「あー。冗談冗談。で、俺の悩みを解決してくれるんだっけ?」
「そんなところじゃ、わしから見たらお主はただ変態じゃ。」
「....それだけ?」
「それだけじゃ。」
「いや、それは自覚してる。...そうじゃなくてさ、自覚できていない俺自身の心を読むんだろ?」
「そんなの知るか。」
「え、ええええ!?」
「なんじゃ、不満か?」
「ならわざわざ、いいに来なくてもいいじゃん。」
「はぁ〜。めんどくさいやつじゃ。」
「てかさ、俺の能力を使ってないのになんで擬人化だっけ?それをコントロールできてるんだ?」
「それは、髪飾りの鈴じゃ。」
「鈴はもとからあったものじゃなかったのか」
「あの何でも作ってしまうやつが作ったのじゃ。」
「ふーん....」
(こいつの体に触る必要がなくなっちゃうのか....残念...)
「....まぁ、手を繋ぐぐらいなら....」
「ん?何?」
「何でもない。では、ワシももう帰るぞ。」
「あ、うん。送ってかなくていいのか?」
「必要ない。お主は学校があるじゃろ。」
「いや、時間ならまだあるし...」
「大丈夫じゃ。では、また遊びに連れていってくれるのを待っとるぞ」
「結局あれはただの遊びだったのかよ....」
「お主はあのときもう一度行きたいと思ってたじゃろ。」
ニヤニヤした顔がまた可愛いのだろう。
「分かった分かった。けど今度はおごらないぞ。」
「しょうがないの〜。じゃあ、さよならじゃ。」
「おう、じゃあな。」
「あ、そうそう。」
「まだなにかあるの?」
「相談するならお主の親友とやらにでもすれば良い。」
「なんだよ、答えを知ってたのかよ...」
「さらばじゃ。」
「おう。」
(またいつでも来いよ。けど受験間近はやめてくれよ....)
「わかっとる。」
そしてユキエは最高の笑顔でこう言った。
「ありがとう」
☆
8:04
学校につき教室に行く途中、夢の後ろ姿を見つけた。
(いつも通り....)
「おっはよ〜ゆめ〜。」
(放課後空いてるか聞くか....)
「おはよ。 あ、そうだ前に借りてたビデオ...」
「ビデオ? 」
話しの主導権を握られてしまった。
「・・・あ、ああ。 去年貸したやつか!そっかー。無くしたと思ってたよ。」
「へー。じゃあ、返すね。」
わざわざ持ってきてくれたらしい。
(けどちょうどよかった、最近見たくなっちゃったしな....)
「おう。返せ返せ。」
ゆめは手にもっていたフ[?]ンダー[?]の犬と書かれたパッケージのビデオケースを廊下に叩きつけ、更に踏み潰した。
(あ!?)
「ああああああああ!俺の大事なコレクションがあああ!!」
夢はスルーして教室に入ろうとして、ドアを開け2次元女青野とご対面していた。
(クソー俺のコレクション壊しやがって...
なんかイチャイチャしてるじゃん....
お前の青春を邪魔してやる〜
って、今は我慢だ.....
取り合えずこれからはユキエをオカズにして...
じゃなくて、今日空いてるか....)
ちょうど青野が夢をナンパしているところだった。
「あ、俺も行く行く!」
「立ち直り早いな!」
けれど、夢は用事あるとのことで放課後は時間がないと....
「荷物片したいから、そこをどいてくれるとありがたいんだが。」
(今日のゆめ、なんか冷たいな....)
「あ、うん。ゴメン....」
ゆめは自分の席に行き、引き出しの整理などを始めた。
「女の臭いがする....」
「ん?青野なんか言った?」
「うっさい、何でもない。」
(こいつまで冷たいよ、俺にはいつもの事かな。
まぁいいか....また今度聞こう。)




